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2026年版「世界を変える10大技術」から漏れた候補4つ
Stephanie Arnett/MIT Technology Review | Getty Images
4 technologies that didn’t make our 2026 breakthroughs list

2026年版「世界を変える10大技術」から漏れた候補4つ

MITテクノロジーレビューが来月発表する「世界を変える10大技術2026版」。その選考過程で候補にあがりながら、選考から漏れた4つの技術を先行して紹介しよう。 by Amy Nordrum2025.12.19

長年の読者であれば、MITテクノロジーレビューが毎年、未来を形作ると考える10の画期的技術を「世界を変える10大技術(ブレークスルー・テクノロジー10)」として選出していることはご存じだろう(2025年版はこちら)。この特集の制作はほとんどが楽しく、常に魅力的な仕事ではあるが、時には非常に困難な作業でもある。

編集者は数十のアイデアを提案し、それぞれのアイデアが持つ価値を綿密に検討して議論する。どれが最も幅広く影響を与えるか、過去に取り上げたものと似すぎていないか、最近の進歩が実際に長期的な成功につながるかについて、どれほど確信を持てるかを悩む。その過程では活発な議論を何度も繰り返す。

2026年のリストは1月に発表する予定なので、楽しみにお待ちいただきたい。その間に、私たちの意思決定プロセスを垣間見る窓として、今年の選考で選外となった候補から一部の技術を紹介したい。

これら4つの技術は2026年の「世界を変える10大技術」には掲載されないが、どれも慎重に検討されたものであり、読者の皆さんに知っていただく価値があると考えている。

男性用避妊薬

活発な性欲を持っているが妊娠は防ぎたいという男性向けの新しい避妊法がいくつか開発中だ。コンドームや精管切除術の代替手段を提供する可能性がある。

これらの避妊法のうち2つが、コントラライン(Contraline)という企業によって臨床試験で検証されている。1つは男性が精子産生を抑制するために肩や上腕に1日1回塗るジェルで、もう1つは射精時に精子をブロックするよう設計された器具である(コントララインのケビン・アイゼンフラッツCEOは最近、本誌の35歳未満のイノベーターの1人に選ばれた)。男性が1日1回服用すれば済む錠剤も、ユアチョイス・セラピューティクス(YourChoice Therapeutics)と初期段階の試験が進行中だ。

この進歩を見るのは興奮するが、これらの避妊法のいずれかが臨床試験を通過するまで、すべてが順調に進んだとしても、まだ数年かかるだろう。

世界モデル

世界モデルはここ数カ月で人工知能(AI)の新たな注目株となった。定義が難しいが、これらのモデルは一般的に動画や空間データで訓練され、簡単なプロンプトから3D仮想世界を生成することを目指している。生成したモデルは、我々が住む実際の世界を支配する重力などの基本原理を反映している。結果はゲーム設計に使用されたり、ロボットが周囲の物理的環境を理解するのを助けることでより有能にするために使用される可能性がある。

世界モデルの定義については、人によって若干の意見の相違がある。にもかかわらず、この考え方は確実に勢いを増している。ヤン・ルカンフェイフェイ・リーを含む著名なAI研究者たちが世界モデルを開発する企業を立ち上げており、リーのスタートアップであるワールド・ラボ(World Labs)は先月最初のバージョンをリリースした。そしてグーグルは今年初めにGenie 3(ジーニー3)のリリースで大きな話題を呼んだ。

世界モデルはAI業界にとって来年の刺激的な新たなフロンティアとなりそうだが、画期的技術と見なすには時期尚早と判断した。しかし、その動向には間違いなく注目すべきである。

人間であることの証明(Proof of personhood )

AIのおかげで、ネット上で誰が、何が本物かを見分けることがより困難になっている。現在では、多くの人が個人のパソコン上で、非常に少ない訓練データで、自分自身や知人の超リアルなデジタルアバターを作成できる。そしてAIエージェントが人々の代理で行動するためにインターネット上に放たれている。

これらすべてが「人間であることの証明」への関心を高めており、ネット上で重要なことをする際に、あなたが実際に本物の人間であることを検証する方法を提供する可能性がある。

例えば本誌はオープンAI(OpenAI)、マイクロソフト、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)が共同で取り組んでいるデジタルトークンの作成について報じている。これを取得するには、まず政府機関や自治体の窓口などに行き、身分証明書を提示する。その後、トークンがあなたの端末にインストールされ、銀行口座にログインしたいときなどに、暗号プロトコルがトークンが本物であることを検証し、あなたが名乗っている人物その人であることを確認する。

このやり方が普及するかどうかはさておき、編集部のメンバーの大半が、未来のインターネットにはこのような仕組みが必要になると同意している。しかし現在、多くの競合する身元確認プロジェクトの開発が、それぞれ進行段階は異なるが進んでいる。その1つがサム・アルトマンのスタートアップであるツールズ・フォー・ヒューマニティ(Tools for Humanity)によるワールドID(World ID)で、生体認証にひねりを加えたものである。

これらの取り組みが転換点に達するか、1つが明確な勝者として現れたら(おそらく普遍的な標準となるか、主要プラットフォームに統合されることによって)、このアイデアを再検討する時が来たと分かるだろう。

世界最高齢の赤ちゃん

今年7月、記録的な赤ちゃんのニュースを本誌のジェシカ・ヘンゼロー記者が報じた。その乳児は30年以上保存されていた胚から発育し、「最高齢の赤ちゃん」という奇妙な称号を得た。

この奇妙な新記録は、冷凍胚のより安全な解凍方法などの体外受精(IVF)の進歩によるところが大きい。しかし、おそらくより大きな要因は、ドナーと希望する両親を結びつける「胚養子縁組」機関の台頭である。これらの機関で働く人々は、数十年前の胚を利用することにより積極的である場合がある。

この実践は、現在保存バンクで冷凍されている数百万の余剰胚の一部の行き先を見付けるのに役立つ可能性がある。しかし、この最近の成果は突然の技術的改善だけでなく、社会的規範の変化によってもたらされたものだ。そのため、画期的技術の定義には当てはまらなかった。それでも非常に印象的ではある。

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エイミー・ノードラム [Amy Nordrum]米国版 企画編集者
ニューヨークを拠点とするMITテクノロジーレビューの企画編集者。新興技術とそれが私たちの世界をどう形作るのか、独創的なアイデアや意見を発掘して発表することに注力している。以前は、IEEE Spectrumのニュース責任者を務めていた。
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