KADOKAWA Technology Review
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誰が、遺伝子編集ベビーの誕生を認められるべきなのか?
AP Photo/Kin Cheung
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The “staged rollout” of gene-modified babies could start with sickle-cell disease

誰が、遺伝子編集ベビーの誕生を認められるべきなのか?

CRISPRで遺伝子を編集されたベビーが2018年に中国で誕生した件を受けて、全米アカデミーズと英国王立協会の科学者たちは、どのような場合にCRISPRを実際の治療に適用すべきかという指針を示す200ページ超の報告書を発表した。 by Antonio Regalado2020.09.09

2018年の中国でのCRISPR(クリスパー)ベビーの誕生によって、予定より早い完成を余儀なくされたハイレベル報告書において、CRISPR技術を今後、医療で利用する際は、健康な子どもを授かる手段が他にない場合、例えば2人とも鎌状赤血球症の黒人カップルなどに限定すべきだと科学者たちが主張している。

全米アカデミーズと英国王立協会が作成した200ページ超の報告書によると、「遺伝性のゲノム編集」すなわち、ヒト胚の遺伝子を書き換えるCRISPRのような強力なDNA編集ツールは、まだ体外受精の現場で使用できるほど安全ではないが、将来的にそうなることが期待されるという。

CRISPRが再び使用されることがあるなら、最初は、他に健康な子どもを授かる可能性がないカップルを助けるために使用されるべきである。そうしたケースは稀だが、恩恵はほぼ明らかにリスクを上回るだろう。

ジャーナリストとのオンライン会見において、パネルの共同議長を務めたロックフェラー大学のリチャード・P・リフトン学長は、今回の報告書は「安全性を確かめるためのCRISPR技術の段階的な普及」の概略を示したものであると説明した。会見に参加したパネリストたちは、知能強化や、耐病性を高めた子どもを生み出すような未来の応用例は不確定要素が大きすぎて試すべきではないと述べた。

CRISPRが初めて開発されて以来、科学界は、CRISPRの利用を自主規制することで、法的規制を回避することを望んでいた。しかし2018年、当時ほとんど無名だった中国人科学者の賀建奎(フー・ジェンクイ)が先だって、HIVに感染しないようにするために双子の女児の胚を遺伝子操作したと公表した後、その望みは後退を余儀なくされた。

フーは広く非難され、その後、医療規定に違反したとして3年の懲役刑となったが、科学界のリーダーたちは当惑せざるを得なかった。フーは自分の計画の多くの部分について周囲に語っていただけでなく、全米アカデミーズが以前出していた報告書を、自らの研究の倫理的正当性の裏付けとして引用していたからだ。2017年の同報告書は、CRISPR技術の利用を時期尚早としながらも、道徳的に問題ないとお墨付きを与えていた。

中国の大事件が直接の原因となって今回のプロジェクトが「予定より早まりました」と語るのは、オックスフォード大学の遺伝学者で、パネルの共同議長を務めるケイ・デイビース教授だ。これまでの報告書とは違い、今回は倫理面での議論には踏み込まず、「責任ある転換経路」という実際的な問 …

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