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変わる常識、ワクチンの「ちゃんぽん」接種に新たな可能性
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Why mixing vaccines could help boost immunity

変わる常識、ワクチンの「ちゃんぽん」接種に新たな可能性

現在、新型コロナワクチンの多くは、同じものを2回接種することが原則となっている。だが、1回目と2回目で異なる種類のワクチンを打っても、同様の効き目があるだけでなく、むしろ、免疫が高まる効果があるのではないかと指摘されている。 by Cassandra Willyard2021.05.10

現在、世界では12種の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンが使用されている。その多くは2回の接種が必要であり、各国の保健当局は1回目と2回目で種類の異なるワクチンを接種しないよう警告している。ワクチンは、治験で接種されたとおりに使用するべきであるということだ。だが、オックスフォード大学とアストラゼネカ(AstraZeneca)が共同開発したワクチン接種後、まれに血栓が生じる懸念が持ち上がったことで、この警告は間もなく変更されるかもしれない。

この問題に関する当局の指導は、国によって異なる。デンマークは4月に、オックスフォード・アストラゼネカのワクチン使用中止を発表した。ドイツやフランスは、同ワクチンの1回目を接種済みの若者に対し、2回目は別のワクチンを接種するよう提言している。カナダでも、すでに数百万人がオックスフォード・アストラゼネカの1回目を接種済みだが、その後どうすべきかを検討中だ。

ミネソタ大学医学部の免疫学者であるデヴィッド・マソプスト教授は、現在使用されているワクチンのほとんどは同じタンパク質を標的にしているため、少なくとも理論上は2回目に別のワクチンを接種しても効果があるはずだと指摘する。

その答えは、間もなく得られるだろう。2種類のワクチンを組み合わせた場合の有効性を評価する治験がいくつか進行中であり、最初の結果が5月末にでも明らかにされる。組み合わせ接種の安全性と有効性が証明されれば、ある1つのワクチンについて製造の遅れや予想外の供給不足、あるいは安全性への懸念などがあっても、各国は滞りなく接種を進めることが可能となる。

だが、組み合わせ接種にはほかに、さらに期待が持てそうな効果も見込まれており、今後のワクチン戦略の重要な一部となる可能性がある。異なるワクチンを組み合わせることで免疫の防御範囲が広がり、免疫系を回避しようとするウイルスを阻止できるかもしれないというのだ。いずれは、このアプローチが、新型コロナから私たちを保護する最も効果的な方法になるかもしれない。

組み合わせの治験

現在使用されている新型コロナウイルス感染症のワクチンは、それぞれ少しずつ異なる方法でウイルスから体を守っている。新型コロナウイルスは、スパイクタンパク質を使って人間の細胞に侵入するが、多くのワクチンはこのスパイクタンパク質を標的とする。メッセンジャーRNA(mRNA)の形でスパイクタンパク質を形成する指示を伝えたり(ファイザー、モデルナ(Moderna))、スパイクタンパク質そのものを運ぶもの(ノババックス(Novavax))、他の無害なワクチンを使ってトロイの馬のようにタンパク質形成の指示書を運び込むもの(ジョンソン・エンド・ジョンソン、オックスフォード/アストラゼネカ、スプートニクV(Sputnik V))、中には不活化ウイルスを丸ごと投与するワクチン(シノファーム(Sinopharm)、シノバック(Sinovac))もある。

3月に発表された研究によると、中国薬品生物製品検定所の研究者たちが、4種類の新型コロナワクチンを組み合わせ接種をマウスで実験したところ、一部に免疫応答の改善が見られたという。1回目に、無害な風邪のウイルスを使ったワクチンでタンパク質形成指示書を送り込み、2回目に別の種類のワクチンを投与したところ、抗体のレベルが高まり、T細胞の応答も改善した。ただし、接種の順序を逆にした場合には改善は見られなかった。

マサチューセッツ大学医学部のワクチン研究者であるシャン・ルー医師は、組み合わせ戦略の先駆者だが、ワクチンを組み合わせることでなぜ有効性が高まるのかはよくわかっていないと話す。「メカニズムの一部は説明可能ですが、完全に理解されているわけではありません」。それぞれのワクチンは、同じ情報を少しずつ異なる方法で提示する。こうした違いが、免疫系の異なる部分を呼び覚ましたり、免疫応答 …

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