フラッシュ2023年8月19日
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生物工学/医療
神経細胞死を引き起こす活性化アストロサイトの産生を抑制
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]京都大学の研究チームは、アルツハイマー病やパーキンソン病などの進行性神経変性疾患で神経細胞死を引き起こす活性化アストロサイトの産生を制御する分子を発見した。
アストロサイト(星状細胞)はグリア細胞の中でも最も数が多い細胞であり、神経細胞に栄養を送り、神経細胞の機能を発揮できるよう支援したり、神経細胞を保護する役目を持つ。だが、神経炎症が起こった状態では、過剰に産生されたサイトカインに反応して活性化し、神経細胞死を引き起こす活性化アストロサイトに変貌する。活性化アストロサイトはアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患の患者の脳で見つかっており、産生を抑制すれば、進行性神経変性疾患の進行を抑えられるのではないかと考えられていた。
研究チームは、活性化アストロサイトの産生を制御する分子として、「Nrf2」と呼ぶ転写因子に着目。神経炎症を起こしたモデルマウスの脳組織で活性化アストロサイトの産生状況を観察した。
モデルマウスではアミロイド斑の蓄積によって神経炎症が起こり、活性化アストロサイトが産生されていることが確認された。さらに、Nrf2遺伝子を欠損させたモデルマウスの脳で活性化アストロサイトの産生がより進んでいることも分かったことから、Nrf2が神経炎症時に活性化アストロサイトの産生を制御している可能性があることが分かった。その後、クロマチン免疫沈降シーケンスや、新生RNAシーケンス法による観察で、Nrf2が神経炎症時に活性化アストロサイトの産生を制御することを実際に確認できたという。
こうした結果を踏まえ、研究チームは、Nrf2タンパク質を安定化させる化合物「アルジャーノン2」をモデルマウスに投与。活性化アストロサイトの産生と神経脱落の抑制、認知機能の改善を確認したとしている。
研究成果は8月7日、米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America:PNAS)にオンライン掲載された。
(笹田)
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