KADOKAWA Technology Review
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AI for protein folding タンパク質構造のAI予測

深層学習AIの手法により生物学50年来の難問を解決したことで、ディープマインドは創薬の新しい道を開いた。

by Will Douglas Heaven 2022.04.11
Andrea D'aquino, protein model courtesy of AlphaFold
キープレイヤー
ディープマインド(DeepMind)、アイソモーフィック・ラボ(Isomorphic Labs)、ベイカー・ラボ(Baker Lab)
実現時期
実現済み

2020年末の時点で、英国に本拠を置く人工知能(AI)企業ディープマインド(Deep Mind)は、AIに関して驚くべき業績をいくつもあげていた。中でも、同年9月にタンパク質の折りたたみ構造(フォールディング)を予測するためのプログラムを公開した際には、その出来の良さに生物学者は舌を巻いた。

人体の働きには必ずと言っていいほどタンパク質が関わってくる。そのため、個々のタンパク質の機能を解明することは、創薬全般において、またさまざまな病気について理解を深めるうえで非常に重要となる。タンパク質の機能を決めるのは、その三次元構造である。

タンパク質は、ひも状に連なるアミノ酸が複雑にねじれたりよじれたりして、折りたたまれることで出来上がる。その構造や機能を研究室で解明するには何カ月もかかる。科学者は長い間にわたり、その作業を簡略化するためコンピューターを使った予測手法を試してきた。しかしどんな手法も、人間による予測の精度には遠く及ばなかった。

だが、ディープマインドの「アルファフォールド(AlphaFold)2」によって状況は変わった。アルファフォールド2は深層学習というAIの手法を使ったソフトウェアであり、タンパク質の構造を原子レベルの単位で予測できる。研究所で使われる予測手法は時間を要する代わりに精度が高い。その精度にコンピューターが初めて匹敵したのだ。

世界各地の科学者チームはすでにアルファフォールド2を、がんや抗生物質耐性、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の研究に利用し始めている。加えてディープマインドは、アルファフォールド2によるタンパク質構造の予測結果をデータベースとして公開している。データベースのエントリー数は現時点でおよそ80万に上る。ディープマインドは、来年にはさらに100万追加すると述べている。これは科学的に知られているタンパク質の総数とほぼ等しい。

ディープマインドの研究をもとに、アイソモーフィック・ラボ(Isomorphic Labs)という会社も立ち上がった(アルファベットの子会社であり、ディープマインドのデミス・ハサビスCEO(最高経営責任者)が同じくCEOを務める)。アイソモーフィック・ラボは、既存のバイオテクノロジー企業や製薬会社と協力していくという。アルファフォールド2の本当のインパクトが現れるまでには1~2年を要するかもしれない。しかし、その可能性は、世界各地の研究所で急速に明らかになりつつある。

MITテクノロジーレビューの「ブレークスルー・テクノロジー10」2022年版の一環として、ディープマインドがどのようにして、ゲームから科学界屈指の難問へとターゲットをシフトしたのかをこちらで紹介している。

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