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What if the Free Market Decided Whether or Not Drugs Work?

トランプ政権、安全性のみの審査で医薬承認を迅速化?

トランプ政権は、新薬承認の迅速化のため、薬の効果に関係なく、安全性だけの審査を主張している人物を規制当局の責任者にするかもしれない。薬の効果は、レストランガイドのように、民間任せでよい、と考えているのだ。 by Emily Mullin2017.02.06

先週火曜日の製薬業界幹部との会合で、ドナルド・トランプ大統領は米国食品医薬品局(FDA)が医薬品の認可を早めることを望むと述べた。

「認可の手続きをもっと速くするつもりです」とトランプ大統領は述べ、FDAの局長として「適任なある人物」に心当たりがあるという。

トランプ大統領が一体どうやって認可手続きを早めるかは定かではない。しかし、トランプに進言する一部の人間は、急進的な自由市場の考え方を信奉している。医薬品の善しあしはFDAではなく市場に決めさせればよいと考えているのだ。

たとえば12月にFDA局長候補に名前が上がったのはミスリル・キャピタル(ピーター・ティールの投資会社)のジム・オニール社長だ。オニール社長はリバタリアン(自由至上主義者)で、製薬会社は薬が本当に効くかではなく、安全かどうかだけを証明すればよいと考えていると語ったことがある。「そうすれば、自己責任で薬を使うでしょう」とオニール社長は2014年の講演で主張した。

アイデアとしては、ちょうどレストランや書籍、ソフトウェアのように、市場そのものが最良の医薬品を見極める方法を見出すだろう、ということだ。このアイデアは何年も、一部で、特にウォール・ストリート・ジャーナル紙の社説面では見かける主張だが、フォーブス誌はその主張がナンセンスである理由を指摘している。医薬品には、全く安全ではない製品が数多くある。薬効がリスクを上回るから提供されているに過ぎないのだ。

それでも、コンシューマー・レポート式(米国の消費者運動団体が提供する製品評価記事)の評価(あるいはFDAの役割の代替候補として噂される「医薬品向けのイェルプ」)が新薬認可の遅さに対する21世紀型のソリューションになりうる、との考えは魅力的にも見える。また、FDAは新薬を認可する基準を変えるべきだと考える人もいる。フェアレイ・ディッキンソン大学保健イノベーション・テクノロジー・ルイスセンターのジョセフ・ガルフォ所長は、FDAは一部の薬剤については、患者の長期的な健康状態を変えるかどうかは不明でも、病気に関係のあるバイオマーカーに好ましい効果があるかに基づいて認可されるべきと思う、と語っている。ガルフォにはFDA局長就任の噂がある。

MIT Technology Reviewは、何人かの専門家に「安全面だけで」医薬品を認可することが、利害関係者にどんな意味があるか尋ねた。

患者: ガルフォ所長は、FDAはもっと多くの医薬品がコレステロールや腫瘍の大きさ、血糖値にどう作用するかに基づいて認可されるべきだと考えている。しかし患者は、バイオマーカー的には良好でも、自分の全体的な健康には何も効果のない医薬品を買わされるかもしれない。首都ワシントンにあるアメリカ経済政策研究センターのディーン・ベイカー共同ディレクターは、その場合の隠れたコストは「効果のある可能性がある他の治療をせずに済ませてしまうかもしれないことです」という。

製薬会社: FDAは、新しい医薬品を市販しにくくする元凶だと批判する人がいる。2016年中に認可されたのはたった22種類なのが動かぬ証拠だ、というのだ。しかし、タフツ大学医薬品開発研究センターのケン・カイティン所長は、要件を緩めることで製薬会社は打撃を受ける可能性があるという。効果のある医薬品の開発に多額の投資をしている製薬会社は「効かない医薬品と競合する」ことになるが、効果の低い医薬品が「口先で上手に宣伝活動をしてくるかもしれない」とカイティン所長はいう。

学界: 製薬会社は臨床試験のために病院や大学に資金を提供している。実際、業界専門の会計士によれば、約6000の試験のために年間100億ドル以上が費やされており、その3分の2は、薬の有効性を測る第Ⅱ相または第Ⅲ相臨床試験だという。もし製薬会社が研究資金を打ち切れば、誰が薬の効果の計測に資金を出すのかわからない。

2016年の政策低減で、ガルフォ所長は保険会社や健康保険のような大口の支払者は、効果のある薬を研究する必要があり、研究資金を提供する可能性もあるだろうという。「そのような試験を監督するのはFDAの役割である必要はない」とガルフォ所長はいう。

納税者: 直接的または間接的に、納税者は全員、医薬品に大金を払っている。米国の医療制度は2015年に3246億ドルを医薬品に費やした。一方で、製薬会社は医薬品の価格を引き上げ続けている。自由市場の手法はコスト低下につながるだろうか? ベイカー共同ディレクターは懐疑的だ。「製薬会社は不当な儲けを価格に乗せています。医薬品のFDA認可が簡単に取れても、それは少しも変わらないでしょう」

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クレジット Image courtesy of the FDA
エミリー マリン [Emily Mullin]米国版
MIT Technology Reviewの医学生物学副担当編集者(ワシントンD.C.駐在)です。取材したいのは、医学生物学と医療分野のイノベーションが、私たちの健康や日常生活をどう変化させるかです(いくらかかるのかも)。他に興味があるのは、こうした進歩のうち、世界の健康面の平等にどれがどのくらい影響を与えるかです。以前はフォーブス誌で契約ライターをしていた他、FierceBiotechで編集者のアシスタントをしていました。何かあればメールで連絡してください。
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MITテクノロジーレビュー[日本版] Vol.2/Winter 2020
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