2010年5月、世間の注目を浴びた一連のスキャンダルのあおりを受けて、ニューオリンズ市長は米司法省にニューオリンズ市警察(NOPD)の調査を依頼した。その10カ月後、米司法省は辛辣な分析結果をもたらした。調査対象とした2005年以降の期間、NOPDは何度となく合衆国憲法および連邦法に違反していたのだ。
NOPDは過剰に、しかも不等な割合で、黒人市民に対して暴力を行使していた。人種的少数派や英語を母国語としない人々、LGBTQの人々が標的となっていた。さらに、女性に対する暴力についても適切な対処をしていなかった。問題は、「深刻で多岐にわたっており、組織的で、かつ警察の風土に深く根付いている」ことである、と当時のトーマス・ペレス司法次官補は語った。
そうした懸念される結果報告にもかかわらず、その1年後、ニューオリンズ市はデータマイニング会社「パランティア(Palantir)」と秘密裏に契約し、「予測型取り締まりシステム」を配備した。パランティアおよびニューオリンズ市の資料によると、逮捕記録や電子警察レポートなどのデータ履歴を利用して犯罪の発生を予測したり、公共安全政策を整備したりするのに役立てるのが狙いだという。資料には、米司法省によって明らかにされた違法行為に対処するために、データを洗いなおして修正する取り組みについては一切触れられていない。過去の誤った考えに基づくデータがこのシステムに直接入力された結果として、警察の差別行使がさらに強化されたことが十分に予想される。
予測型取り締まりシステムは、全米の都市において一般的に導入されつつある。透明性の欠如によって正確な統計は把握しにくいが、主要ベンダーであるプレッドポール(PredPol)は、予測型取り締まりシステムによって33人に1人のアメリカ人を「保護」できると豪語する。同社のソフトウェアは、多忙な警察官たちがデータに基いて、より効率的な判断を下せるようにする手段として頻繁に売り込まれている。
しかし新たな調査によると、こうしたシステムを「汚染されたデータ」を使って訓練しているのはニューオリンズ市だけではないようだ。AIの社会的影響を研究するシンクタンクであるAIナウ研究所(AI Now Institute)の研究チームが2月13日に発表した論文(NYUロー・レビュー(NYU Law Review)に掲載予定)によると、調査した管轄区の間に「汚染データ」問題が蔓延しているという。 このことは、予測型取り締まりシステムの …
- 人気の記事ランキング
-
- Inside the tedious effort to tally AI’s energy appetite 動画生成は別次元、思ったより深刻だったAIの電力問題
- Promotion Call for entries for Innovators Under 35 Japan 2025 「Innovators Under 35 Japan」2025年度候補者募集のお知らせ
- IBM aims to build the world’s first large-scale, error-corrected quantum computer by 2028 IBM、世界初の大規模誤り訂正量子コンピューター 28年実現へ
- What’s next for AI and math 数学オリンピックで「人間超え」のAIは数学者になれるか?
- What is vibe coding, exactly? バイブコーディングとは何か? AIに「委ねる」プログラミング新手法