KADOKAWA Technology Review
×
「Innovators Under 35 Japan」2024年度候補者募集中!
The Latest Driverless Cars Don’t Need a Programmer Either

AIが「交通ルールを破ってよい場合のルール」を強化学習で訓練中

コンピューターが囲碁のマスターで有効であった手法が、複雑な運転状況に対処する方法として、まもなく実車両でテストされようとしている。 by Will Knight2017.01.09

今までにはなかった自動運転車が数カ月以内に道路を走るようになるだろう。従来のほとんどの自動運転車は、遭遇する可能性がある状況に対応するようプログラムされているが、この自動車は違う。シミュレーションにより、事故が起こりうる場合に安全に対処する方法を自分で学習するのだ。

この自動車は、強化学習(動物が報酬とそれに至る行動を関連付けて学習することから着想を得ている)により、混雑した交差点、渋滞した幹線道路、すし詰めのロータリーなどを通り抜けるように学習する。

多くの自動車メーカーに車両安全システムを供給しているイスラエル企業のモービルアイ(Mobileye)は、先週ラスベガスで開催されたコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)で、ドイツの自動車メーカーBMW、半導体メーカーのインテルと共同で2017年下期にこの手法を路上で試験すると発表した。

強化学習では、人間はコンピューターの動作をプログラム・コードで記述したり、学習用の特定事例を与えたりしない。その代わり、ある結果を最も確実に導く行動の観点で、コンピューターは自分でプログラムを変更して実験する。自動運転の場合、学習目標は、安全かつスムーズにロータリーに進入したり、交通の流れに合流したりすることだろう。強化学習は、アタリのビデオゲームや囲碁で超人的技能に到達したことで、人間によるプログラムでは攻略が困難なことを処理するコンピューターの訓練に効果的だと証明された。

コネクティッド・テクノロジーと自動化テクノロジーの標準の開発と確立を担う非営利団体アメリカン・センター・フォー・モビリティ(American Center for Mobility)のジェームス・マドクス・ディレクターは、 人間のドライバーとの機械の関わり方が、自動運転車の主要課題になるだろうという。目標とすべき自動運転システムでは「1台の車両の経験だけでなく、他のドライバーからも学習する必要があります」とマドクス・ディレクターはいう。モービルアイは、異なる自動車メーカーの自動運転車から収集したデータを共有するプラットフォームも開発中だ。運転情報がすぐに利用できれば、自動運転テクノロジーの進歩に重要だと示せるかもしれない、とマドクス・ディレクターはいう。

自動運転テクノロジーは、2017年のCESの慌ただしい 発表とデモの中でも注目された分野だ。トヨタは、バーチャル・アシスタントが登場する自動運転のコンセプトカーを展示した。半導体メーカーのエヌビディアは、自動運転用に開発した強力な新SoC(システム・オン・チップ:システム全体をチップ化した半導体製品)を紹介した。自動車部品メーカーのデルファイは、モービルアイと共同開発した自動運転のアウディを実演した。

モービルアイは、ここ最近、自社の学習システムに取り組んでいる。モービルアイのシャイ・シャレフ=シュワルツ副社長(技術部門担当)は、バルセロナ(スペイン)で2016年12月に開催された人工知能関連の学会で発表し、強化学習によって、自動運転車両にさまざまな巧みな運転技能を搭載できると述べ、モービルアイが強化学習で取り組んでいる、ある難しい運転状況のデモを紹介した。シミュレーションでは、バーチャルな幹線道路2本の交差する地点で、少数の車両が逆方向から同時に合流してくる状況を再現している。

「守りと攻めの行動の間でバランスを取る必要があります。防御的すぎると進めませんし、攻撃的すぎると他の車と衝突します。他のドライバーとのタイミングを図る必要があるのです。ルールをただ守るわけにはいきません。ルールを破るルールを知る必要があるのです」

人気の記事ランキング
  1. AI can make you more creative—but it has limits 生成AIは人間の創造性を高めるか? 新研究で限界が明らかに
  2. Promotion Call for entries for Innovators Under 35 Japan 2024 「Innovators Under 35 Japan」2024年度候補者募集のお知らせ
  3. A new weather prediction model from Google combines AI with traditional physics グーグルが気象予測で新モデル、機械学習と物理学を統合
  4. How to fix a Windows PC affected by the global outage 世界規模のウィンドウズPCトラブル、IT部門「最悪の週末」に
  5. The next generation of mRNA vaccines is on its way 日本で承認された新世代mRNAワクチン、従来とどう違うのか?
ウィル ナイト [Will Knight]米国版 AI担当上級編集者
MITテクノロジーレビューのAI担当上級編集者です。知性を宿す機械やロボット、自動化について扱うことが多いですが、コンピューティングのほぼすべての側面に関心があります。南ロンドン育ちで、当時最強のシンクレアZX Spectrumで初めてのプログラムコード(無限ループにハマった)を書きました。MITテクノロジーレビュー以前は、ニューサイエンティスト誌のオンライン版編集者でした。もし質問などがあれば、メールを送ってください。
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年も候補者の募集を開始しました。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る