街を丸ごとスマホ化する
グーグルが考える
本物のスマートシティ
アルファベット(グーグルの親会社)傘下のサイドウォーク・ラボがカナダのトロントで手がける初のスマートシティ・プロジェクトが始動した。都市をプラットフォームとして捉え、世界中の都市にツールを提供していく巨大な構想は、Androidのように世界を席巻するのだろうか。 by Elizabeth Woyke2018.02.23
オンタリオ湖に面するトロントのウォーターフロント地区は、セメントと土の地面がパッチワークのように組み合わさっている。配管部品や電気工事材料を販売する店、広大な駐車場、冬季用ボート倉庫、それに大豆を貯蔵するために1943年に建設された大型のサイロといった建物が立ち並び、海運港としての地域の歴史の面影を残している。
もっとも、トロント市民に言わせれば、すっかり荒れ果て、有効活用されておらず、汚染されているのがこの地域だ。だが、アルファベット(グーグル)子会社のサイドウォーク・ラボ(Sidewalk Labs)は、トロントを世界で最も革新的な都市の1つに変えたいと考えている。自動運転のシャトルバスが自家用車に取って代わり、信号機が歩行者や自転車、車両の流れを追跡し、ロボットが地下トンネルを使って郵便物やゴミを配送し、モジュール式のビルを拡張することで企業や住民の増加にも対応できる——。それが、サイドウォーク・ラボの考える新しい都市のビジョンだ。
2000年代初め、いわゆる「スマートシティ」は大流行した。魅力的な都市地域を作り出すアイデアは、テクノロジーを使ってエネルギー消費と汚染を減らし、より効率的な交通手段を備え、裕福な住人を惹きつけるだろうと考えられていた。中国や韓国、アラブ首長国連邦といった国々が開発者を雇い、広大な土地を最新のイノベーションが詰め込まれたフォトジェニックな都市に変えようとした。
だが、どのスマートシティも大きな期待に応えることはできなかった。2015年にアルファベット(グーグル)の子会社として設立されたサイドウォーク・ラボの目的は、都市の問題を緩和するテクノロジーを開発することにある。サイドウォーク・ラボは、コミュニティと緊密に連携し、テクノロジーを地域のニーズに合わせることにより、この残念な傾向を変えられると考えている。「人々は100年以上にわたって未来都市を建設しようとしてきましたが、私たちは(トロントの)既存の活力と特徴を最大限に利用したいと思っています」とサイドウォーク・ラボの都市計画担当役員であるリット・アガーワラは話す。
キーサイド(Quayside)と呼ばれるこの区域は、サイドウォーク・ラボにとって最初の大きなプロジェクトである。プロジェクトはまず、カナダ連邦政府、オンタリオ州政府、トロント市によって創設された地域開発会社ウォーターフロント・トロントが所有する12エーカー(約4万8560平方メートル)の小区画から始める。この地域には、約5000人を収容する予定だ。その後、隣接する700エーカー(約284万5360平方メートル)の工業区域にまで拡張し、数万人の住民を巻き込む可能性がある。「キーサイドに関する私たちの考えや決断を形作っているのは、21世紀のテクノロジーを使って何をより良くできるだろう?という問いかけです」とアガーワラはいう。
無人乗用車は大きな役割を果たすだろう。サイドウォーク・ラボは、無人乗用車が人間の運転者よりもより正確に走行し、常に交通規則に従うと仮定している。そのため、キーサイド区域には、通常よりも狭い車線を設置し、歩道や公園のためのスペースを増やす考えだ。理論的には、自動運転車両を共有することで、車を所有する必要のある人が減少し、1家族あたり年間6000ドルを節約できることになる。
鍵を握るのが、住民のアクティビティをセンサーで正確かつ頻繁に感知し、監視することだ。市街地の道路で自動運転バスを走らせるためには、サイクリストや歩行者を優先した上で、信号機を適切なタイミングで変更する必要がある。
サイドウォーク・ラボによれば、センサーで集めた情報は長期的な計画にも …
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