秘書か?社員監視ツールか?
ワークグラフで進化する
スラックの未来
急速な成長を続けるスラック(Slack)は、「ワークグラフ」と呼ぶデータ構造と人工知能(AI)の導入によってチャットツールから大きく進化しようとしている。ニューヨークにあるAIチームの拠点を訪ねた。 by Elizabeth Woyke2018.01.18
もしあなたが、職場での共同作業のためにスラック(Slack)の有料プランを利用する5万社のうちの1社で働いているなら、スラック上で同僚との情報交換、冗談の言い合い、ファイル交換に何時間も費やしていることだろう。Eメールを送信する代わりに、グループチャットルーム (チャンネルと呼ばれる) で短いメッセージを打つスラックは、気軽に柔軟なやりとりができるツールだ。感覚的には、一般的なオフィス向けのソフトウェアというよりも、スマホアプリに近い。
ただ、共同作業が効率的にできるといっても、一日中スラックの確認をしていなければならない状況になることもある。特に、数日留守にして帰ってきたときには、いくつものチャンネルにおける更新が数千件に及んでしまう。スラックの推定によれば、平均的なユーザーは1日に70件のメッセージを送信している。必ず読まなければならないメッセージと、読み飛ばしてもいいメッセージはどうすれば判断できるのだろうか。
スラックが提示する解決策は、人工知能(AI)だ。2016年初めに、スラックはプラットフォームをよりスマートかつ便利にするために、スタンフォード大学で学んだコンピューター科学者ノア・ウェイスを部門長として採用した。この1年半でウェイスのグループは、機械学習を使ってスラック上でより速く正確に情報を検索できるようにし、また、どの未読メッセージが各ユーザーにとって重要である可能性が高いかを識別できるようにした。最終的にウェイス部門長が目標としているのは、スラックを、これ以上ないほど整理された、ユーザーにとってのマルチタスク・アシスタントのように振る舞わせることだ。いま起こっていることをすべて知っていて、最も重要なイベントだけをユーザーに知らせてくれるアシスタントである。
スラックの発表によると、2014年に発表したこのプラットフォームは、これまでで最も成長が速いビジネスアプリケーションであり、1日のアクティブユーザーは600万人を超える。スラックは、2025年までに職場でEメールよりもよく使われるようになると予測している。
しかし、スラックのライバルはEメールだけではない。大きな既存のユーザーベースを抱えるフェイスブック、グーグル、マイクロソフトの3社も、この15か月の間に企業向けの共同作業ツールをリリースしている。マイクロソフトの発表によると、12万5000社が「マイクロソフト・チーム(Microsoft Teams)」を使用している。マイクロソフト・チームは、オフィス365(Office 365)のいくつかのプランで無料で使えるグループチャット・プラットフォームだ。フェイスブックは、ウォルマートなど3万社が同社の「ワークプレイス(Workplace by Facebook)」のサービスを利用していると発表している。ただし、これらの数字は、スラックの5万社という数字と直接比較することはできない。マイクロソフトとフェイスブックは1日のアクティブユーザー数を公表していないし、スラックは無料バージョンを使っている企業数を発表していなからだ。
こうしたチャット製品は、月額あるいは年額のサービス料金として安定した収入を確保できるだけでなく、人々が社内でどのようなやりとりをしているのか、どのようなファイル形式やアプリケーションを使って仕事をしているのか、といった情報を収集できる。スラックより規模が大きいライバル企業たちは、自社の既存ソフトウェアの利用を増やす機会もうかがっている。「マイクロソフトなどの企業は、こうしたツールを、オフィス365などその他の企業規模のプラットフォームとセットで提供していくでしょう」とテキサス大学オースティン校の通信技術の専門家、ジェフリー・トリーム助教授はいう。「こうした大きなテック企業はすべて同じ場所を追いかけています。恵まれた市場だからです」。
しかし、スラックは心配していない。「当社は、市場のけん引力、特化した専門性、ユーザーについ …
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