フラッシュ2023年6月27日
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グルーオンのスピンの向きを決定、「陽子スピンの謎」解明に一歩
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]理化学研究所の研究員らが参画する国際共同研究チームは、米国ブルックヘブン国立研究所(BNL)の衝突型加速器「リック(RHIC:Relativistic Heavy Ion Collider)」を使って、陽子内部のクォークおよびグルーオンの散乱で直接生成する光(直接光子)により、グルーオンのスピンの向きを正確に測定することに成功。グルーオン・スピンと陽子スピンの向きが同じであることを明らかにした。
研究チームは今回、RHICを用いて、スピンの向きをそろえた陽子(偏極陽子)同士を衝突させ、グルーオンの散乱から生成される直接光子数の非対称度を測定。その結果、生成された直接光子の大部分は正の非対称度を持つことが判明。グルーオン・スピンの向きが陽子スピンの向きと同じであることを決定的に支持していることがわかった。
高エネルギーの陽子同士を衝突させると、中性パイ中間子などの粒子が多く発生し、中性パイ中間子は発生後すぐに2個の光子に崩壊し、直接光子の測定を妨げる雑音になる。そこで同チームは、1万個以上に細分化された検出器の一つひとつの「眼」が見込む角度が約0.6度と非常に狭い「PHENIX実験用電磁カロリメータ」を使用。崩壊光子の雑音を十分に除去し、グルーオンの散乱から生成する直接光子を正確に識別できるようにした。
陽子の内部は、クォークとグルーオンという素粒子から構成されており、以前は陽子スピンの向きは陽子内のクォークのスピンの向きの合計で決まると考えられていた。しかし、1980年代にクォーク・スピンの向きを調べたところ、それらを合計しても陽子スピンの向きの30%程度しかないことが分かり、以降「陽子スピンの謎」として原子核物理学の大問題とされている。陽子スピンの謎を解明するには、陽子内のグルーオン・スピンの向きを調べる必要があるが、その測定は容易ではなかった。
グルーオン・スピンの向きを高精度で調べた今回の研究成果は、今後の量子科学の発展に大きく寄与することが期待される。研究論文は、米国の科学雑誌フィジカルレビュー・レターズ(Physical Review Letters)オンライン版に2023年6月21日付けで掲載された。
(中條)
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