フラッシュ2023年1月20日
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血管のすき間をふさいで重症化を防ぐ、感染症の新しい治療法
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]大阪大学、京都大学、福井大学、慶應義塾大学の研究グループは、重症感染症に対する新しい治療法を発見した。これまでに病原体や免疫細胞、炎症性サイトカインを標的とする重症感染症治療薬が登場してきたが、死亡率を下げることは難しかった。
研究グループは、重症感染症が招く「血管透過性の亢進」というプロセスに着目。血管の内皮細胞が病原体に触れたときに放出する炎症性サイトカインによる作用である。重症感染症では炎症が長く続いて、血中のサイトカイン濃度がどんどん上昇し、サイトカイン・ストームという状態に陥る。すると血管の透過性が上がりすぎてしまい、その結果多臓器不全やショックを引き起こして患者が死に至る。これまでに登場した感染症治療薬には、血管透過性の亢進に着目したものはなかった。
そこで、血管内皮細胞同士の接着を強め、透過性を抑制するタンパク質Roundabout4(Robo4)を増やすことで、重症感染症を治療できるかを検証した。研究グループは、血管内皮細胞でRobo4の量を増やしたマウスを作製。Robo4の量を増やしていないマウスも用意して、療法のマウスに敗血症を起こさせた。その結果、Robo4を増やしたマウスでは肺の血管透過性を抑制することで、死亡率が低下した。
さらに、体内でRobo4の量を調節する仕組みを解析し、Robo4を増やす薬としてALK1阻害剤が有効であると発見した。この薬を使って、新型コロナウイルス感染症にかかったマウスの肺障害と死亡率を抑制できることも分かった。
研究成果は1月13日、米国科学アカデミー紀要(PNAS)にオンライン掲載された。血管透過性を抑制する薬は、理論上は病原体の種類を選ばず、既存薬との併用も可能。今後発生する恐れがある新型感染症の治療薬になる可能性があるという。
(笹田)
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