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マツダ・毛籠CEOが語る、
社会実装都市・ひろしまの勝算
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Interview with Masahiro Moro, Mazda CEO

マツダ・毛籠CEOが語る、
社会実装都市・ひろしまの勝算

「100年に一度の変革期」といわれる自動車産業。マツダが見据えるのは単なるハードの製造ではない。社長の毛籠勝弘が語るのは、創業以来の「あくなき挑戦」を基盤とした人間中心の未来である。そこには、AIを「運転を奪う存在」ではなく「能力を拡張する相棒」と定義する逆転の発想や、微細藻類由来のカーボンニュートラル燃料と組み合わせた内燃機関で大気中のCO2を減らすことへの執念がある。広島という地から、関わるすべての人を前向きにする「ウェルビーイング」をいかに実現するか。ロードスターが象徴する熱狂から地域課題の解決まで、マツダが描く未来の羅針盤を詳しく見ていく。 by MIT Technology Review Brand Studio2026.05.29Sponsored

瓦礫の中で生まれた助け合いのDNA

早田吉伸(以下、早田) 本日はマツダの本社にお邪魔しております。次世代のモビリティ社会や地方創生を構想するうえで、広島という街とマツダの歩みを語ることは避けて通れません。特に戦後復興期の歴史を紐解くと、復興を支えた会社の1つがマツダであり、企業と地域の結びつきが密接で、ある種の公共性を帯びているように感じます。

毛籠勝弘(以下、毛籠) 仰るとおりです。広島は世界でも稀な歴史を持つ都市であり、マツダはずっとこの地域とともに成長してきました。1945年の原爆投下の際、我々の本社屋は幸運にも爆風を免れました。そこに県庁や警察、新聞社の方々が来られ、実際の活動拠点となったのです。混沌とした中でどうやって復興していくかを一生懸命議論し、自分の会社よりもこの街を復興させるんだというところで協力し合うという思いが、当時の人たちにあったんだと感じています。

当時、希望があるのかないのかすら分からない中で、自社の再建よりも街を復興させるためにさまざまな方々と協力し合った体験は、我々の会社のDNAとして深く受け継がれています。

毛籠勝弘(もろ まさひろ)
マツダ株式会社代表取締役社長 兼 CEO
京都出身。1983年入社後、国内外の営業・事業部門を任し、北米事業などグローバル展開を牽引。2023年よ現職。広島を拠点に「走る歓び」を軸とした価値創造と持続可能なモビリティ社会の実現を推進している。

早田 自動車のエンジニアが、他分野である新聞社の輪転機を直したというエピソードは、技術がいかに社会インフラを支えるかを象徴しています。

毛籠 中国新聞社の方から伺った話ですが、戦災で輪転機が壊れて使えなくなったため、疎開させていたものを持ってきて、私どもの技術者と一緒に昼夜を問わず動かし、市民のみなさんに必要な情報をお届けしたそうです。原爆投下からわずか3日後には路面電車が走り、電気が通りました。我々も4カ月後には三輪トラックの生産を再開しましたが、鉄板がないため呉から分けてもらい、タイヤは久留米のブリヂストンさんに提供いただきました。混沌とした中で、1人1人ができる役割を一生懸命やることが何より大事でした。この助け合いの精神は、間違いなく今の広島の地に息づいています。

マツダを選んだ原点モータリゼーションの原体験

早田 グローバル企業のトップとして采配を振るう毛籠社長ご自身が、なぜこのマツダという環境、そして自動車産業に飛び込んだのか、その原体験について伺わせてください。

毛籠 実は、父がマツダの販売店に勤めており、幼い頃から家には「R360クーペ」から始まる歴代の車がありました。日本のモータリゼーションの隆盛とともに、我が家には2年ごとに新しい車が来て、家族旅行も車で行くことが多かったのです。

早田 どのような幼少期を過ごされたのでしょうか。

早田吉伸(そうだ よしのぶ)
叡啓大学教授
NECにて事業開発産学官学連携、政府出向などを経験後、大学へ転身。地域と企業、教育を繋ぐ共創プロジェクトを多数手ける。社会実装型の学びを軸に、人材育成と地域イベーションの融合を推進している。

毛籠 父は今でいうアウトドア派でして、釣りは川、池、海、湖とあらゆる場所へ行き、さらには猟犬を飼って本格的なハンティングまでする人でした。
そこに幼い頃から連れ回されて育ったのです。そして20歳を過ぎた頃、家族を背負ってやってきた父の生き様を考え、父と同じインダストリー(産業)の土俵に自分も立ってみようと決意しました。ただし、販売ではなくメーカーの側からなら、父とは違った景色が見えるのではないかと思い、当時の東洋工業に入社したのです。ゼミの先生には「トヨタに行け」と言われましたが、家庭内で父が阪神、祖父が南海、私が当時の近鉄ファンと分かれていたこともあり、これ以上、揉めないほうがいいかなと(笑)。

コンパクトな広島の地は意思決定を加速させる

早田 マツダの社長という立場になられて、産業全体を見る目線や解像度に変化はありましたか。自動車産業は今、未曾有の変革期にあります。

毛籠 社長になってもうすぐ3年になりますが、自動車インダストリーの動きだけでなく、政治や世界情勢などが、いったい、自社にどんな影響を与えるかをずっと考え続けています。

早田 地政学的なリスクが高まる中、広島は海や山、島といった自然環境と、100万人規模の都市機能が極めてコンパクトに同居している特異な場所です。これは、製造業にとってどのような意味を持つのでしょうか。

毛籠 非常に機能的な都市だと感じています。マツダの場合、海がすぐそばにあるため、車を作ったらすぐに船に積めるのはサプライチェーン上の大きな利点です。広島は三角州にできた高密度な街ですので、我々の宇品(うじな)の工場は2階建てにするなど、狭い土地を知恵を使って効率的に活用しています。さらに、コロケーション(近接配置)が徹底されているため、私のオフィスから歩いて1~2分で工場を見ることができますし、デザインセンターへも3分程度で行けます。

早田 企画、開発、生産の中枢が物理的に統合されており、意思決定の密度が高いわけですね。

ともに考え、ともに学ぶサプライヤーさんとの「共創」が、イノベーションを生み出しています

毛籠 「現場、現物、現実」で判断するのがものづくりりにおいてもっとも大事ですから、工場で困り事があればすぐ集まって意見交換をします。マツダは大きな中小企業のような風通しの良さがあります。加えて、広島県内には自動車試験場があり、1時間ちょっとでテストコースへ行って実機評価を実施し、その結果をすぐに開発にフィードバックできる。この環境ですべてが完結するのは非常にありがたい強みです。

階層構造を破壊するチーム広島の共創とは

早田 デジタル化が進む現代において、従来のピラミッド型のサプライチェーン構造は限界を迎えていると指摘されています。サプライヤーさんとの関係性も、これまでの発注者と受託者という形から変化しつつあると伺いました。

毛籠 自動車は1台あたり約3万点もの部品を扱う精緻なシステムで、これまでは自動車メーカーが設計仕様を出し、元請けであるティア1のサプライヤーさんに忠実に作っていただくという主従関係が基本でした。しかし、我々はそれを変えようと取り組んでいます。
単に出した図面どおりに作るのではなく、一番最初の企画段階から「どんな価値を作ろうとしているのか」、共通の理解を持っていただくのです。

早田 サプライヤーの持つ専門的知見を、上流工程に直接プラグインしていくというアプローチですね。

毛籠 そのとおりです。何十年もドアやシートを作り続けてきた専門家の方たちには、我々以上に「こういうふうにしたほうがいい」という知見があります。彼らの知見を出していただき、企画段階からともに設計することで、コストが下がり、品質は上がり、納期も短縮されます。何より、エンジニアにとって自分のアイデアが実際のプロダクトになることは無上の喜びで、それが創造力に火をつけるのです。この化学反応が、これまでにないイノベーションを生み出しています。

広島全体を1つの高効率な巨大工場に変える

早田 その共創を具体的に機能させるための仕組みについて教えてください。
単なるスローガンではなく、実体を伴ったアクションが必要不可欠ですが。

毛籠 「MPS(マツダ・プロダクション・システム)本部」という組織を作りました。我々のエンジニアが直接サプライヤーさんに出かけていき、現場で困り事や問題点を話し合い、ともに工程改善に取り組む活動です。マツダだけが自社のラインの生産効率を上げても、サプライヤーさんが上がらなければ、サプライチェーン全体で淀みが生まれてしまいます。

マツダの本社工場の全景(写真左)。市内を流れる川の三角州の中に、本社機能と生産工場がコンパクトにまとまっている。日本能率協会が主催する第12回 202GOOD FACTORY賞で、ものづくり人材育成貢献賞を受賞。人材育成に対して組織的な取組が評価されている。

早田 自社のリソース(工数)を外に割くというのは、短期的・個社的な経済合理性からは逆行するように見えますが、全体最適の視点で見たときには極めて重要ですね。

毛籠 これはサプライヤーさんの仕事ですよねっていうことではなくて、やっぱり自分たちの職場の延長であるというような考え方で、広島全体で生産効率を上げようよ、っていうようなことなんです。個社最適や個別最適だけをやっていると、個の力の足し算になってしまいます。これを掛け算にするためには、全体最適を考える必要があります。我々の生産部隊にも「君たちは自社の工程でベストを尽くすだけでなく、お取引先も含めた広島全体のものづくりを良くするために仕事をしてほしい」と伝えています。現場でワイワイと困り事を解決すれば盛り上がりますし、お互いの理解が進みます。こういうことも、物理的・心理的距離が近い広島という土壌があるからこそ可能になるのです。

デジタル全盛期にこそ輝く手触り感と暗黙知の価値

早田 AIによる自動生成やデジタルツインがもてはやされていますが、機械化が進む時代になればなるほど、人でしかできないものや暗黙知、創意工夫といった価値が重要になってくると思います。

毛籠 まさにそのとおりです。定型的なものばかりやっていると、AIやロボティクスでいいのではないかとなります。しかしマツダは、「人の温かい手で作ること」や、「気概」というものを大切にしています。例えば、デザインにおいても、今やデジタル上で簡単にできてしまいますが、我々は硬い粘土を何回も何回も削って、人の手で3Dフォルムを作り出すプロセスに徹底的にこだわっています。このものづくりに対する誇りは失いたくないですね。

早田 実体経済やハードウェアを作っている現場の重要性が、デジタル化の反動として再び高まっているのですね。

毛籠 東京にソフトウェア拠点を設けた際、ゲーム業界などから新しいエンジニアがたくさん来ました。彼らになぜ自動車メーカーに来たのかと問うと、「僕はもうバーチャルはいいです、本物のリアルなものを作りたくて来ました」と答える方が結構多いのです。デジタルが極まるほど、人間は本物のリアルな体験を渇望します。我々のような規模の会社は、このリアルな手触り感にフォーカスし続ける必要があると考えています。

究極の制約が生んだ熱狂と構想力

早田 万人に求められる車を作る必要はなく、価値観や世界観をどう伝えていくかが重要ですね。その象徴が「ロードスター」だと思います。

毛籠 ロードスターは2人乗りのオープンスポーツカーで、荷物もあまり積めないなど、ある意味で制約だらけの車です。しかし、だからこそ純粋な「走る歓び」を提供でき、熱狂的なファンがたくさんいます。日本でもファンの方が自主的にファンミーティングを開催し、2,000台、3,000台と車が集まります。そういった車を作り続けて良かったと思います。

毎年、ゴールデンウィークに開催される「ひろしまフラワーフェスティバル」では平和大通りをロードスターがパレードするのが、風物詩となっている。

早田 広島という場所自体も、ある意味では「制約」として捉えられるのでしょうか。

毛籠 マツダは規模も大きくなく、地方都市にある自動車産業としていろんな制約だらけなのは事実です。しかし、制約があるからこそ構想力を使うのです。人が多くない状況でいかに開発を良くするかという制約の中で、我々は「モデルベース開発」という手法を発展させてきました。

我々の組織カルチャーとして深く染み付いているのは、「あくなき挑戦」という精神です。これはかつてロータリーエンジンの量産化やSKYACTIV技術へと繋がり、現在ではそのロータリーエンジンを電動化時代におけるエンジンとして復活させる取り組みにも結実しています。代々、社長室には「一隅を照らす」という言葉がかかっています。今いるところでベストを尽くすという考え方であり、制約を構想力に変えてブレイクスルーしていくことが我々の生きる術なのです。

早田 観光振興の観点でも、ロードスターのような車には大きな可能性があります。例えば、広島駅前のカーシェアのスペースにロードスターを50台並べ、そこから世羅や尾道、しまなみ海道へと向かってもらう。単なる移動手段としてではなく、瀬戸内の空気や気温差をダイレクトに感じる体験を提供するのです。これこそが、地方都市における最高の体験価値になるのではないでしょうか。

毛籠 仰るとおりです。一般的には移動手段としての経済合理性が求められますが、少し毛色の違ったものがあってもおもしろい。広島を訪れた方々に「せっかくだからマツダの地元でロードスターに乗ってみよう」と思っていただけるような体験価値の提供は、マーケティングのあり方としても非常に重要になってくるでしょう。ユーザー自身がメディアとなって発信し、共感の輪が広がっていくような展開を描きたいですね。

モビリティの未来と相棒としてのAI

早田 自動車が「モビリティ産業」へとパラダイムシフトする中、自動運転やAIといったテクノロジーを、マツダはどのような形で社会実装していくのでしょうか。

毛籠 自動運転技術には、過疎地などで公共交通機関の代わりとして地域の移動を支えるという側面もあります。一方でマツダが主に考えているのは、人が手放しで運転するのではなく、人が運転することをきちんとモニターし、異常事態が発生したときにオーバーライドして安全に停止するシステムです。年齢による機能の衰えなどをシステム側でサポートし、常に安全に運転できる環境を提供することで、いつまでも「走る歓び」を楽しんでいただくための技術です。

早田 人間の「運転する」という行為の主体性を奪わず、能力を拡張するアプローチですね。

毛籠 ええ。また、今のデジタルネイティブの若い世代は、我々とは車に対する感じ方がまったく違います。彼らは「1人で乗ると寂しい」と感じ、車が自分の相棒(バディ)のように対話をしてくれることを望んでいます。そういった共感型のAIが車に入っていくのが当たり前の時代になってくるでしょう。

ジャパンモビリティショー2025で発表されたコンセプトモデルは、共感型AIを搭載し、ドライバーとの会話するなかでルートなどを提案する。

内燃機関の限界突破とカーボンネガティブ

早田 カーボンニュートラルといった社会課題への技術的なアプローチについても伺いたいです。ここにもマツダならではの挑戦があるように見受けられます。

毛籠 CO₂を抑制するのではなく、減らす技術を考えています。電気自動車は走っている間は排出しませんが、作るときや廃棄するときには出てしまいます。一方で内燃機関は走っている時にCO₂を出しますが、微細藻類由来のカーボンニュートラル燃料を使い、さらに排気ガスからCO₂を吸収する「Mazda Mobile Carbon Capture(マツダ・モバイル・カーボン・キャプチャー)」というシステムを使うと、合計で“110%”減らせる。つまりCO₂が減る計算になります。内燃機関でも、まだまだできるというエンジニアの心意気ですね。

車以外にも、我々は塗装部品の防錆性能を数秒で評価できる技術を持っています。これは日本の老朽化したインフラ診断などにすぐに使えます。

また、モデルベース開発の考え方を用いれば、広島の中山間地域の農地でのビジネスがどう成り立つかを計算することもできます。我々単独で解決できるわけではありませんが、社会問題に関心の高い若い人やスタートアップの人たちと組むことで、新しい社会問題を解決するビジネスとして育ってくるはずです。

早田 自動車産業で培われたノウハウが、異業種である一次産業などの課題解決にも直結するというのは、まさに社会実装の最前線ですね。

平和都市・広島とクオリティオブライフ

早田 最後に、2030年、そしてその先の未来に向けて、マツダと広島という都市がどのような未来を歩んでいくのか、大きな展望をお聞かせください。

毛籠 マツダが存在している理由に立ち戻ると、やはり平和都市・広島が復興した原動力は人であったということです。平和を象徴するものは人々の笑顔であり、我々のロードスターも平和でなければありえません。我々はブランドパーパスとして「前向きに今を生きる人の輪を広げる」と掲げており、そこには車の文字は入っていません。
商品やブランド体験を通じて、人々にそういったものを提供したいのです。

自動車産業の開発ノウハウは「社会課題の解決」にも直結するんですね

早田 まさに「ウェルビーイングの社会実装」ですね。

毛籠 はい。一番大事なのはクオリティオブライフであり、人が生き生きと豊かな生活を送れるウェルビーイングな状態です。現在は脳感性科学の研究も一生懸命やっており、認知判断能力を長く良い状態にして、人々が長く人生を楽しめる技術を開発しています。「マツダがある広島に行けば元気な生活ができる」と思っていただけるとうれしいですね。

早田 マツダの車があることで毎日がハッピーになり、エネルギーをもらえる。広島がそういう場所になることを強く感じました。本日はすばらしいお話をありがとうございました。

毛籠 ありがとうございました。

(制作協力=叡啓大学

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