KADOKAWA Technology Review
×
12/16開催 「再考ゲーミフィケーション」イベント参加受付中!
世界各国の取り組みを比較
「接触者追跡アプリ」
追跡プロジェクト始めます
-
A flood of coronavirus apps are tracking us. Now it’s time to keep track of them.

世界各国の取り組みを比較
「接触者追跡アプリ」
追跡プロジェクト始めます

新型コロナウィルス感染症が確認された人と接触した人を追跡するアプリが続々と登場している。国によってアプリの仕組みやポリシーに違いがあることから、MITテクノロジーレビューはこのほど、「コビッド・トレーシング・トラッカー」プロジェクトを開始した。 by Bobbie Johnson2020.05.12

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威を振るう中、世界中の科学技術者たちが、感染者と接触した人を特定し、追跡し、通知するアプリやサービス、システムの構築を急いでいる。間に合わせで作られた簡易的なものもあれば、広範囲かつ詳細な情報を収集するものもある。たとえば、中国のシステムは、市民の身元から位置情報、オンライン上の支払い履歴までさまざまなデータを収集し、地元警察は隔離規則に従わない違反者を監視する。

少人数のプログラマー集団がある特定地域向けに開発したサービスがある一方で、広範囲な地域全体をカバーするものもある。アップルとグーグルは大規模なチームを組み、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に曝露した可能性のある人に通知する新システムを構築しており、まもなく数億人もの人々がこのシステムを利用できるようになる。

こうしたアプリは単なる技術官僚的な空想なのか、あるいは正しく運用すれば、調査員が新型コロナウイルス感染症と診断された人に話を聞き、濃厚接触者を追跡するといった人手による追跡を補完する役目を果たすのかどうか? 意見は分かれる。しかし、実際のところ、接触者追跡システムはすでに世界中で展開されており、今後数カ月以内にさらに多くのシステムがリリースされる見込みだ。

サービスは雪崩のように増えているが、どのようなサービスなのか、社会にどのように影響を与えるのかについては、ほとんど知られていない。ダウンロードして使う人はどれくらいいるのか、新型コロナウイルス感染症を押さえ込むためにどれだけ多くの人が使う必要があるのか? どのようなデータが収集され、誰と共有するのか?  収集された情報は、どのように使われるのか? 不正使用を防ぐポリシーはあるのか?

このような疑問を持ち始めると、必ずしも明確な答えがないことに気づく。

MITテクノロジーレビューが世界中のアプリを比較したところ、情報を集約するリポジトリがなく、常に変化する不完全なデータがバラバラに散らばっている状況だった。開発者や政策立案担当者が採用するアプローチは単一でも標準的なものでもなく、国によって監視や透明性のレベルは根本的に異なっている。

急速に進化していく状況をチェックするため、MITテクノロジーレビューは、情報を初めて1カ所に集約するプロジェクト「コビッド・トレーシング・トラッカー(Covid Tracing Tracker)」を開始した。世界中の自動接触者追跡対策の詳細を収集するデータベースだ。

調査対象を理解するため、さまざまな専門家と協力して、政府の文書や発表、メディアの報道などを基礎情報として収集した。また、関連するテクノロジーや方針を理解するため、追跡アプリの開発者にも直接話を聞いている。

データベースには現時点で、主要な25件の自動接触者追跡対策を掲載している。どのような対策なのか、どのように機能するのか、そして関連するポリシーやプロセスなどの詳細を網羅したものだ。

MITテクノロジーレビューは、サービスの開発、展開、進化をリアルタイムで追跡するため、このデータベースの監視、改善の支援を求めている(詳しくは末尾の「データ変更方法」参照)。

ただし、最初に注意すべき点や、詳しく目を通してほしいことがある。MITテクノロジーレビューの「接触者追跡対策」追跡は現在進行中のプロジェクトだ。パンデミックが続き、接触者追跡アプリが広がる中、情報は常に変化している。そのため、新しいアプリがリリースされればリストを更新し、さらにデータを精査していく。以下が詳しい調査内容だ。

コビッド・トレーシング・トラッカーとは

もっとも基本的なことは、このリストが各国政府が支援する自動接触者追跡アプリのリストであるということだ。ユーザーや公衆衛生当局者に誰が新型コロナウイルスに曝露している可能性があるかを自動的に通知するアプリが対象だ。これは一般的に「曝露通知」と呼ばれる。

個別に見ていくと、素朴な疑問が浮かぶ。誰が作成したのか? すでにリリースされたのか? どこで、どのプラットフォームで利用できるのか? どのようなテクノロジーを使っているのか? 今後、時間の経過とともに、サービスが実際にどのように機能しているのか、ダウンロードした人数、どの程度の普及率を達成したのかが明らかになるはずだ。

だが、その後さらに複雑な問題が発生する。アプリの使用は強制なのか? どの程度プライバシーが守られるのか? 市民の権利は守られているのか? 開発者はどの程度の透明性を持って作業をしているのか? こうした疑問に対する回答を取得するため、米国自由人権協会などが提唱した原則に基づいて、我々は5つの質問をした(以下の()は表の列に対応している)。

  • 自発的なものか?(Voluntary) ユーザーに許可を求めるオプトインのアプリもあるが、市民の多くあるいは全員のダウンロード・使用を強制するアプリもある。
  • データの使用に制限はあるのか?(Limited) データは司法当局などによって公衆衛生以外の目的で使用される場合もあり、新型コロナウィルスの蔓延期間よりデータ利用期間が長くなる可能性がある。
  • 一定期間が経つとデータは破棄されるのか?(Data destruction) アプリが収集したデータを、永続的に保管するべきではない。データが適切な期間内(通常は最大30日程度)に自動的に削除されるか、ユーザーが手動でアプリから自身のデータを削除できるようになっていたら、星を付けて評価する。
  • 収集するデータは必要最小限になのか?(Minimized) 文字通り、アプリが必要な情報のみを収集しているのかどうかだ。
  • 透明性があるのか?(Transparent) ポリシーや設計を明確に公開するか、オープンソースのコードを基礎とするか、または両方を採用することで透明性が確保できる。

各質問に「はい」と答えられる場合、評価に星を付けている。答えが「いいえ」または不明の場合、評価は空白となる。また、前後の状況を整理するためのメモ欄もある。

さらに、アプリの基盤となる基本的なテクノロジー(表の「Tech」列)についても説明しておく。主な用語を以下にまとめた。

  • 位置情報(Location):一部のアプリは(たとえば、GPSや付近の基地局の三角測量を使用して)携帯電話の移動ルートを追跡し、同じ場所にいた人の携帯電話を探して接触者を特定する。
  • Bluetooth:一部のシステムは「近接追跡(proximity tracking)」を使っている。近接追跡はBluetoothを介して暗号化されたトークンを近くにいる人の携帯電話と交換する。位置情報の追跡よりも匿名化しやすく、一般的にはプライバシーが守られると考えられている。
  • グーグル/アップル:多くのアプリは、アップルとグーグルが共同開発中のAPIに頼ることになる。iOSとアンドロイドOSを搭載した携帯電話がBluetoothを介して互いに通信できるため、開発者は両方の端末で利用可能な接触者追跡アプリを開発できる。今後、両社はオペレーティングシステムにこのAPIを直接組み込む予定だ。
  • DP-3T:「分散型プライバシー保護近接追跡(privacy-preserving proximity tracing)」のこと。Bluetoothベースで追跡するためのオープンソースのプロトコルで、個別の携帯電話の接触履歴はローカル(情報収集者)に保存され、中央サーバーには共有されないため、中央サーバー側では誰が曝露されたか分からない。

このカテゴリーは随時拡張される可能性があり、その時点でこの記事は訂正する。

コビッド・トレーシング・トラッカーに含まれないもの

第一に、 我々は一般的にすでに使用されているか、今後使用される予定の自動接触者追跡アプリに焦点を当てている。つまりアプリにデータを提供するための基礎的なプロトコルについては追跡していない(そのためグーグル/アップルのAPI自体はリストにない)。また、開発初期段階の新しいアプリや、政府の支援や公衆衛生サービスと接続していない実験的なアプリの追跡もしていない。初期調査では150本以上の準備段階の接触者追跡アプリをリストアップしているが、その多くは一般にリリースされるまでの明確な道筋がない。プロジェクトが進み、実際に使えるようになったら、リストに追加していく予定だ。

第二に、人間による接触者追跡と自動システム間の相互作用は重要だが、現段階では人間による接触者追跡はチェックしていない

最後に、コビッド・トレーシング・トラッカーはアプリをダウンロードするか、しないかを推奨するものではない。情報を得た上でサービスを利用するか、政府のアプローチに変更を求めるかを判断するのに役立つデータを提供することを目的としている。

こうした情報をすべてをチェックするには、絶え間ない努力が必要だ。現実は変化し続け、さまざまな数字は変わり、ポリシーは守られたり、守られなかったりする。理論上起こることと、実際に起こることは異なる。あるいは約束されたことが、結局、実現しないこともあるかもしれない。

そのため、多くの人の支援が必要だ。

コビッド・トレーシング・トラッカーへのアクセス方法

コビッド・トレーシング・トラッカーへアクセスするもっとも簡単な方法は、この記事または、データ可視化サービスのフローリッシュ(Flourish)にアクセスすることだ。基礎となるデータの公開版は、読み取り専用のスプレッドシートにあり、1日1回、米国東部標準時午後6時にアップデートされる。

データの更新方法

コビッド・トレーシング・トラッカーの更新・修正、追加を希望する場合は、関連情報をCTT@technologyreview.com宛にメールしてほしい。政府や開発者の発表、検証可能なニュースソース、または発表された研究など情報源の明記をお願いしたい。詳しくは別の記事で説明している

参考文献

自動接触者追跡および曝露通知についてさらに詳しく知りたい人のために、関連する論文、文書を以下にまとめた。

 

(関連記事:新型コロナウイルス感染症に関する記事一覧

人気の記事ランキング
  1. Google’s antitrust gut punch and the Trump wild card グーグルに帝国解体の危機、米司法省がクローム売却も要求
  2. Promotion MITTR Emerging Technology Nite #31 MITTR主催「再考ゲーミフィケーション」開催のご案内
  3. This startup is getting closer to bringing next-generation nuclear to the grid 次世代原子炉のカイロス、商用化へ前進 グーグルと大型契約も
ボビー・ジョンソン [Bobbie Johnson]米国版 上級編集者
サンフランシスコを拠点に、主に特集と紙の雑誌の編集を担当しています。前職は、数々の受賞歴があるオンライン・マガジン「マター(Matter)」の共同創設者。ガーディアン紙ではテクノロジー記者と編集者を務めていました。
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る