KADOKAWA Technology Review
×
Can a Powerful New Quantum Computer Convince the Skeptics?

D-Wave、2000量子ビットのコンピューターを発表

最新機が2000量子ビットを達成しても、D-Waveが本当に量子コンピューターなのか、疑問を持つ研究者はいまでもいる。 by Jamie Condliffe2017.01.25

量子コンピューター企業D-Waveシステムズは、従来機の2倍の演算能力があり、従来型のハードウェアと比べて非常に高速なコンピューターを発表した。しかし、D-Waveシステムズの最新モデルの価値を科学界の一部は認めていない。

D-Waveの新型量子コンピューター「2000Q」は、まさしく2000量子ビット(2進数のビットに相当し「キュービット」ともいう)の性能がある。D-Waveの旧型機はロッキード・マーチンやNASAとグーグルの共同ベンチャー等ですでに使われているが、2000Qの量子ビット数は従来機の2倍だ。

D-Waveは、最新モデルの性能が自慢だ。最適化問題のような量子コンピューターに特に適した問題で、最新機の性能を評価し、CPUとGPUに基づく従来型コンピューターで実行した類似アルゴリズムの性能と比較したところ、D-Waveの最新機は、ひとつのCPUと2500コアのGPUを備えたシステムと比べて、計算時間で少なくとも1000倍高速だという。

量子コンピューティングの専門家には、D-Waveの主張を疑う声もある。D-Waveの初代機が発表された時、本当に量子コンピューティングなのかと疑問を投げかけた科学者もいた。グーグルの研究者は昨年、D-Waveのデバイスが実際に量子コンピューティングで演算していること実証したと発表したが、MIT Technology Reviewのトム・サイモナイト記者が当時指摘したように、実証に使われたアルゴリズムは、性能比較に用いられた従来型コンピューターには不利だった可能性がある。

また、ネイチャー誌が説明するように、D-Waveが採用している量子ビットは比較的単純だが不安定であり、他の研究機関で開発中の量子コンピューターよりも量子の状態が簡単に失われてしまう。D-Waveが商業向け量子コンピューターを最初に生産できたのはこの単純な量子ビットのおかげだ。一方で、この比較的単純な量子ビットが原因で、量子コンピューティングが保証する計算能力の爆発的な飛躍をD-Waveのコンピューターが実現できることに疑問を持つ科学者もいる。

とはいえ、D-Waveの新しいコンピューターにはもう買い手がいる。D-Waveによると、サイバー・セキュリティ企業のテンポラル・ディフェンス・システムズがサイバー・セキュリティ・アプリケーションの開発用に1500万ドルで2000Qを購入したという。また、多くの研究グループがD-Waveの従来機を利用中だ。

一方、グーグルマイクロソフトIBM、多くの大学等の研究者は独自の量子コンピューターの開発に懸命に取組んでいるが、商業化には至っていない。商業向け製品について、D-Waveは量子ビット数を2年ごとに2倍に増やし続ける計画を明らかにしている。研究者が何を言おうとも、この計画は実施されるだろう。

(関連記事:Nature, “Google Says It Has Proved Its Controversial Quantum Computer Really Works,” “Google’s Quantum Dream Machine,” “Three Questions with the CEO of D-Wave“)

人気の記事ランキング
  1. The AI Act is done. Here’s what will (and won’t) change ついに成立した欧州「AI法」で変わる4つのポイント
  2. Apple researchers explore dropping “Siri” phrase & listening with AI instead 大規模言語モデルで「ヘイ、シリ」不要に、アップルが研究論文
  3. Advanced solar panels still need to pass the test of time ペロブスカイト太陽電池、真の「耐久性」はいつ分かる?
ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。
10 Breakthrough Technologies 2024

MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

記事一覧を見る
人気の記事ランキング
  1. The AI Act is done. Here’s what will (and won’t) change ついに成立した欧州「AI法」で変わる4つのポイント
  2. Apple researchers explore dropping “Siri” phrase & listening with AI instead 大規模言語モデルで「ヘイ、シリ」不要に、アップルが研究論文
  3. Advanced solar panels still need to pass the test of time ペロブスカイト太陽電池、真の「耐久性」はいつ分かる?
気候テック企業15 2023

MITテクノロジーレビューの「気候テック企業15」は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する、あるいは地球温暖化の脅威に対処できる可能性が高い有望な「気候テック企業」の年次リストである。

記事一覧を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る