1年前、2020年がどんな年になるか誰もわかっていなかった頃、筆者は人工知能(AI)コミュニティが直面している転換点について考察した。2018年には、自動運転車の衝突事故や差別的な人材採用AIなどの自動化技術に関する失敗が注目を浴びていた。それを受け、2019年はAI分野ではAI倫理についての議論が以前にも増して活発化していた。しかし、議論だけでは不十分であり、われわれはそれを目に見える形で実践しなければならないと筆者は述べた。ところが2カ月後、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が世界をシャットダウンした。
他人と物理的な距離を置き、あらゆる面でリモート化が進んだ新しい現実において、こうしたアルゴリズムの有害性は突然頂点に達した。今やハイアービュー(HireVue)の顔認識アルゴリズムや職場監視ツールなど、以前は珍しかったシステムが主流になりつつある。ほかにも、学生を監視し評価するツールなどがすぐさま登場している。8月には、大学入試において学生に試験を受けさせる代わりに、アルゴリズムを使って評価するという英国政府の取り組みの壮大な失敗を受け、数百人もの学生がロンドンに集い「アルゴリズムなんてクソくらえ」と声を上げた。数カ月後、別のアルゴリズムの大失敗を受け、スタンフォード大学に集まった抗議者たちも再び同じ掛け声を叫んだ。AIの説明責任について研究するデボラ・ラージーは、「『アルゴリズムなんてクソくらえ』は、2020年の戦いの叫び声になりつつありますね」とツイートした。
同時に、それ以上の動きもあった。ジョージ・フロイド殺害事件を受け、世界中で警察の暴力に対する抗議活動が勃発し、アマゾンやマイクロソフト、IBMは法執行機関への顔認識技術の販売を禁止または停止した。顔認識技術の持つ欠陥と、それらが差別的な結果をもたらすことを証明するため、研究者や公民権運動家が2年間にわたって繰り広げた闘争の成果だった。小さいながらも注目すべき変化もあった。世界最大級の人工知能(AI)カンファレンスである「神経情報処理システム(NeurIPS:Neural Information Processing Systems)」が初めて、研究者が論文を提出する際に倫理声明の提出を義務付けたことだ。
2021年が始まり、AIの影響力は社会的にも規制面でも以前よりも注目されている。筆者の新年の抱負は、こうしたAIの影響力を価値あるものにすることだ。2021年のAI分野への5つの期待を紹介しよう。
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