KADOKAWA Technology Review
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会議から飲み会まで、
長引く自宅隔離で広がる
「バーチャル疲れ」
Steinar Engeland on Unsplash
Lockdown was supposed to be an introvert’s paradise. It’s not.

会議から飲み会まで、
長引く自宅隔離で広がる
「バーチャル疲れ」

新型コロナウイルス感染症の蔓延で自宅隔離を強いられている中、ビデオ会議アプリをあらゆる場面に持ち込んで人付き合いを再現しようとしている人たちがいる。しかし、自宅隔離が長引くにつれて、こうしたバーチャルな人付き合いに疲弊してしまう人も出始めた。 by Abby Ohlheiser2020.04.15

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって自宅隔離を余儀なくされることは、内向的な人たちにとっては歓迎すべきことのはずだった。自宅で1人の時間を大切にする人たちは、すでに自主的な自己隔離の専門家だ。かつてはバーのハッピーアワーに足を運ばず本を読むような人は付き合いが悪いと言われたが、いまでは愛国者だ。

「家に留まり、人との接触を避けるように」と伝えるニュースを見た内向的な人が、フィル・コリンズと一緒に「私は生涯ずっとこの瞬間を待っていました(I’ve been waiting for this moment for all my life)」と歌う映像は、3月上旬からティックトック(TikTok)で180万回以上も再生されている。内向的な人たちは、家で過ごすための専門的なガイドや、社交的な集まりなどの計画を「サボる」喜びについての考察を次々と公開した。アトランティック(Altantic)誌では、ジャーナリストのアンドリュー・ファーガソンが、新型コロナウイルス感染症による隔離が、「内向的な人たちのコミュニティに対する圧力をかなり和らげています」と書いている。こうした人々は、長年に渡って「非社会的な距離を実践しようと望みを抱いていました」。

だが、孤立することに適応し始めた人たちは、外での人付き合いを自宅に単に持ち込む方法を見つけ始めた。人でいっぱいのオフィスやジム、バー、コーヒーショップからの聖域であったはずのリビングルームは、一挙にそうしたすべてのものに代わる場所になった。社会距離戦略(social distancing)によって空欄になったカレンダーは再び予定で埋まり、友人や家族、知人とズーム・ハッピーアワーで「クォランティーニ(quarantinis、検疫とマティーニをかけたカクテルの名前)」を飲んだり、ネットフリックスの視聴パーティを開催したり、グーグル・ハングアウトで近況報告をしたりするようになった。

人々は新型コロナウイルス感染症のパンデミックに対処し、生活を変え、失ったものをバーチャルで再現しようとしている。ただし、新しい生活は、私たちがなくした生活に何となく似ているに過ぎない。すべてが、チャットやビデオ会議アプリ「ズーム(Zoom)」の範囲に収まるように薄っぺらになり、圧縮されている。ズームは決して仕事と人付き合いを一度にまとめて担えるように設計されたものではない。その結果は、内向的な人、外向的な人、そしてその間にいるすべての人にとって、お互いが可能な限り離れているにもかかわらず、つながりで満たされているという奇妙な感覚である。

「最初は乗り気で、楽しんでいました」とニューヨーク在住の法学部生であるタレクはいう。「みんなが一緒に経験していることを知るのは楽しかったです」。

しかし、ズームでの3日間みっちりの授業、バーチャルの課外ミーティング、友人や家族との毎晩の近況報告により、タレクは疲れ果てててしまった。間もなく、彼は友人からの呼びかけに応答しなくなった。少しひとりの時間が必要だった。

世界的なパンデミックの期間中に人々と話すための招待を断るのは、必要なセルフケアであるものの、付き合いの悪い奴だと思われるかもしれない。とどのつまりは、いつも1人で家にいるのだ。それなのに、家で1人の時間が欲しいと大学の友だちのグループチャットでどう伝えればよいのだろうか?

「他の予定があると言って断れるわけがありません」。イーター(Eater)のジャヤ・サクセナ記者はいう。サクセナは現在、ニューヨークのクイーンズの自宅アパートで配偶者と社会的距離を保っている 。「唯一の言い訳は『参加したくない』ですが、今そんなことは言えません」。

「外向性」と「内向性」という性格区分は星占いのようなもので、やや誇張された印象を与える可能性がある。現実には、内向的な人もいつも一人でいることを望んでいるわけではないし、外向的な人も静かな時間の良さは分かるのだ。この分類が存在するのは、人々がどのように自身のエネルギーを集めるかを説明するためだ。内向的な人は静かな時間を持つことで充電し、外向的な人は社交することで充電する。

誰もがまさにいま、新型コロナウイルス感染症の蔓延について多くの不安を処理していると話すのは、非営利研究機関「メディア心理学研究センター(Media Psychology Research Center)」の所長であり、社会科学者のパメラ・ラトレッジ博士だ。人々の自宅での生活、不安を処理する方法は、人によって大きく異なる。孤独で時間を持て余すと感じる人々がいる一方で、困難な状況下で子どもたちの在宅教育や仕事をしたりしようとしている人たちもいる。あるグループが何かやることを見つけようとしている間に、別のグループはトイレットペーパーを探しに外出する自由な時間を待ち望んでいる。

他人と社会的に距離を置いている内向的な人は、バーチャル・ハッピーアワーへの招待がなくとも、別のストレスを感じるかもしれないとラトレッジ博士はいう。「他の人と一緒に家にいることが内向的な人に負担をかけます。彼らはフルタイムのやり取りには関わらないからです」。

サクセナは自身を特に内向的だとは考えていない。彼女は仕事の後に開いているレストランがあると予定を入れ過ぎる傾向があった。しかし、ある日、ズーム・ハッピーアワーの予定を新たに入れて、カレンダーが4夜連続でバーチャル社交会でいっぱいになったのを見て、ビデオチャットからあまり多くを得ていないことに気付いた。休憩が必要だった。

「こんな風に感じるなんて、嫌な奴になったような気がします。私は友だちが大好きですし、彼らと話すのが好きです」とサクセナは話した。さらに悪いことに、彼女はビデオ・ハングアウトが危機に瀕している他の人々の生命線となっていることを知っている。「バーチャルでのやり取りは、みんなの心の健康の問題に関わっています。みんなをがっかりさせたくないのです」。

すべてが会議のように感じられる

ビデオチャットは、社会距離戦略により多くの人々が断念した人付き合いのバーチャルな代用品となった。もはや一緒にいることができないほとんどの人々に会うことができる唯一の場所だ。ズーム、フェイスタイム(Facetime)、グーグル・ハングアウトを使うのは簡単だ。しかし、これらを使うと、すべてが会議のように感じられる。バーのハッピーアワーで10人が集えば、ちょっと隣の人とおしゃべりしたり、新鮮な空気を吸いに席を外したり、飲み物を飲みながら会話を聞いたりできる。

バーチャル・ハッピーアワーはそうした余分なスペースを排除しており、「間を開けたり、沈思黙考したり、処理したりすることが必ずしもできるとは限りません」。シラキュース大学のジェニファー・グリジール助教授(コミュニケーション学)は、私にメールで伝えた。「友人との散歩で経験するような会話の間の沈黙があってはならないのです」。

オールバニー近郊の教育関係のテック企業で働くステイシーも共感する。彼女は週に数回友人と会って、テーブルトークRPG(ロールプレイングゲーム)の「ダンジョンズ&ドラゴンズ」をプレイしていた。現在、これらの物理的なゲームはオンラインに移行し、ステイシーはいつも仕事の会議で使っているのと同じノートPCのカメラを通じてゲームをプレイしている。ゲームは依然として楽しいものの、リラックスするにはほど遠い。ビデオ・セッションにはタイムラグがあり、みんなが同時に話したり、同時に黙ったりしてしまう。

「ボディランゲージを必ずしも読めるわけではありません。それで、お互い同時に話し始めたり、誰もしゃべらなくなったりします。何かがちょっと分からなかったり、他の人のボディランゲージを見ることができなかったりして、ほんの小さな遅れがあります」。

「単に会話として使うときに、ズームに『普通』はありません」とラトレッジ博士はいう。「私たちには『会議』のメンタルモデルがあります。つまり、会議はスケジュールされたものであり、ある程度の時間続き、身なりをきちんとし、カメラをオンにするものであるということです」。

ビデオチャットや電話、ゲームの夜を過ごしても、ハグや一緒に食事をする代わりにはならない。しかし、少なくとも、消耗していると感じる人のために、ツールを少し改善する方法はいくつかある。

タレクは、ズームの講義中にカメラで自分の姿を表示する機能をオフにすると、すべてのビデオ・チャットをインタビューのように感じることが少なくなることを知った。ラトレッジ博士はビデオを完全に排除することを提案する。「電話では時間の長さの制約は感じません。長くても短くてもかまいません。歩き回ったり、他のことをしたりできますし、観察されていません」(ラトレッジ博士)。さらに、時間制限を設定して「電話を切っても大丈夫です」。

会話の仕方を変えたほうがいい場合もあるかもしれない。「ズームをしながら、料理を試みたり、簡単なゲームをプレイしたりすることで、より自然な『間(ま)』をおしゃべりに入れられるかもしれません」とグリジール助教授はいう。「互いに長い電子メールを書くことに戻るのも良いでしょう」。

しかし、グリジール助教授は時代をさらに遡って手紙を書くことについては慎重だ。みんなが1日中家に居られるわけではないし、オンラインで友だちと連絡を取り合うにはどうすればよいか考えているわけでもない。ズームやインスタグラムやサワーライ麦パンの酵母を管理している人もいれば、その手紙を届けなければならない人もいる。

※本文中のタレクとステイシーは本人の希望により、ファーストネームのみ掲載。

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アビー・オルハイザー [Abby Ohlheiser]米国版 デジタル・カルチャー担当上級編集者
インターネット・カルチャーを中心に取材。前職は、ワシントン・ポスト紙でデジタルライフを取材し、アトランティック・ワイヤー紙でスタッフ・ライター務めた。
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