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リチウム酸素電池の充電サイクルを大幅に向上、実用化へ前進
Wikimedia
Scientists deliver a longer-lasting lithium-oxygen battery

リチウム酸素電池の充電サイクルを大幅に向上、実用化へ前進

長距離を連続走行できる電気自動車や数日間連続使用できるスマホ、それに安価な電化製品——これらを製造するために必要なことは、今よりも多くのエネルギーを電池に詰め込むことだ。

リチウム酸素電池は、その目標達成に向けた有望な道の1つだ。理論上、従来から使われているリチウムイオン電池と比べ、エネルギー密度を少なくとも10倍は高められるからだ。8月23日にサイエンス誌で発表された論文によると、カナダにあるウォータールー大学の研究チームがリチウム酸素電池を製品化する際に立ちはだかる、壁のいくつかを乗り越える手段を発見したという。

リチウム酸素電池製品化の大きな課題の1つが、リチウム酸素電池が放電する際に酸素が超酸化物(superoxide)に変換され、さらに電池部品を徐々に腐食する反応性化合物である過酸化リチウムへと変換されてしまうことだ。これによって電池の充電能力が下がり、実用性が制限されてしまうわけだ。

こうした問題を回避するため、 研究チームはカソード(陰極)を、炭素からステンレス鋼の網に支持された酸化ニッケルに切り替えた。また、陽イオンに電極間を移動させる溶解塩電解液を用いて、電池の動作温度を150℃まで上昇させた。

こうした方法を採用したことで、電池を再充電する能力が大幅に向上。従来のリチウム酸素電池と比べ、約3倍の充電サイクルを達成できたという。さらに研究チームは、エネルギー密度を50%以上増加させることにも成功している。

「今回の発見は潜在的に、リチウムイオン電池やその他の蓄電技術に匹敵するかもしれない、新たな電池技術が実現される大きな可能性を浮き彫りにしました」と、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者は付記に記している。

だが、電池分野の進歩は信じ難いほど遅く、有望な技術が実験室で生まれてから商品化まで進むのに何年もかかる (「Advance Doubles the Longevity of High-Energy Electric Car Batteries」参照)。特に、リチウム酸素電池が現在市場で流通する製品と競争できるようになるためには、さらにずっと長いライフサイクルを達成する必要がある。

論文の共同執筆者であるウォータールー大学のリンダ・ナザル教授は、研究者がリチウム酸素電池の商業生産に向けた実用設計をかれこれ15年以上提示できていないことを強調する。

ナザル教授はメールで、「私たちが設計した電池の商業化はまだまだ先の話かもしれません。ですが、もっと重要なことは、今回の構想が商品化へとつながる新たな設計の元になってくれることです」と述べている。

ジェームス・テンプル [James Temple] 2018.09.07, 6:33
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