AI抵抗運動:企業が描く「バラ色の未来」への反発
ロンドンでは過去最大規模の抗議行進、米国では超党派連合が結成、データセンターの開発が阻止された。AI反対運動は今、世界規模で形を成しつつある。 by Michelle Kim2026.04.30
- この記事の3つのポイント
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- 軍事利用・雇用喪失・電気代高騰など多岐にわたるAI反対運動が世界規模で拡大している
- 米国人の4分の3がAIを脅威と見なし、実績なき大規模解雇や青少年への悪影響が不安を増幅させている
- 一部の政策変更や開発阻止の成果を生みつつも、AI企業主導の未来像への市民の異議申し立ては続いている
人工知能(AI)企業が構築しようとしている未来に、誰もが住みたいと思っているわけではないことが明らかになってきた。データセンターによる電気料金の高騰、雇用の喪失、チャットボットが10代の若者のメンタルヘルスに与える影響、軍によるAIの利用、著作権侵害など、さまざまな懸念についてあらゆる立場の人々が声高に訴えている。
このAI反対運動は世界各地で形を成しつつある。2026年2月には、数百人がロンドンにあるオープンAI(OpenAI)、グーグル・ディープマインド(Google DeepMind)、メタ(Meta)の本社前を行進し、AIに対する抗議活動としては過去最大規模となった。また米国では3月、MAGA(Make America Great Again、米国を再び偉大に)系共和党員、民主社会主義者、労働活動家、教会指導者という異色の連合が「人間優先のAI宣言(Pro-Human AI Declaration)」に署名し、AIは人類に奉仕するものであり、人類に取って代わるものであってはならないという原則を明確に示した。
3月に最大の火種となったのは、軍によるAI技術の利用だった。今年初めにオープンAIが米国防総省と契約を結んだことを受け、ユーザーはChatGPT(チャットGPT)を大量にアンインストールし、抗議者たちはサンフランシスコにあるオープンAIの本社周辺に「安全策はどこにあるのか?」といったメッセージをチョークで書き記した。4月には、テキサス州の男がサンフランシスコにあるオープンAIのサム・アルトマンCEOの自宅に火炎瓶を投げつけた疑いで逮捕され、所持品からはAI批判の文書が見つかった。
この反発は、深い不安を反映している。昨年、ピュー研究所(Pew Research)が実施した世論調査では、米国人の半数が日常生活におけるAIの利用拡大に懸念を示しており、多くの人がAIによって創造的思考力や人間関係を築く能力が損なわれると考えていることが明らかになった。また別の調査では、米国人の4分の3がAIは人類への脅威になりうると懸念していることが示された。
現実的な懸念も存在する。大学の卒業生は就職に苦労するようになっている。また、昨年末に実施された調査では、AIがまだ実質的な経済的価値を生み出していないにもかかわらず、雇用主が先手を打って従業員を解雇していることが示された(ただし、AIはコスト削減のための都合のよい口実に過ぎないと主張する声もある)。2月には、金融テクノロジー企業のブロック(Block)が従業員の40%を削減すると発表した。数週間後には、ソフトウェア企業のアトラシアン(Atlassian)が1600人の削減計画を発表した。従業員はこうした解雇に抗議し、労働組合はより強固な労働者保護を求めて結集している。
保護者たちも警鐘を鳴らしている。チャットボットが10代の若者を自殺や自傷行為に追い込んだとして提起された訴訟が相次いでいる。一部の都市では、保護者が学校でのAI利用に関する2年間の一時停止を求める請願書に署名している。
こうした反発の一部は政策立案にも影響を与えている。ニューヨーク州とカリフォルニア州では、AIコンパニオンボットに対する安全規制が新たに設けられた。一方、アーティストたちは著作権保護をめぐる小さな勝利を積み重ねている。3月には、英国政府がアーティストたちの激しい反発を受け、AI企業が著作権で保護されたコンテンツを許可なくAIモデルの学習に使用できるようにする計画を撤回した。
しかし、最も激しい抵抗の一部は、データセンターが建設されるコミュニティから生まれている。これらの施設が光熱費を押し上げ、汚染をもたらし、農村地帯の土地を侵食しているという懸念が背景にある。米国では、活動家たちが2025年第2四半期に980億ドル相当のデータセンター開発を阻止した。これを受けてトランプ大統領は3月、AI企業の経営幹部から、自社のデータセンターが生み出すエネルギーコストを新規発電所の建設または購入によって賄うという約束を取り付けた。
人々は、AIが自分たちの未来をどのように変えていくかについて、発言権を求めている。そして、AI企業が描く未来のビジョンに、少しずつ亀裂を生じさせ始めている。
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- AIジャーナリズムのためのターベル・センター(Tarbell Center for AI Journalism)の支援を受けて執筆している、MITテクノロジーレビューのAI担当記者。これまでに、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)で労働とテクノロジーをテーマに取材し、フォーリン・ポリシー(Foreign Policy)誌では韓国政治について執筆していた。ジャーナリズムに転身する以前は、米カリフォルニア州で企業弁護士として勤務。