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ディープフェイクに新潮流、2021年に流行しそうな事例6つ
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The year deepfakes went mainstream

ディープフェイクに新潮流、2021年に流行しそうな事例6つ

人工知能(AI)が作成するよるねつ造映像「ディープフェイク」は当初、ポルノ映像における顔のすり替えが主要な用途と言っても過言ではなかったが、2020年には、文化の主流に影響を与えるような用例も見られるようになってきた。 by Will Douglas Heaven2021.01.05

オンラインメディア「マザーボード(Motherboard)」のサム・コール記者は2018年、インターネットの一角で新たな不快な分野を発見した。投稿サイトのレディット(Reddit)で、「ディープフェイクス(deepfakes)」と名乗るユーザーが、偽造ポルノ映像を本人の合意なしに投稿していたのだ。その映像は、人工知能(AI)アルゴリズムを使って、本物のポルノ映像の顔をセレブの顔をすり替えたものだった。コールがこの現象に警鐘を鳴らしたまさにその時、AIで顔をすり替えるテクノロジーが爆発的に広まろうとしていた。1年後には、ディープフェイク・テクノロジーで偽造されたポルノがレディット外にも広がった。簡単に手に入るアプリを使って、どんな女性の写真からも衣服を「剥ぎ取る」ことができたからだ。

それからというもの、ディープフェイクはひどく非難されてきた。当然だろう。大半のディープフェイクは、今でも偽造ポルノを作るのに使われている。ある女性調査ジャーナリストは、ディープフェイクの偽造ポルノで深刻な嫌がらせを受け、一時的に沈黙することになった。さらに最近では、詩人で小説家の女性が脅しと辱めを受けた。今後、政治的なディープフェイクで本物と見まがうばかりのフェイクニュースが生成されれば、不安定な政治環境に大混乱をもたらす可能性もある。

しかし、メディア(静止画や動画)を操作したり合成したりするディープフェイクのアルゴリズムがより強力になるにつれて、ユーモラスなものや日常的なものなど、ポジティブな用途のディープフェイクも増えてきている。本記事では、今後活用が進みそうなディープフェイクの用例を2020年の時系列に沿って紹介しよう。

内部告発者隠し

 

2020年6月に公開された、ロシア共和国でのLGBTQの個人の迫害に関する調査映画『チェチェンへようこそ(Welcome to Chechyna)』は、ディープフェイクを使った初のドキュメンタリー映像となった。ディープフェイクが使われた理由は、対象者の身元を保護するためだった。主役を務めたのは迫害と戦う活動家自身であり、彼らは拷問や殺害を避けるために隠れて暮らしていた。デイヴィッド・フランス監督は、こうした活動家の身元を隠す方法をいくつも模索した後、ディープフェイクで「覆い隠す」ことに決めた。

フランス監督は世界中の他のLGBTQ活動家に顔を貸してくれるよう依頼し、借りた顔を映画の登場人物の顔に貼り付けた。ディープフェイクを使うことで、フランス監督は被写体と同質の表情を保持でき、結果的にこれらの被写体の痛み、恐怖、人間性を保持できた。この映画は合計23人の個人の顔を隠し、新形式の内部告発者保護の先駆けとなった。

修正主義の歴史

2020年7月にはマサチューセッツ工科大学(MIT)の2人の研究者、フランチェスカ・パネッタとハルシー・バーガンドが、1969年のアポロ月面着陸の歴史改変映像を作成したプロジェクトを公開した。 『月で大惨事が起きていたら(In Event of Moon Disaster)』と名付けられたこの映像には、アポロ11号の歴史的な月面着陸が計画どおりに実現しなかったとしたら、リチャード・ニクソン大統領がしたであろうスピーチが使われている。パネッタとバーガ …

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