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健康的な加齢を目指す
「疑似断食ダイエット」を
試してみた
Bruce Peterson
生物工学/医療 Insider Online限定
I tried Prolon’s starvation diet so you wouldn’t have to

健康的な加齢を目指す
「疑似断食ダイエット」を
試してみた

食事を摂りながら体を断食状態にできる「プロロン」。アンチエイジング研究者が苦境の中で開発した、若返りダイエット法を試してみた。 by Adam Piore2020.01.14

体を疑似的に断食状態にする「ファスト・ミミッキング・ダイエット」を始めてから4日目のことだった。娘のソフトボールの試合中に、ある親がドーナツを持って現れたとき、私の苦痛は最高潮に達した。娘のチームが勝ち、チームメンバーの女の子たちやコーチがバッターボックスに駆け寄っているときも、私は離れた場所に立ったまま、栄養成分が「企業秘密」だという特別な飲料水を陰気な顔でちびちびと飲んでいた。

その日の朝食は、小さなクラッカーほどのサイズのナッツバーを食べ、ビタミン錠をいくつか飲んだだけだった。昼食は、スペイン・セビリア産のオリーブ5粒だった。

私のみじめさの原因は、5日間で250ドルの流行ダイエット法である「プロロン(ProLon)」だった。正直な話、私は、プロロンを発明したバルター・ロンゴ教授を恨み始めていた。確かに、私が何日か前に南カリフォルニア大学長寿研究所(University of Southern California’s Longevity Institute)の彼のオフィスを訪ねて、プロロンが私の健康全般と長寿にいかに貢献するかについて科学的な説明を受けたとき、このイタリア生まれの生化学者はとてもナイスガイに見えた。ロンゴ教授は、プロロンというダイエットによって私の体が一時的に飢餓状態になり、飢餓状態の最中に細胞は長年蓄積された細胞内のごみを食べ、その後は急激に修復と再生を始めるのだと辛抱強く説明してくれた。細胞のごみを取り除くことは、まさに私に必要なことに思えた。それでも今は、自分の苦境をロンゴ教授のせいにしていた。私はドーナツが食べたかったのだ。

プロロンの「ミールキット」は、靴箱より少し大きいくらいの白い段ボール箱に入った状態で家に届いた。箱の中には、メニューが書かれた食事予定カード、「ProLon」と派手に書かれた空っぽの大きなボトル、そして、それぞれ何日目の分であるかを示すラベルが貼られた小さな段ボール箱が5つ入っていた。食事カロリーが多めの「移行日」である1日目の箱を開けると、嬉しい驚きがあった。見た目は悪くない。プロロンダイエットの主要なメニューの多くを味見してみた。たとえば小さな包装のケールのクラッカー、粉末トマトスープ、藻類オイルのサプリメント、オリーブの入った袋、ハーブティー、さらにナッツバーが1本ではなく2本(ただし、泣けるほど小さかった)。

しかし、2日目の箱を開けてみると、このダイエットで何が起ころうとしているのかが分かってきた。ちっぽけなナッツバーの片方はグリセリンベースの「エナジー」ドリンクに変わり、そこには、水で薄めて一日かけて少しずつ飲むように、と書かれていた。ハーブティーはさらに種類があった。ハイビスカスに、ミント、レモン(ただし私はハーブティー自体が好きではない)。さらに粉末スープの袋がいくつかと、オリーブの小さな袋が2つだ。残りの食べ物はどこへ行ったのだ?

箱の中身に間違いがないかを確認しようと思って見つけたユーチューブ動画では、すらりとした若い栄養士が「皆さんには比較的多くの食べ物をお届けしています。800キロカロリーをわずかに超えた程度です」と皮肉なしに説明していた。栄養士によれば、プロロンの目的は、体を騙して自分は断食中だと認識させることで、「本物の断食をしているときに抑制される経路がすべて抑制される」そうだ。

「3日目までにあなたの体内では断食の効果が出始め、残りの日で最適化、再生、若返りが行なわれます」と栄養士は上機嫌に続けた。「ですから、4日目にはダイエットのすべてのメリットが感じられると思っていてください」。

バイオスフィア2の教訓

必要最小限の栄養を摂取しつつ断食すると長生きできるというのは、新しいアイデアではない。このようなやり方はカロリー制限と呼ばれる。ミミズなどの蠕虫(ぜんちゅう)から、リスやネズミなどのげっ歯類、そして我々霊長類に至るまで、幅広い生物に適用可能であると実証された、唯一の寿命延長法だ。カロリー制限による寿命延長は、ロンゴ教授が30年前にこの分野の研究を始めたとき、すでに生物学者たちの関心を集めていた。

当時、過激なダイエット研究の分野では、ロイ・ウォルフォード(故人、当時はカリフォルニア大学教授)ほどよく知られた研究者はほとんどいなかった。並外れた研究者だったウォルフォードは、UCLAの自身の研究室で、摂取カロリーを思い切って制限することによってマウスの寿命を2倍に延ばせることを既に証明していた。彼はこのテーマについて『The 120 Year Diet』や『Beyond the 120 Year Diet』(いずれも未邦訳)など何冊もの本を出版し、よく売れていた。また、ウォルフォード自身も、厳格な1600キロカロリー・ダイエットを亡くなるまでの30年間やり続けた(米国保健省は、活動的な中年男性には1日2800キロカロリーの摂取を勧めている)。ダイエット中、彼の体重はほとんど59キログラムだったが、これは身長が175センチの男性の平均よりずっと少ない。

1992年、ロンゴ教授が博士課程の研究のためにウォルフォードの研究室に入ったとき、ウォルフォードは臨時休暇を取っていた。ウォルフォードはその数か月前に、アリゾナ州の砂漠に出発していた。面積1万2000平方メートルの密閉空間である「バイオスフィア2」と呼ばれるドームで、8人の研究員の1人として生活するためだ。共同生活を通じた2年間の実験は、いつか人類が宇宙に移住するときの居住地としての実験だと言われた。研究者たちは、1991年にバイオスフィアに居住し始めてすぐ、作物が予想をはるかに下回る量しか穫れないことが分かった。食事のカロリーを厳しく制限しようと全員を説得したのは、医者として参加していた研究員のウォルフォードだった。この決断は世界中のマスコミの関心を集めた。なぜなら、1993年にバイオスフィアから出てきた研究員たちは、げっそりとやせ細った状態で、ふらついていたからだ。

ウォルフォードは2004年に79歳で亡くなったが、死因は筋萎縮性側索硬化症(ALS。運動ニューロン疾患、ルー・ゲーリッグ病とも呼ばれる)だった。ロンゴ教授が記しているところでは、彼の死因について多くの人が、バイオスフィアで体験せざるを得なかった2年間の極端なカロリー制限のせいではないかと疑っているようだ。ロンゴ教授はこの仮説を重要視している。

「カロリー制限が原因だったのかどうかは分かっていません」とロンゴ教授は言う。「しかし、私はウォルフォードがバイオスフィアから出てくる場にいたのです。ウォルフォードは病気に見えました。他の参加者も全員そうでした。おそらくウォルフォードはその代償を払うことになったのです。運動ニューロン疾患との関連性は分かっていません。しかし、彼の神経がカロリー制限の極端な状況に何年間も耐えられなかったということはあり得ます。多分、この状況と別の何かの要因が組み合わさったのでしょう」。

得られた教訓ははっきりしている。カロリー制限は寿命を延ばすかもしれないが、長期間にわたってカロリー制限を行なうのは問題であり、おそらくほとんどの人にとって現実的な選択肢ではない。

生物学的な大掃除

どちらにせよ、当時のロンゴ教授は、極端なカロリー制限の副産物には魅了されていたが、食 …

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