トランプ新政権で米国の医学生物学研究予算に大幅減の危機
米国国立衛生研究所(NIH)への予算はこれまで両党の支持を受けてきたが、トランプはこの政府機関を指して「ひどい」といった。 by Emily Mullin2016.11.17
ドナルド・トランプの大統領選出にともなう数多くの不確定要素のひとつに、生物医学研究への世界最大の公的資金提供者である米国国立衛生研究所(NIH)の運命がある。NIHの2016年度の予算は320億ドルだ。
トランプは連邦政府の支出削減を有権者に公約し、昨年にはNIHについて、保守的なラジオ番組の司会者マイケル・サヴェージを相手に「NIHのことはさんざん聞いていて、それはひどいものだ」と否定的な見解を述べた。だがScienceDebate.orgから送付された科学研究についての質問にトランプは、科学進歩には「長期的な投資が必要」と回答した。
次期大統領のNIHに対する見方に影響を与えるかもしれないのは、トランプ政権のメンバー選びで目玉と噂されるニュート・ギングリッチ元下院議長だ。ギングリッチ元下院議長はNIHを長年にわたって擁護し、昨年には同研究所の予算を倍増させるよう議会に要請した。
NIHはMIT Technology Reviewに寄せた声明で「これまで長く両党の支持を受けており、生物医学研究を通して人々の健康を増進し病気による負担を軽減するため、新政権と協力する用意がいつでもできている」という。
他にも生物医学界で同様に医学研究への支持を訴えている人々がいる。「新政権には基礎科学研究があらゆる人々に与える本当の恩恵を理解する必要があると私たちは見ている」(生物医学研究を推進する有力な業界団体の米国実験生物学会連合(FASEB)のドソン・フリーズ会長)
トランプが生物医学研究の計画をまだ示していないことは、必ずしも悪い兆候ではないとフリーズ会長はいう。政策について話し合う「余地があるということかもしれない」からだ。
FASEBによれば、NIHの予算は過去10年間ほとんど横ばいで、そのため購買力は22%低下した。2013年には「差し押さえ」と呼ばれる一律支出削減で、NIHの予算は5%減った。その年にNIHが出資した助成金の件数は2012年度より約700件少なかった。だがオバマ大統領による11億ドルの予算増額要求を議会が承認し、NIHの予算は2016年度に増額された。これがNIHの過去10年唯一最大の予算増だった。
6月には、NIHの2017年度予算を20億ドル増額することを上院小委員会が承認した。だが予算案を議会は否決し、2016年度現在の予算水準を短期間だけ延長することを選んだ。
ブレイン・イニシアティブや、適確医療イニシアティブ、がん撲滅ムーンショット構想のような、オバマ政権が音頭を取った個別の医学研究計画への資金提供が将来どうなるかも不確かなままだ。ブレイン・イニシアティブは、NIHと国防先端研究計画局(DARPA)、全米科学財団(NSF)から1億1000万ドルの初期投資で2013年に開始されたプロジェクトだ。
2015年1月、オバマ大統領は2016年度に2億1500万ドルを適確医療イニシアティブに投資すると発表した。これらの資金もNIHをはじめとするいくつかの政府機関から拠出される。オバマ政権はがん撲滅ムーンショット構想に10億ドルを拠出するよう議会にも要求している。この構想は1月の一般教書演説で述べられたものだが、資金の目処はまだ付いていない。
- 人気の記事ランキング
-
- A tiny new open-source AI model performs as well as powerful big ones 720億パラメーターでも「GPT-4o超え」、Ai2のオープンモデル
- The coolest thing about smart glasses is not the AR. It’s the AI. ようやく物になったスマートグラス、真価はARではなくAIにある
- Geoffrey Hinton, AI pioneer and figurehead of doomerism, wins Nobel Prize in Physics ジェフリー・ヒントン、 ノーベル物理学賞を受賞
- Geoffrey Hinton tells us why he’s now scared of the tech he helped build ジェフリー・ヒントン独白 「深層学習の父」はなぜ、 AIを恐れているのか?
タグ | |
---|---|
クレジット | Image courtesy of the National Institutes of Health |
- エミリー マリン [Emily Mullin]米国版
- ピッツバーグを拠点にバイオテクノロジー関連を取材するフリーランス・ジャーナリスト。2018年までMITテクノロジーレビューの医学生物学担当編集者を務めた。