KADOKAWA Technology Review
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Smart cities could be lousy to live in if you have a disability

スマートシティは
不便すぎて使えない

住民に利便性を提供するはずのスマートシティは、身体障がい者にとっては新たなバリアになる可能性がある。誰もが使えるスマートシティの実現を目指すムーブメントが、そうした状況を変えようとしている。 by Elizabeth Woyke2019.01.23

ビクター・ピネダは世界各地へ出向いて講演し、都市計画や都市開発に関して各政府にアドバイスを与えている。だが、タッチスクリーンが登場するやいなや、彼は困り果ててしまう。車椅子で生活し、手や腕に障がいを持つ彼のような人にとって、タッチスクリーンは便利な存在というよりもむしろバリアなのだ。

都市が人間のレジ係や受付をタッチスクリーン機器に置き換えていく際に唯一問題となるのが、アクセシビリティだ。「電車の切符の購入、サービスへの支払い、情報入手の手段がキオスク端末しかないとしたら私はお手上げです」とピネダはいう。ピネダはワールド・イネーブルド(World Enabled)という非営利のコンサルティング・グループで代表を務めている。

身体の動き、視力、聴力、認知機能などへの障がいを持つ人々は、便利な移動手段や社会的サービスを利用しようと都市へ越してくることが多い。しかし米国の法律は、地方自治体が身体障がい者向けのデジタル・サービスをどのように設計して設置するかについて、詳細を規定してはいない。その結果、都市では新しいテクノロジーを導入することで、アクセシビリティ上の問題をむしろ新たに引き起こす場合がある。

このような状況がどこよりも顕著なのがニューヨーク市の「LinkNYC」キオスクだ。2016年に歩道沿いに設置されたこのキオスクには、点字や音声による利用法の説明が用意されていなかった。設置後間もなく、米国盲人連合がニューヨーク市を訴えた。この訴訟は2017年に決着がつき、キオスクは改善されたが、ピネダ代表によれば、一般的にタッチスクリーンはいまなお、身体の不自由な人々にとって使いにくいものであるという。

さらに、住人からの声を募るために一部の市町村が使い始めたソーシャル・メディア上のアプリがまた問題だ。全盲や視覚障がいのある人々は、ほとんどの場合アプリを利用できず、65歳以上の高齢者もその傾向が強い、とジェームズ・サーストンはいう。サーストンは非営利団体G3ictの副代表で、G3ictは利用可能な情報やコミュニケーション・テクノロジーの促進に努めている。「市はすべての住民からデータを入手しているつもりかもしれませんが、アプリが利用しにくいものであれば、多くの市民の声を聞き逃しているのです」とサーストン副代表はいう。

改善の余地

ボストン在住のテック起業家であるエイドリアナ・マロッジは、ボストンという街をとても気に入っている。ただ、自分と同じような人のことを考えずにテクノロジーを配備することに、不満を覚えているという。ピネダ代表と同じく、マロッジも車椅子生活者であり、手や腕に障がいを抱える。たとえばマロッジは、ビルの入口を開けたり交差点の信号機を作動させるために設置されているボタンを押すのに苦労させられている。「そうしたボタンの多くが不便な位置に設置されているのです。それらを作動させるにはボタンを足で蹴らなければならりません。ところが、往々にしてボタンは観葉プラントなどでブロックされているものですから、結局届きません」。 そうしたニーズを解決するにはスマホアプリが望ましいかもしれない、とマロッジはいう。

さらに都市は、認知障がいを抱える人々のために、テクノロジーを利用して通勤をもっと安全でスムーズなものにすることが可能だ、と話すのはジョン・ブラスコビッチだ。ブラスコビッチはダウン症の人々の生活を向上させることを目的とする非営利団体、マシュー財団の理事長を務めている。「ダウン症の人々はほとんどの場合、乗るバスとバス停の数を記憶しています。ところが、バスのルート変更や運行キャンセルがあった場合が問題なのです」。ブラスコビッチ理事長にはダウン症の息子がいる。スマホやウェアラブル機器で交通遅延や迂回をリアルタイムで追跡してユーザーに知らせ、ルート変更への対処方法を知らせてくれるようなアプリがあればと考えている。

マロッジやブラスコビッチ理事長が望むようなテクノロジーのいくつかは、そう実現が難しいものではない。すでに目の不自由な人々は、スマホのスクリーン・リーダーを使って、「ムービット(Moovit)」のような交通機関向けアプリを利用できる。このアプリは公共交通手段を使った移動方法を計画するのを助け、バスの到着をユーザーに予告したり、目的地への行き方を要所要所で教えてくれたりする。さらに車椅子での通行が可能なルートも示してくれたりもするのだ。

スタートアップ企業のアイラ(Aira)は、ワイヤレス接続のスマート・グラスを開発した。障害物を遠隔探知する「仲介者」の助けを借りて、視覚障がい者が複雑な室内を移動するのを手伝うものだ。このサービスは1〜1.50ドル/分と割高だが、ターゲットやウォルグリーンの一部の店舗や全米30カ所の空港、ロンドンのヒースロー空港では無料で利用できる。

あらゆる人のためのスマート都市

都市の諸問題を憂慮している行政にとっても、どこから取り掛かれば良いかを判断するのは難しい。「あらゆる人のためのスマートシティ(Smart Cities for ALL)」 というサーストン副代表やピネダ代表が率いる運動は、都市がそれぞれのテクノロジーを見直し、より利用しやすい選択肢を見つけるために、ダウンロード可能な無料ツールを提供することによって支援する考えだ。その1つが、何百という審査済みの製品やサービスのデータベースだ。たとえば、「サイクロメディア( Cyclomedia)」は、ライダー(LIDAR:レーザーによる画像検出・測距)によるデータを使って都市の歩道の補修が必要なタイミングを判断する。また、市民が都市のアクセシビリティについてどんな意見を持っているかをAIを使って評価するデータ分析プラットフォーム「ゼンシティ(ZenCity)」といったツールもある。

この1月、「あらゆる人のためのスマートシティ」は、シカゴ市と共同プロジェクトを開始し、シカゴにおける身体障がい者支援の評価を進めている。プロジェクトの1つの重要な部分が、市の公共サービスへの一般市民用ポータルとして新たに導入されようとしている311電話システムのアクセシビリティを確認することだ。同グループは今年中に米国の他の都市数カ所にも活動を広げる計画だが、その究極の目標は運動を全世界的なものにしていくことだ。インドとブラジルの政府、それにアルファベット(グーグル)の子会社であるサイドウォーク・ラボ(Sidewalk Labs)とも話をしている。サイドウォーク・ラボズは現在、カナダ・トロントでスマート居住地区の開発に取り組んでいる

「『障害物だらけでイライラする街をつくりたい』などという市長は一人もいません」とピネダはいう。「問題を認識し、有効なツールを手に入れ、仲介者たちの支援に協力すればいいのです。」

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エリザベス ウォイキ [Elizabeth Woyke]米国版 ビジネス担当編集者
ナネット・バーンズと一緒にMIT Technology Reviewのビジネスレポートの管理、執筆、編集をしています。ビジネス分野ではさまざまな動きがありますが、特に関心があるのは無線通信とIoT、革新的なスタートアップとそのマネタイズ戦略、製造業の将来です。 アジア版タイム誌からキャリアを重ねて、ビジネスウィーク誌とフォーブス誌にも在籍していました。最近では、共著でオライリーメディアから日雇い労働市場に関するeブックを出したり、単著でも『スマートフォン産業の解剖』を2014年に執筆しました。
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