なぜ肥料が高いのか? 食料価格が化石燃料と結びつく理由
肥料価格が今年に入って乱高下している。主原料のアンモニアは、天然ガスをエネルギー源としても化学原料としても使うためだ。イラン戦争で天然ガス価格が急騰すると、4月には尿素が1トン850ドルを超え、紛争前より80%高くなった。食料価格がエネルギー価格と連動する構造は、当面変わりそうにない。 by Casey Crownhart2026.09.04
- この記事の3つのポイント
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- イランでの紛争を契機に天然ガス価格が急騰し、アンモニアを主原料とする肥料価格が紛争前比80%高に達した
- ホルムズ海峡閉鎖や中東・ロシアのアンモニア工場被災が重なり、一部肥料価格は2028年まで高止まりする見通しだ
- 微生物肥料など代替技術は価格競争力を持ち始めているが、現状では合成肥料の代替率は最大25%にとどまる
最近、車に給油したり、航空券を購入したりした人なら、化石燃料価格の上昇による影響を肌で感じているだろう。しかし、作物に使う肥料を購入する農家は、イランでの紛争の余波がいかに広範囲に及んでいるかを特に痛感している。
肥料価格は今年に入って乱高下している。その一因となったのが、貿易の混乱と、肥料生産の重要な原料である天然ガスの価格高騰だ。従来型肥料の価格がなぜこれほど高騰しているのか、そして気候への負荷がより少ないいくつかの代替手段が、農家にどのような救済をもたらし得るのかを詳しく見ていこう。
化石燃料の価格が上昇すると、ほぼすべての産業が影響を受ける。経済活動の大部分が、物資や人の移動をこうした燃料に依存しているからだ。
しかし肥料は、こうした価格変動とさらに密接に結びついている。主要な肥料原料であるアンモニアの製造では、天然ガスがエネルギー源としても化学原料としても使われるからだ。そのため、イランでの戦争を受けてここ数カ月で天然ガス価格が急騰すると、肥料価格もそれに追随した(なお、肥料生産は温室効果ガス排出の主要な発生源でもあり、世界全体の排出量の約2%を占めていることも付記しておきたい)。
肥料の貿易も直接的な打撃を受けている。世界の海上輸送による肥料貿易の約3分の1がホルムズ海峡を通過しているが、この海峡は紛争の影響で商業船舶に対して事実上閉鎖されているからだ。世界銀行の報告書によれば、海峡の閉鎖によって、世界で最も貧しい国々の一部では肥料を入手することがさらに難しくなる可能性がある。米国では窒素肥料の需要の大半を国内生産で賄っているものの、ペルシャ湾岸からの輸入も一部ある。
4月のある時点では、最も広く使われている肥料である尿素の価格が1トン当たり850ドルを超えた。これは紛争前より80%高く、ロシアによるウクライナ侵攻とその後の戦争によって肥料価格が過去最高を記録した2022年以来の高値である。その後、価格は大幅に下落したものの、今後の見通しは依然として不透明だ。
「サプライチェーンが制御不能なほど混乱し、これまでになく不安定になっています」と、遺伝子編集した微生物を使った肥料を製造するピボット・バイオ(Pivot Bio)の最高技術責任者(CTO)、トラビス・フレイは言う(こうした微生物の詳細や仕組み、今後どのような研究が必要なのかについては、私の最新記事をこちらでご覧いただきたい)。
ピボット・バイオによれば、同社の製品は現在、化学肥料と価格面で競争力がある。また、天然ガスを原料として使わないため、同じような価格急騰の影響を受けない。イランでの戦争が始まった際、同社は生産予定量を増やし、価格を引き下げ、農家が3年間にわたって価格を固定できるようにしたとフレイは言う。
これは農家にとって大きな助けになり得る。高値がしばらく続く可能性があるからだ。米国の農業分野に融資する最大手銀行の一つ、コーバンク(CoBank)の報告書によれば、一部の肥料価格は少なくとも2028年まで高止まりする可能性があるという。
その一因は、戦争によって長期にわたる損害が生じていることだ。中東では31カ所のアンモニア工場が被害を受けたか、完全に操業を停止した。これに加えて、ロシアでも近年、20カ所のアンモニア工場が損傷している。
肥料価格が高止まりすれば、農家にとって極めて厳しい状況になり得る。「肥料価格が急騰すると、農家の利益率は非常に薄いので、深刻な問題になります」と、先進的な微生物肥料に取り組む別の企業、スイッチ・バイオワークス(Switch Bioworks)の創業者兼CEO、ティム・シュナーベルは言う。
コストの上昇は食料価格を押し上げる一因となり、私たち全員がスーパーでより多くのお金を支払うことになる。(ちなみに、影響を受けているのは肥料だけではない。農家は今年、乱高下する軽油価格にも悩まされている。)化石燃料を使って製造する肥料に依存し続ける限り、食料価格はエネルギー価格と結びついたままだ。
スイッチ・バイオワークスとピボット・バイオは、微生物を使って植物に窒素を供給する代替肥料の開発に取り組む企業の一例だ。ただし、こうした製品が実際に代替できる合成肥料の量には限界がある。作物や条件によって異なるが、ピボット・バイオによれば、現在の製品で代替できる合成肥料は約25%で、将来的には全体の40~50%まで高めることを目指しているという。それでも、こうした代替品は、化石燃料と食料の結びつきを解きほぐす第一歩になり得る。
「このままのやり方を続けるわけにはいきません」と、スイッチ・バイオワークスのシュナーベルは言う。「食物連鎖の基盤が化石燃料に依存するような社会を築き続けることなど、できるはずがありません」。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
