KADOKAWA Technology Review
×
「オバマの熱狂」から10年
ネット選挙運動は
どう変わったのか?
カバーストーリー Insider Online限定
US election campaign technology from 2008 to 2018, and beyond

「オバマの熱狂」から10年
ネット選挙運動は
どう変わったのか?

最初に選挙のテクノロジー革命が起こったのは、2008年のオバマの大統領選挙だった。それから10年、ソーシャル・メディアの勃興と共にテクノロジーが選挙運動に担う役割は変化してきた。この秋の中間選挙、2020年の大統領選挙ではどのように変化するのだろうか。 by Alex Howard2018.10.05

10年で何が変わるのか? 思い出してほしい。2008年にはアイフォーン(iPhone)は発売からまだ1年しか経っておらず、企業や政治情報マニアたちは当時、ブラックベリー(BlackBerry)やメールを使っていた。テレビがまだ、政治広告や議論の媒体として支配的地位を保っていた時代だ。ソーシャル・メディアは普及しておらず、ソーシャル・メディアを活用する政府や政治家は珍しかった。

2009年、ツイッターのハッシュタグ「#IranElection」を使ったイラン大統領選挙への抗議行動がきっかけとなり、大勢のジャーナリストや政治家がスマホやインターネットによって生活や仕事、遊び、意見の主張や政治運動、国や国民統治の方法が根本的に変わっていることに気づいた。当時タイム誌は、ツイッターを「社会運動メディア(the medium of the movement)」と呼んでいる。

以来、政治運動は、近年最も急速な進化を遂げている。米大統領選挙のたびに使われるテクノロジーは進歩し、変化してきている。2008年と2012年の選挙でバラク・オバマを優位に立たせたツールは、追い込まれていたドナルド・トランプを2016年に勝利に導いたツールとはかなり異なるものだった。

今後どのような政治運動が繰り広げられるのだろうか? 米連邦議会中間選挙の候補者たちは、トランプの勝利から得た教訓を11月の選挙にどう活かすだろうか? ケンブリッジ・アナリティカのスキャンダルで批判を受けたフェイスブックが変更したアルゴリズムは、有権者に及ぼす影響も変えてしまうのだろうか? 2016年の大統領選が2008年から変わって見えたように、2020年や2024年の米大統領選は、2016年から変わるのだろうか?

まず、変化の激しかったこの10年間を簡単に振り返ってみよう。

バラク・オバマをホワイトハウスへと導いたテクノロジー面でのイノベーションは、オバマのツイートやアプリではなかった。メールや携帯電話、Webサイトを統合した斬新なオバマ陣営の選挙運動が勝利の要因である。テクノロジーに精通した若いスタッフはオバマのメッセージを伝えるために、サポーター同士がつながり合い、自己組織化することにより、草の根運動が次の運動に適応し活用される道を切り開いたのだ。

オバマの選挙運動では、ソーシャル・ネットワーキング機能を統合した「My.BarackObama.com」で、サポーターのグループ結成や資金調達、地方イベントの組織化、近隣の有権者からの情報取得までを可能にした。オバマのキャンペーンは、予備選挙から本選挙までの間、バーチャル・コールセンターからかける電話から選挙人の登録まで、オンライン上の力をオフラインの行動に転換させた。

もちろんそのことによって、オバマが、多くの若くてカリスマ的なアフリカ系米国人特有の刺激的な候補者であったことに影響はなかった。そして、オバマ陣営が採ったモダンなテクノロジーによる機敏な反乱を起こした選挙運動により、米政治王朝の一員であるヒラリー・クリントンが予備選挙で敗北し、ベトナム戦争の英雄で人気のあったジョン・マケインが本選挙で倒されたのだった。

2012年の選挙では、こういったテクノロジーの活用がさらに進んだ。テレビは討論会の発信で引き続き最も有力な政治媒体だったが、2012年8月には米国の大部分の成人がフェイスブックを使っていた。より多くの有権者が携帯電話やコンピューターの画面上で、討論会に関するソーシャル・メディアのメッセージを見られるようになった。つまり、候補者陣営はリアルタイムに反応できるようになり、ソーシャル・メディアを資金調達の呼びかけに活用し、最も共感を得られたメッセージが何かも分かるようになったのだ。

もう一度、言おう。オバマ陣営は、選挙運動全体を動かすようなソフトウェアを開発するギークなドリームチームを作り上げた。メッセージの送受信から組織化、有権者の勧誘、資金調達、重要な地域や広告枠購入のためのリソースの設定まで、再選のための努力はデータ・サイエンスを使った政治アプリを前例のないレベルまで押し上げた。オバマ陣営は、ソーシャル・メディア活動によって得られたデータを使い、ソーシャル・メディアのメッセージやメールを個別に送る洗練された分析モデルを構築した。

一方、共和党側は、オバマ陣営よりスマートなツールを作ろうとしたが、うまくいかなかった。ロムニー陣営の「オルカ(Orca)」は、投票日に有権者が投票所に向かうようにボランティアが呼びかけるためのプラットホームだったが、深刻な技術的問題が生じ、巨大なITプロジェクトは活用すべきではない、との教訓になってしまった。当時、民主党と共和党の技術格差は依然として大きかったのだ。

多くの点で、ヒラリー・クリントンの大統領選挙運動は、オバマの手法を受け継いでいた。

元グーグル社員ステファニー・ハノンが率いる大人数のエンジニア・チー …

こちらは有料会員限定の記事です。
有料会員になると制限なしにご利用いただけます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
【春割】実施中! ひと月あたり1,000円で読み放題
10 Breakthrough Technologies 2024

MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

記事一覧を見る
気候テック企業15 2023

MITテクノロジーレビューの「気候テック企業15」は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する、あるいは地球温暖化の脅威に対処できる可能性が高い有望な「気候テック企業」の年次リストである。

記事一覧を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る