KADOKAWA Technology Review
×
MITTRが選ぶ35歳未満のイノベーター「IU35 2024 Japan」発表!
11/20授賞式開催決定
人間は「クモ」になれる——VRを使った身体「所有」感覚の最新実験
Getty
人間とテクノロジー Insider Online限定
The VR illusion that makes us think we have a spider’s body

人間は「クモ」になれる——VRを使った身体「所有」感覚の最新実験

心理学者は長い間、人間以外の身体も含む異なる身体に対する「所有」感の錯覚を研究してきた。VR(実質現実)技術を使って、身体所有感の限界を調べた最新の実験では、人間は場合によっては、人間型の身体よりも、人間型以外の身体に対して所有感の錯覚を起こしやすいことが分かった。 by Emerging Technology from the arXiv2019.08.08

ディナーパーティーを盛り上げるイリュージョンの1つに、「ラバーハンド錯覚(詳細は後述)」がある。何も知らないゲストに、テーブルの上に置かれたゴム製の手が自分の手だと思い込ませるトリックだ。ゲストは急激かつ劇的に、真に迫った錯覚に陥る。イリュージョンを披露している人が撫でているゴム製の手が、ゲスト自身の手であるかのような「感覚が生じる」のだ。

このラバーハンド錯覚から、人間の脳を騙して、単なる物体を自分の身体の一部と感じさせるのは簡単だと分かる。心理学者は、手足だけでなく身体全体に対してこの錯覚を繰り返し実験してきた。被験者になれば、異性の身体や、ゴリラなどの人間以外の動物の身体まで、異なる形の身体を持ったような驚きの錯覚を体験できる。

研究者は長い間、全身の所有感の錯覚を引き起こすには、特別な管理条件の実験室でVR(バーチャル・リアリティ、実質現実)装置を用いる必要があると考えてきた。

しかし、最近になって、もっと簡単に身体所有感の錯覚を起こせる方法が発見された。そこからは、さまざまな興味深い疑問が提起される。研究者は、人間の脳がどの程度極端な形の身体まで受け入れることができるのかを知りたがっている。たとえば、クモやロブスターの身体、さらにはテーブルなどの物体を「自分の身体として感じる」ことができるのか? この錯覚を簡単に引き起こせるとすれば、どれほどの広範囲にこの種の錯覚を起こせるのか?

ドイツのデュースブルク=エッセン大学のアンドレイ・クレクホフらの研究チームが最近、この疑問の答えにつながる研究論文を発表した。同研究チームは、どのように人間が身体の所有感を錯覚するのか、人間の身体とトラやコウモリ、クモなどの人間以外の身体を対象にして比較研究した。

クレクホフらによると、人間は場合によっては、人間の身体よりも人間以外の身体に対して身体所有感の錯覚を起こしやすいという。この結果は、バーチャルな身体所有感を応用する道を切り開き、トレーニング分野や教育分野、そしてもちろん、大きな可能性が見込まれるビデオゲーム分野で重要な役割を果たすことを示している。

まず基本知識をいくつか紹介する。ラバーハンド錯覚ではまず、被験者の片手を隠し、その隣にゴム製の手を置く。被験者はゴム製の手を見ることはできるが、自分の手を見ることはできない。その後、隠された被験者の片手とゴム製の手の同じ場所を同じ …

こちらは有料会員限定の記事です。
有料会員になると制限なしにご利用いただけます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. The winners of Innovators under 35 Japan 2024 have been announced MITTRが選ぶ、 日本発U35イノベーター 2024年版
  2. Kids are learning how to make their own little language models 作って学ぶ生成AIモデルの仕組み、MITが子ども向け新アプリ
  3. AI will add to the e-waste problem. Here’s what we can do about it. 30年までに最大500万トン、生成AIブームで大量の電子廃棄物
  4. This AI system makes human tutors better at teaching children math 生成AIで個別指導の質向上、教育格差に挑むスタンフォード新ツール
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る