クルーズ船のハンタウイルス感染、パンデミックを心配すべきか?
オランダ船籍のクルーズ船の乗客8人がハンタウイルスに感染し、3人が死亡した。ハンタウイルスとは何なのか、なぜ専門家たちはそれを封じ込められると考えているのか。今、知っておくべきことを一問一答形式でまとめた。 by Jessica Hamzelou2026.05.10
- この記事の3つのポイント
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- クルーズ船でアンデスウイルスの感染者8人が確認され、3人が死亡するアウトブレイクが発生
- アンデスウイルスは濃厚接触を要するため感染拡大リスクは限定的とWHOが判断
- 特異的治療薬・ワクチンは存在せず、CDCの予算削減が米国の感染症対応能力を低下させている
オランダ船籍のクルーズ船に乗船していた8人の乗客が、ネズミによって媒介される希少なウイルスであるハンタウイルスの一種に感染した。そのうち3人が死亡している。クルーズ船がカナリア諸島に入港する準備が進む中、残りの乗客と乗員が安全に下船できるよう計画が最終調整されている。
問題のウイルスは致死率が高いとみられる。今回のアウトブレイクをめぐる重要な疑問への答えと、なぜ専門家たちが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの再来を想定していないのかについて、以下で解説する。
ハンタウイルスとは何か?
ハンタウイルスは、主にげっ歯類に感染するウイルスの一群であり、動物そのものや、その糞、尿、唾液への接触を通じてヒトに感染する可能性がある。げっ歯類には発症しないとみられているが、ヒトに対しては重篤な症状を引き起こすことがある。症状は感染したハンタウイルスの種類によって異なる。南北アメリカ大陸で見られる種は、肺と心臓に影響を及ぼすハンタウイルス心肺症候群を引き起こす可能性があり、致死率は最大50%に達する。
この疾患は2025年、俳優ジーン・ハックマンの妻でピアニストのベッツィ・アラカワの死因となり、大きく報道された。
これまでの感染者数は?
2026年4月6日、MVホンディウス(Hondius)号に乗船していた男性が呼吸器症状を発症した。症状は急速に悪化し、わずか5日後に死亡した。セントヘレナ島で下船した妻も症状を発症し、南アフリカのヨハネスブルクへの飛行中に容体が悪化、翌4月26日に死亡した。南アフリカ国立感染症研究所がこの女性から採取したサンプルを検査し、ハンタウイルス感染を確認した。
4月28日に症状が現れた船内の3人目の患者は5月2日に死亡した。発症した他の4人の乗客は船外に搬送され、1人は南アフリカへ、3人はオランダへ移送された。
8人目はセントヘレナ島で下船後、スイスのチューリッヒで同様の症状を訴えた。ジュネーブ大学病院のチームが、この人物がヒトからヒトへの感染が可能なハンタウイルスの一種であるアンデス(Andes)ウイルスに感染していることを確認した。
次のパンデミックの始まりになる可能性はあるか?
専門家たちはそうは考えていない。今回の状況は、2020年にCOVID-19を引き起こした新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が出現した当時とはまったく異なると強調している。まず、アンデスウイルスは正体不明の新ウイルスではなく、科学者はすでにその特性を把握しており、アルゼンチンはすでに開発済みの診断キットを提供している。
感染経路も異なる。世界保健機関(WHO)の当局者は、ハンタウイルスの感染には、パートナー、同居家族、または医療従事者との接触のような濃厚接触が必要であると強調している。
今回のクルーズ船でのアウトブレイクは「長時間にわたる濃厚接触が生じる特定の閉鎖的な環境」であると、WHOの健康緊急プログラムの警戒・対応局長アブディラフマン・マハムドは5月7日の記者会見で述べた。「加盟国が持つ経験と、各国が講じた措置を踏まえると、これが連鎖的な感染拡大につながることはないと考えています」。
船内に残っている人々はどうなるのか?
残りの乗客全員は客室内に留まるよう求められており、WHOによれば客室は消毒が実施されているという。WHOと欧州疾病予防管理センター(ECDC)の医師や医療専門家が乗船し、全乗客・乗員の健康状態を評価している。
現時点では他に症状を発症した乗客はいないと、WHO流行・パンデミック管理担当のマリア・ファン・ケルクホーフェ代行局長が記者会見で述べた。これは「良い兆候」だとしながらも、アンデスウイルスの潜伏期間は約6週間と長く、乗客は部屋を出る際にはマスクを着用するよう勧告されていると付け加えた。
同じ会見で、WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェス事務局長は、船長と定期的に連絡を取り合っており、船がカナリア諸島に向けて航行を開始してから「士気が大幅に向上した」との報告を受けていると述べた。
アンデスウイルスについて何が分かっているか?
アンデスウイルスは、ヒトからヒトへの感染が確認されている唯一のハンタウイルスである。その感染は長時間にわたる濃厚な接触に依るとみられる。
約8年前、アルゼンチンでアンデスウイルスのアウトブレイクが発生した。2018年11月から2019年2月にかけて、34件の感染が確認され、11人が死亡した。このアウトブレイクは、症状のある患者が社交的な集まりに参加したことが発端だったとテドロス事務局長は述べた。「現在も同様の状況にあります。閉鎖空間での濃厚接触によるクラスターです」。
2018年のアウトブレイクが34件にとどまったという事実は、ある程度の安心材料になるとテドロス事務局長は示唆した。「公衆衛生上の措置が実施され、すべての国が連帯を示せば、今回のアウトブレイクは限定的なものにとどまると考えています」と述べた。
ハンタウイルスの治療法は?
残念ながら、ハンタウイルスに対する特異的な抗ウイルス薬やワクチンは存在しない。WHOは症状が現れた患者に対して早期の集中治療を推奨している。「これが命を救うことができます」と、WHOのウイルス性出血熱テクニカルリードのアナイス・ルガンは5月7日に述べた。
そもそもどのように感染したのか?
現時点では明らかになっていない。ただ、死亡した夫婦が乗船前にバードウォッチングの旅でアルゼンチン、チリ、ウルグアイを訪れていたことはわかっている。その旅程には、アンデスウイルスを保有するネズミの種が生息することが知られている地域への訪問が含まれていた。WHOはアルゼンチン当局と協力して、この夫婦の旅行中の行動を追跡しようとしている。
ウイルスは船外に広がっているか?
現時点では確認されていない。WHOは「感染疑い例の可能性がある」との報告を受けていると、ファン・ケルクホーフェ代行局長は5月7日のブリーフィングで述べた。その一部は船または乗客との接触歴がある。それぞれの「アラート」については、該当国の保健当局が追跡調査をするという。
米国のWHO脱退は何か影響を及ぼしているか?
米国の5つの州が、クルーズ船から下船した米国人を監視していると発表している。WHO当局者は、米国疾病予防管理センター(CDC)との技術情報の共有は引き続き実施されていると強調している。「状況は以前と変わりません」とテドロス事務局長は述べた。「WHOの使命は世界を安全にすることであり、米国民の安全も同様に望んでいます」。
ただし、トランプ政権による予算削減が、こうした事態に対する米国の備えを万全とは言えない状況に追い込んでいることは指摘しておく価値がある。2025年、クルーズ船における疾病アウトブレイクの予防・管理を担うCDCの船舶衛生プログラムの常勤職員が全員解雇された。CDCへのさらなる予算削減により、公衆衛生の専門家たちは、将来の感染症アウトブレイクへの米国の備えが不十分であることを懸念している。
今後どうなるか?
感染疑い例はすべて保健当局によって監視される。乗客は5月10日にカナリア諸島のテネリフェ島で下船する予定であり、WHOはスペイン政府と協力して、地域住民へのリスクを低く抑えつつ、乗客が尊厳と敬意をもって扱われるよう取り組むとしている。
一方、科学者たちは患者サンプルからウイルスのゲノムを完全に解読する作業を進めている。過去の症例に関与したウイルスと異なる点がないかを調べるためだ。「現時点では、異常な点は見つかっていません」とファン・ケルクホーフェ代行局長は述べた。
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- ジェシカ・ヘンゼロー [Jessica Hamzelou]米国版 生物医学担当上級記者
- 生物医学と生物工学を担当する上級記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、ニューサイエンティスト(New Scientist)誌で健康・医療科学担当記者を務めた。