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グーグル、組み込み機器向け「テンソルフロー・ライト」を発表
Nadya Peek | Unsplash
It’s About to Get Way, Way Easier to Put AI Everywhere

グーグル、組み込み機器向け「テンソルフロー・ライト」を発表

グーグルは、安価な小型スマート端末が便利にする世界という未来像を抱いている。そして、グーグルのソフトウェアがすべての端末に搭載されることも望んでいる。

数年前、グーグルはテンソルフロー(TensorFlow)というオープンソースの機械学習ソフトウェア・ライブラリーの提供を開始した。以来、爆発的な人気を博し、現在ではエアビーアンドビー(Airbnb)、イーベイ(eBay)、ウーバー(Uber)、スナップチャット(Snapchat)、ドロップボックス(Dropbox)などが人工知能(AI)の開発に役立てている。その売りは明確だ。テンソルフリーを使えば、AIに関する博士号を持っていなくても、比較的経験の浅い利用者でも、ニューラル・ネットワークを構築して訓練することができる。結果として、テンソルフローはグーグルの事業計画の中核になっている。続いてグーグルは、テンソルフロー・モバイル(TensorFlow Mobile)という軽量版を開発した。これはAIソフトウェアを携帯電話でも効率的に使うため、サイズを縮小して設計されたものだ。

それでもグーグルにとっては十分とはいえない。グーグルは新たに、テンソルフロー・ライト(TensorFlow Lite)という、さらに軽量化したバージョンを開発者向けに公開した。テンソルフロー・ライトは軽量AIソフトウェアで、スマホだけでなく、プリンターや冷蔵庫、サーモスタット、スピーカーといった単純なコンピューター、つまり組み込み機器でも使用できる。

テンソルフロー・ライトがうまくいけば、AIを日常的に利用できる大転換点となるだろう。

現時点では、機械学習を利用している小型ポータルブル端末上でAIアルゴリズムを実行させるのは難しい。実際、AIアルゴリズムを効率的に実行できる小型端末は、今のところアップルのiPhone Xなどの最新スマホだけだ。一方で、古い端末や性能の劣る端末では、AIに処理させたい問題をインターネット経由でクラウドに送信し、サーバーが処理した結果を端末に送り返す。たとえば、アマゾンのアレクサ(Alexa)に何かを話しかけたときに返答が遅いのは、これが大きな理由だ。インターネット接続を必要としないデバイスに完全なAIの機能を搭載すれば処理が速くなる可能性があり、データを握られる心配をしている人も安心だ。きわめて基本的なチップに単純なAIを組み込める可能性も高まり、スマート端末を実際に使い捨てにできるようにもなる。

AIソフトウェア業界がグーグルの独占状態になりつつあることに危惧を抱いたマイクロソフトとアマゾンは連携して、テンソルフローに対抗するグルーオン(Gluon)を開発した。何をそれほど懸念しているのだろうか? 実は、ソフトウェアライブラリーは開発した企業のクラウド・サーバーのほうが簡単に使えることが多い(必ず使わなければならないということではない)。マイクロソフト、アマゾン、グーグルはいずれも大規模なクラウド・ビジネスを展開しているが、グーグルは驚くほどの遅れを取っており、マイクロソフトとアマゾンは、グーグルとの差をできるだけ維持しようと考えている。グーグルもその差を座視するつもりはなく、テンソルフロー・ライトによって追撃を始めた。

 

ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe] 2017.11.17, 19:18
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