フラッシュ2023年8月25日
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理研、酵素の活性を最大化する理論的条件を発見
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]理化学研究所の研究チームは、酵素反応の活性を最大化する理論的な条件を発見した。これまでは目的となる物質を速く、大量に合成する酵素を選ぶには、実験による試行錯誤を繰り返すしかなかったが、今回見つかった条件があれば、最適な酵素を効率よく選択できるようになるという。
酵素の反応では、まず基質が酵素に結合して複合体を形成する。その後、複合体が生成物を放出する。このとき、複合体の形成速度と生成物の放出速度がどちらも速い酵素ほど、活性が高いとされている。しかし、基質と酵素の親和性が高いと、複合体の形成は容易になるが生成物の放出が阻害され、基質と酵素の親和性が低いと複合体の形成が難しくなる。研究チームは複合体形成と生成物放出のバランスが取れた「ちょうど良い」親和性になったところで酵素活性が最大化すると予想した。
そこで研究チームは、酵素と基質の親和性を示すミカエリス・メンテン定数と、酵素反応の速度の関係を示したミカエリス・メンテン式を基に、酵素活性が最大化する条件を示す式を導き出した。ミカエリス・メンテン式は100年以上前に提唱されたもので、現在でも酵素反応を示す最も基本的なモデルとして広く活用されている。研究チームは物理化学の法則を利用して、親和性と生成物放出の間にある束縛条件を考慮して新たな数式を考案。この数式を微分することで、親和性が基質濃度と等しくなるときに酵素活性が最大化するとの解を得た。
得られた数式を基に数値シミュレーション実施し、親和性と基質濃度が等しいときに活性が最大化することを確認。さらに、天然酵素の親和性とその基質の細胞内濃度をバイオインフォマティクス解析で比較したところ、多くの天然酵素の親和性が基質濃度に近いことが明らかになった。基質濃度に近い親和性をもつ酵素が生物進化の過程で優先的に選択された可能性があるとしている。
研究成果は8月24日、ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)誌にオンライン掲載された。
(笹田)
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