KADOKAWA Technology Review
×
Turmoil at Troubled Fertility Company Ovascience

迷走中のオバサイエンス、不妊治療の画期的製品を縮小

バイオテクノロジーのパイオニア企業が、体外受精の卵子若返り計画を縮小した。 by Karen Weintraub2016.12.30

高齢女性の体外受精成功率を高め、不妊治療に革命を起こすと期待されたオバサイエンスが、主力製品を取り下げ、今年2度目の企業トップの交代を発表した。

MIT Technology Reviewは以前、オバサイエンスの生殖医療テクノロジーを取り巻く疑問点を取材した記事を掲載した。オバサイエンスは、妊娠率が工場する十分な証拠がないのに、2014年から自社のテクノロジーを米国外で販売していた。

オバサイエンスは先週発表された声明で、ハラルド・ストク最高経営責任者(CEO)が辞任し、ミシェル・ディプ共同創業者が暫定CEOに就任すると発表した。

広報担当のジェニファー・ビエラによると、ディプ暫定CEOはインタビューには応じられないという。また、最高執行責任者も退任し、人員を最大30%削減するという。

オバサイエンスは、学問的には確証のない卵前駆細胞に関わる技術を主力製品として、6年前に設立された。ボストン大学の研究者が、高齢女性の卵子を若返らせる「卵前駆」細胞を人間の卵巣内に発見したと主張したことがきっかけだ。女性の生殖年齢を延ばせると期待されていた。

革命的な将来性を期待され、オバサイエンスはウォール街で一時18億ドルの価値が付けられた。しかしその後、株価は長期にわたって下落し続け、12月29日の株式市場におけるオバサイエンスの評価は4700万ドルにまで下がってしまった。

オバサイエンスの主力製品である「オーグメント(Augment)」は、前駆細胞から取り出したミトコンドリア(エネルギーを作る細胞小器官)を精子とともに体外受精治療を受ける女性の卵子に注入すると、妊娠率が高まるとされている。

ところが、オーグメントによって体外受精の成功率が上がることを示すデータは限定的であり、米国では一般には提供されていない。しかし、日本やカナダ、アラブ首長国連邦の10カ所の診療所では実施されていた。

オバサイエンスは当初年間1000件のオーグメント治療を見込んでいたが、オーグメントは思うように普及せず、今年9月までの治療実績は91件。売上高もわずか53万2000ドルに留まる。

オバサイエンスは「ビジネス・アップデート」と題した声明で、オーグメントに関するマーケティング活動の規模を縮小し、今後の臨床試験も一時中断すると発表した。

広報のジェニファー・ビエラは、今も「米国食品医薬品局(FDA)とともに米国市場の参入戦略の可能性を探っている」としているが、詳細については明かさなかった。

オバサイエンスの元々の着想はさらに意欲的で、未成熟の細胞である卵前駆細胞から高齢女性のために新しい卵子を育てようとしていた。オバサイエンスは今後も卵幹細胞の研究開発を続けていくとしている。しかし、そのような卵幹細胞が実在するかどうか科学的には決着がついていない。

投資家は、研究開発による見返りは期待できず、事業を継続しても無駄に終わると見ているようだ。オバサイエンスの現在の評価額は今年9月時点で銀行口座に残された現金1億3000万ドルの半分以下とされている。

一方で、オバサイエンスの特殊性に期待し、巻き返せるという意見もある。生殖医学の分野で革新的な技術を開発しようとするバイオテック企業はきわめて少ないのだ。

ベンチャーキャピタリストのジェイク・アンダーソン=ビアリス(患者団体「FertilityIQ」の共同創立者)は「オバサイエンスを今切り捨ててしまうのが得策とは思えません」という。「まだ他にも大学の研究室に閉じ込められている有力なテクノロジーがあるはずです。それを探して投資しようと思います」

アンダーソン=ビアリスは、現在500ドル相当のオバサイエンス株を所有しているが、元々は1万ドルの投資して手に入れた。

オバサイエンスは、6年前の創業から今年9月までに、研究開発費、事業費等の費用として2億2800万ドルの支出がある。

人気の記事ランキング
  1. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
  2. How thermal batteries are heating up energy storage レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由
  3. Researchers taught robots to run. Now they’re teaching them to walk 走るから歩くへ、強化学習AIで地道に進化する人型ロボット
10 Breakthrough Technologies 2024

MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

記事一覧を見る
人気の記事ランキング
  1. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
  2. How thermal batteries are heating up energy storage レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由
  3. Researchers taught robots to run. Now they’re teaching them to walk 走るから歩くへ、強化学習AIで地道に進化する人型ロボット
気候テック企業15 2023

MITテクノロジーレビューの「気候テック企業15」は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する、あるいは地球温暖化の脅威に対処できる可能性が高い有望な「気候テック企業」の年次リストである。

記事一覧を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る