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立ち上がるアジア系米国人、スラックで広がる反差別運動
Ms Tech | Unsplash, Pixabay
Asian-Americans are using Slack groups to explain racism to their parents

立ち上がるアジア系米国人、スラックで広がる反差別運動

アジア系米国人はこれまで人種差別問題の議論で蚊帳の外に置かれてきた。しかし、「ブラック・ライブス・マター(Black Lives Matter)」を発端として行動を起こす人々が増えている。 by Tanya Basu2020.06.25

ジェス・フォンは落ち着かなかった。ジョージ・フロイドの死に端を発した「ブラック・ライブス・マター(Black Lives Matter)」の抗議行動が広がる中、自分も何か助けになりたいと思っていた。そこで、フォンはフロイドの死後数日間でネット上に出現した、人種差別と戦う方法に関するリソースのリストを眺め始めた。そして、アジア系米国人のコミュニティに対するアドバイスが少ないことに気づいた。

「私たちは黒人ではなく、白人でもありません」。自身を中国系米国人だとするフォンはそう話す。「黒人以外を対象としたリソースの多くは、白人向けです。推薦書籍や寄付リストは、白人を対象としています。私は個人的に、彼らと連帯感を覚えるのはとても困難に感じています」。

代わりにフォンが役立つと思ったのは、「レターズ・フォー・ブラック・ライブス(Letters for Black Lives)」というミディアム(Medium)のサイトから派生した非公式のスラックだった。このスラックには過去数週間で2000人近くの新しいボランティアが参加している。レターズ・フォー・ブラック・ライブスは、ルイジアナ州バトンルージュのアルトン・スターリングとミネアポリス郊外のフィランド・カスティーリャの射殺事件の後、ニューヨークを拠点とする民族学者クリスティーナ・シューによって2016年に設立された。カスティーリャの婚約者は、彼を射殺した犯人を、(のちに誤りだと判明するが)「中国人」だと特定した。シューは、ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR、米国の非営利・公共ラジオ局のネットワーク)に次のように語った。「このことでアジア系米国人が黒人コミュニティに対して警察の側に立つ可能性があります。しかし、アジア系米国人が反黒人と反人種差別について家族で話すのを手助けするような手紙を、翻訳して慎重に使えば対処できるかもしれません」。そうしたことを家族で話し合うのは移民の子どもたちにとって、とても大変なことなのだ。

レターズ・フォー・ブラック・ライブスの運営を手伝うホイ・ホンは、自らの家族と慎重かつ効果的に人種について話し合うために参加したという。「私の両親はベトナム難民ですが、私は自分が米国人であって幸運だと思います。私は両親が特定の偏見と視点を持っている理由と苦難を認識する必要があります」。ホンは話す。「そのことを軽蔑したくはありませんが、同時に、そういった行動を認め、修正する必要があります」。

カリフォルニア大学アーバイン校の政治学者クレア・キム教授によると、アジア系米国人は長い間、米国における人種問題の会話で「第三者の位置」に置かれてきた。すなわち、黒人と白人の間の議論の蚊帳の外に置かれてきたということだ。

味方になる方法

レターズ・フォー・ブラック・ライブスの狙いはとてもシンプルだ。家族に宛てた基本的な手紙のテンプレートを使用して、それをさまざまな言語や方言に翻訳する。そして、反人種差別とは何か、アジア系米国人が黒人コミュニティの味方として行動するにはどうすればよいかを共有する。現時点で、31の言語に翻訳された手紙がある。また、さまざまな言語で読み上げたオーディオ作品をユーチューブに投稿することで、高齢者や視覚障害者へとリーチを拡大している。

こうした取り組みはすべてスラック上で運営されている。スラックはオフィスの生産性を向上させるための企業向けソフトだが、今では家族間で作業を分担したり地元のグループが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの期間中に障害者や高齢者に食料品を支給したりするのにも使われている。

スラックは会話や組織化を促進するのに役立つように設計されているが、手紙の翻訳に関する調整作業の多くは厳重な管理下にあるとホンは話す。例えばこのグループは非公開で、参加方法を見つけ出すことさえ容易ではない。ホンは「私たちは本当に長い行動規範を定めており、その規約中にスラックへの招待を埋め込んでいます」と話す。「意図的にそうしているのです。隠したいわけではありませんが、私たちのグループに敵対するユーザーの行動に対抗し、荒らしを回避するのにも役立ちます」。

重要なリソース

こうした方法で使用されているツールはスラックだけではない。シンプルでカスタマイズ可能なインタラクティブWeb ページをユーザー自身が作成できる「カード(Carrd)」というサイトは、人種問題について話すクラウドソース・ツールとして台頭している。たとえば、このブラック・ライブス・マターに関するサイトでは、クリック可能なフラッシュカードを使用して、反人種差別作業に関するリソースについての情報を異なる言語に翻訳している。

プリニタ・テバラジャのカードは、反人種差別の議論に必要なさまざまな語彙を南アジアの言語に翻訳する機能を備えている。オーストラリア在住のテバラジャは、スリランカ内戦の影響を受けたイーラム・タミル人の娘であり、彼女の新しい取り組みは人種差別について長年深く考えた結果として生まれたものだ。テバラジャはタミル語の翻訳で母親と一緒に働いた後、翻訳を手伝うために手を貸してくれる友人や他の活動家をインスタグラムで募集した。

レターズ・フォー・ブラック・ライブスにおいて、中国語の流暢さは「平凡」だというフォンは、簡体字中国語の手紙が作られた精巧なプロセスを次のように説明する。スラックのグループに参加する約100人のメンバーが貢献し、より色の薄い肌が好ましいといった小さな攻撃のような、中国系米国人特有の経験を文章に追加していった(南アジアのバージョンは、カーストと肌の色に基づく差別にも触れ、そうした行動と米国の人種差別との関係を説明する)。

ミレニアル世代の翻訳者は、自分の両親に助けを求め、それ自体が反人種差別について親とつながる方法となっている。「母には本当に助けられました。私が、『この文章を読むから、これが大丈夫に聞こえるかどうか教えてください』と言うと、母は文法的に間違っているように聞こえる箇所を直すのを手助けしてくれます」(ファン)。

イラン系米国人のエイドリアン・マフサも同じように感じている。マフサは「すぐ隣のソファに座っている」母と一緒に手紙をペルシャ語に翻訳したが、彼女と彼女の兄弟が何十年にもわたって持っていた黒人差別についての見解を伝えるのに役立ったという。叔父が、警察に対して礼儀正しくすればよい扱いを受けられると言ったときに両親が反駁したときには、特にそうだった。

マーサは現在、同じ情報をティックトック向けにパッケージ化する方法を考えている。マーサは私がインタビューをした他の多くの人と同様に、この手紙が反黒人やその他の人種差別的な行動について公然と話し、認識するための第一歩に過ぎないことを認識している。

フォンは最近、中国のソーシャルメディアであるウィーチャット(WeChat)で同様の現象を見たという。フォンのウィーチャットのフィードは、通常は当たり障りのないものである。「メイシーズ百貨店での売上に関するアラートがほとんどです」。しかし、ジョージ・フロイドの殺害直後、「フロイドは左翼活動家が警察と政府を弱体化させるために使われた小道具だ」と主張する陰謀論が投稿されているのに気づいた。彼女は、レターズ・フォー・ブラック・ライブスでの経験から、人種差別について話すためにウィーチャットのスレッドに飛び込むという行動を取らざるをえなかったと話す。他の人も同様に行動している。

インスタグラムとウィーチャットのストーリー機能は、人種差別について、移民に手を差し伸べる強力な方法でもある。「インスタグラムは私たちがコミュニティ・メンバーに広めるのに役立ちますし、返信も受けられます」。サンフランシスコのベイエリアを中心に活動するコミュニティ・グループであるサウス・アジアンズ・フォー・ブラック・ライブス(South Asians for Black Lives)のボランティア、ガリマ・ラヘジャは話す。「私たちのグループはコメントから物事を学び、人々が自らの洞察を述べるときの複雑な出来事の歴史を理解しています」。

ラヘジャは、こうした洞察から、ワッツアップ(WhatsApp)とフェイスブックのグループメッセージで共有可能なグラフィックが必要だと分かったという。「グラフィックが一目で理解しやすいことは確かです。つまり、難しい専門用語や人々を疎外する強い言葉を使わないということです」。また、タイムゾーンを越えてさらに幅広い人々にリーチする能力が大きな利点の1つだと付け加えた。

ただ、この取り組みは多くのアジア系米国人に対してはとってはまだ実施されていない。支援団体であるアジアン・アカウンタビリティ・フォー・ブラック・ライブス(Asian Accountability for Black Lives)と協力し、レターズ・フォー・ブラック・ライブスに参加するエミリー・ライは、人種について話し合い、教育するために、しばしばミームを使っている。ライは取り組みがまだ半ばであることを認識している。「私の家族はまだ白いブロンドの絵文字を使っています。私は家族と海を隔てたところに住んでいますが、テクノロジーにはまだまだ可能性があります。オンラインでどのような会話ができるのか、また、直接どんな会話をする必要があるのかを学ぶ必要があります」。

ラヘジャもこれに同意する。「目標は、こうした直接的な会話をすることです」(ラヘジャ)。

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人間とテクノロジーの交差点を取材する上級記者。前職は、デイリー・ビースト(The Daily Beast)とインバース(Inverse)の科学編集者。健康と心理学に関する報道に従事していた。
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