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主張:新型コロナ治療で「上級国民」優遇をやめるべき本当の理由
Alex Wong/Getty Images
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Drug companies shouldn’t play favorites in granting access to experimental covid-19 treatments

主張:新型コロナ治療で「上級国民」優遇をやめるべき本当の理由

トランプ大統領と前のニュージャージー州知事の新型コロナウイルス感染症治療では、一般にはまだ使用できない未承認の治療薬が使われた。権力者や有名人を特別扱いすることは医薬品開発プロセスに悪影響を及ぼす可能性がある。 by Alison Bateman-House2020.10.30

米国のドナルド・トランプ大統領とクリス・クリスティ前ニュージャージー州知事は9月、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検査で陽性と判定され、入院した。米国ではパンデミックが始まって以来ほぼ毎日、この2人と同じように数万人が入院している。

しかし、トランプ大統領とクリスティ前知事は特例だった。2人は、一般国民にはまだ利用できない実験的な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療を受けた。その後2人は回復し、新型コロナに感染した米国人の大多数はまだ利用できない新型コロナ治療薬の利用を米国企業が2人に許可したことを公に認めた。

トランプ大統領とクリスティ前知事の特別待遇から、金持ちや有名人は医療に優先的にアクセスできるという見解について数多く取沙汰されている。しかし、この2人の男性が臨床試験以外で実験薬を利用するために規則を回避したのか、もしそうなら、この2人の行動が医薬品開発にどのような影響を与えるかという点については、これまであまり注目されてこなかった。

他に選択肢のない重症患者には、米国食品医薬品局(FDA)によって承認される前の開発中の医薬品を利用することが法律で許可されている。開発中の医薬品の利用は、関係者だけでなく臨床開発プロセス自体を保護するために、必然的に厳格な規制下で管理されている。

この規制の回避を許すことは、臨床開発プロセスを遅らせたり、妨げたりする可能性がある。このように規則が曲げられているという世間の認識だけでも、一般の人々は臨床試験への参加に対して疑問を持つようになる可能性がある。これはどのような状況でも問題だが、パンデミックを食い止めるために開発されている医薬品が対象になっている場合は特に問題だ。

「治験用新薬利用範囲拡大」とは?

製薬会社は何十年もの間、「治験用新薬利用範囲拡大」という手段を利用して、一部の患者に対して臨床試験以外での被験薬の利用を許可してきた。治験用新薬利用範囲拡大は歴史的に「コンパッショネート使用(人道的使用)」と呼ばれ、重症患者または生命に関わる病状の患者に最後の望みとして被験薬を試すことを許可するものである。

コンパッショネート使用の資格を得るには、患者はいくつかの基準を満たす必要がある。患者が利用できるFDA承認の治療法が存在しないこと、患者に対する潜在的な利益が潜在的なリスクを上回ると判断した医師がコンパッショネート使用の申請をすること、患者が臨床試験に参加できない状態にあること、そして、利用を許可しても開発中の製品の臨床試験を妨害しないと製薬会社が確信していることだ。

最後の2つの要件は特に重要だ。なぜなら、FDAは臨床試験中に収集されたデータから安全性と有効性を評価して、新しい治療法を承認するかどうかを決定し、承認されるとより多くの患者が利用できるようになるからだ。臨床試験に十分な人数の参加者を確保することはもともと困難だ。もし、患者が臨床試験に参加せずに実験薬を利用できたら、重要な臨床試験データを収集することはさらに困難になるだろう。コンパッショネート使用制度の規則や精神を無視することは、医薬品開発システムだけでなく、それに対する国民の信頼と国民の健康全般に深刻な弊害を及ぼす可能性がある。

トランプ大統領は、9月30日頃に新型コロナウイルスの検査で陽性反応が出た。そして退院後、「リジェネロン(Regeneron)」を使用したと繰り返し得意げに話した。つまり、コンパッショネート使用制度を利用して、リジェネロン・ファーマシ …

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