AIに「夢を見せて」訓練、未知の環境でも動くロボットを作る起業家
ロボットを人の家に送り込むなら、見たことのない間取りや家具に対処できなければならない。現実世界で何度も試行錯誤させる従来の方法では、それは難しい。ダニヤル・ハフナーの答えは、現実を模したAIの中でエージェントに「夢を見させる」ことだ。31歳の彼は今、その手法を人型ロボットに載せようとしている。 by Mat Honan2026.09.09
- この記事の3つのポイント
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- ハフナーは「世界モデル」を用いた強化学習でロボットが未知環境に対応できる技術を開発し、新スタートアップを設立した
- グーグル・ディープマインドで培った「Dreamerシリーズ」はゲームから実機ロボットへと応用範囲を拡大し、技術的優位性を実証してきた
- 現実世界への汎用展開には未知状況への適応能力が鍵であり、同氏の手法はその課題を正面から突破する可能性を持つ
ダニヤル・ハフナーのオフィスは、サンフランシスコのソーマ地区にあるが、中はほとんど空っぽだ。立ち上げたばかりのスタートアップはまだステルスモードで、ドアに社名すら掲げていない。私が訪れた日、そこにいたのはほかに1人だけで、家具もほとんどなかった。しかし、内装の乏しさを補って余りあるほどロボットがいる。さまざまな形や大きさの人型ロボット(ヒューマノイド)が、広々とした空間の中央に並ぶラックから、マリオネットのようにぶら下がっている。
31歳のハフナーは、新しい事業についてまだ多くを語ろうとしないが、訓練中に遭遇したことのない環境でもAIが行動できるようにするという、長年の研究の延長線上にあると説明する。中国から輸入している人型ロボットは、この研究の次なる進化形であり、その物理的な具現化でもある。これまで試したことのない状況に対応できる能力は、ロボットを人間の生活空間に導入するうえで鍵となる。たとえばロボットを人の家に送り込むなら、それまで一度も見たことのない間取りや家具にも対処できなければならない。
これを実現するために、ハフナーは「モデルベース強化学習」と呼ばれる手法を活用している。物理的な現実を模倣するよう設計されたAIモデルである「世界モデル」を開発し、その中でエージェントを訓練する。エージェントは、いわばこのモデルを現実世界のシミュレーションとして扱い、その中でどう行動すべきかを学ぶ。そして、そこで得た経験を使って、将来どのような結果が生じるかを予測する。ハフナー流に言えば、「夢を見る」「想像する」のだ。これにより、エージェント、あるいはエージェントを組み込んだロボットが、現実世界で未知の状況に対処できるようになる。
「グーグルの研究部門では本当に優秀な人たちと数多く接してきましたが、彼は間違いなく上位0.5%に入ります」
ティモシー・リリクラップ(グーグル・ディープマインド)
ほかのアプローチとは異なり、ハフナーの手法では、エージェントとそれが制御するロボットが、従来のロボット工学で使われてきた現実世界での試行錯誤による訓練を行わずに、極めて複雑なタスクを実行できる。
ハフナーはドイツ北東部の農村の町で育った。両親はともにクラシック音楽家だった。近所の人からプログラミングを学び、高校時代にはAIに関するオンライン講座を受講し始め、すぐに夢中になった。「思考がどのように機能するのかに、ずっと魅了されていました」と彼は言う。AIは、それをコンピューター上で再現する手段を与えてくれた。
2015年、ポツダムのハッソ・プラットナー研究所で工学を学ぶ学部2年生だったハフナーは、グーグル・ブレイン(Google Brain)の学生研究員の職を得た。その後、同社でインターンシップやその他の職を合わせて十数回経験し、英国、カナダ、米国のグーグル・ブレインやグーグル・ディープマインド(Google DeepMind)でも研究した(両組織はその後、ディープマインドに統合された)。AIの「ゴッドファーザー」の一人とも呼ばれるジェフリー・ヒントンや、現在の大規模言語モデルで使われているトランスフォーマー技術を説明した画期的な論文「Attention Is All You Need(アテンションこそすべて)」の共著者、アシシュ・バスワニといった業界の重鎮たちとも研究を共にした。
グーグルでハフナーの上司を務め、論文の共著者でもあるティモシー・リリクラップは、彼を傑出した人材の中でも際立った存在だと評する。「グーグルの研究部門では本当に優秀な人たちと数多く接してきましたが、彼は間違いなく上位0.5%に入ります」とリリクラップは言う。「通常ならエンジニアのチーム全体が必要になるようなものを、彼は一人で作り上げてしまうことがよくありました」。
ハフナーは長年にわたり、自身の世界モデル内で訓練したエージェントに人気のビデオゲームをプレイさせることで、そのアプローチを磨き、実証してきた。最初のブレークスルーとなった「PlaNet(プラネット)」は、先を見越して計画を立てながらエージェントが行動できるようにするモデルだった。「Dreamer 2」は、ワールドモデルを使ってAtari 2600(アタリ2600)のゲームをプレイし、人間と同等の性能を達成した初のエージェントとなった。「Dreamer 3」は、Minecraft(マインクラフト)の「ダイヤモンド・チャレンジ」——ゲーム内で自力でダイヤモンドを採掘する課題——を初めてクリアした。そして「Dreamer 4」はさらに一歩進み、ゲームそのものとは一度も直接やり取りせず、録画されたゲームプレイ動画のオフライン・データセットだけから、ダイヤモンドの採掘方法を学習した。
近年は、エージェントをバーチャル世界から物理的な現実世界へと移し始めている。DayDreamer(デイドリーマー)プロジェクトではDreamerアルゴリズムを使い、ロボットが未知の環境で自律的に動作し、押し倒されるといった初めての出来事にも、その状況に特化した訓練を受けることなく対応できることを示した。
現在、ハフナーは2025年秋にグーグル・ディープマインドを退社して立ち上げた新しいスタートアップに取り組んでいる。次に何をするのかについては口を閉ざしているが、大きな構想を抱いていることは明らかだ。「世界を変えるような問題を解決することに関心があったのです」と、彼はほのめかす。
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- マット・ホーナン [Mat Honan]米国版 編集長
- MITテクノロジーレビューのグローバル編集長。前職のバズフィード・ニュースでは責任編集者を務め、テクノロジー取材班を立ち上げた。同チームはジョージ・ポルク賞、リビングストン賞、ピューリッツァー賞を受賞している。バズフィード以前は、ワイアード誌のコラムニスト/上級ライターとして、20年以上にわたってテック業界を取材してきた。
