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「危険すぎて使えない」太陽地球工学をハーバードはなぜ研究するのか
Cody Schroeder/Unsplash
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A first-of-its-kind geoengineering experiment is about to take its first step

「危険すぎて使えない」太陽地球工学をハーバードはなぜ研究するのか

ハーバード大学の研究チームは、気候変動問題に対処するため、成層圏に微粒子を散布して太陽光を宇宙に反射する太陽地球工学の研究に取り組んでいる。チームは、より理解を深めるために小規模な野外実験の準備を進めてきたが、後戻りできない可能性が指摘され、反対の声は根強い。 by James Temple2021.07.04

ハーバード大学の1階にある研究室に置かれた長いガラス管の中には、ミニチュアの成層圏が閉じ込められている。

2019年秋に訪問した際、フランク・ケーチュ教授は私を研究室に案内してくれた。研究室の後ろの隅には、灰色の断熱材で覆われたガラス管がベンチの全長にわたって置かれていた。ケーチュ教授と同僚は、特定の気温や気圧における適切な気体の混合物をガラス管に満たし、地表から20キロメートルほど上空の大気の状態をシミュレーションしていたのだ。

ケーチュ教授らの研究チームは、この希薄な空気中で様々な化学物質がどのように反応するかを実験し、物議を醸している太陽地球工学というスキームに基づいて野外実験をすることを目指していた。太陽地球工学は、成層圏に微粒子を散布し、太陽光の熱をより多く宇宙に反射させることで、気候変動を緩和しようとする試みだ。

とはいえ、ガラス管の中のものは「本当に成層圏の状態」を表しているのだろうかと、工学、化学、大気科学を専門とするケーチュ教授は、ガラス管の方を指差しながら疑問を呈する。「それが問題なのです。あらゆることを考慮しようとしていますが、完全に理解できるわけではありません」。

そのため、ケーチュ教授やハーバード大学の気候科学者であるデビッド・キース教授などの研究者は、実験をミニチュア成層圏から実際の成層圏に移したいと考えている。一連の科学的な気球飛行の実現を望んでおり、最初の気球は早ければ今年の夏にも、スウェーデンのキルナにあるエスレンジ宇宙センター(Esrange Space Center)から打ち上げられる可能性がある。

最初の飛行は、成層圏で気球の機器やソフトウェアが適切に動作するかを評価するだけのものである。成層圏では、気温が-50˚C以下に下がる可能性があり、気圧は海面近くの10分の1から1000分の1になる。しかし、その後の気球打ち上げでは、太陽光を散乱させる可能性のある少量の粒子を放出させたいとケーチュ教授らは考えている。

壊滅的な気候変動を防ぐために二酸化炭素排出量を削減する国際的な取り組みが遅々として進まない現状では、太陽地球工学を時間稼ぎに使える可能性がある。とはいえ、地球工学を大規模に適用するのは、地球全体の気象パターンを操作してしまうことになりかねない。その影響は予測不能であり、一部の場所で大惨事が起こる可能性がある。

そこで、プロジェクトをめぐる法的、倫理的、環境に関する問題を検討する独立した諮問委員会が今後数週間のうちに、研究グループが初のテスト飛行を実施すべきかどうかを決定するものと見られる(日本版注:諮問委員会は2021年夏に予定していたスウェーデンでの最初の気球打ち上げを延期するよう勧告し、研究チームは打ち上げの延期を決めた)。諮問委員会はまた、実際に粒子を散布する気球を打ち上げる前に判断を下したり、一般市民や規制当局の理解を得るためにどのような手順を踏むべきかを決めたりする必要があるだろう。

もし打ち上げが承認されれば(承認される可能性はまだ極めて低いが)、成層圏における最初の地球工学実験になる。しかし、気球が地面を離れる以前から、この実験はすでに批判を集めている。

危険すぎて使えない

粒子を大気中に散布して太陽光をブロックし、温室効果ガスの排出による地球温暖化を一部相殺して、地球を冷却するというアイデアには前例がある。自然がすでにこれを実行しているのだ。

1991年のピナツボ火山の噴火など、大規模な火山噴火では数百万トンの二酸化硫黄が大気中に放出され、その後、何年にもわたって地球の気温が低下している。石炭を燃料とするプラントや船舶から排出される二酸化硫黄もある程度の冷却効果をもたらしている。

とはいえ、気候変動に対する手段としてこれを意図的に実施することは、実験するどころか検討するだけでも無謀だと一部の批評家は指摘する。太陽地球工学によって降雨パターンが大きく変化し、一部の場所では収穫量が減少する可能性があることがいくつかの研究でわかっている。一方、節度ある方法で地球工学を利用すれば、環境への副作用は小さい可能性があると結論づける論文も発表されている。

しかし、これまでの研究は全て、いくつかの小規模な例外を除いて、コンピューターモデルや研究室での実験として実施されている。そのため、ケーチュ教授や同僚は、気球のテスト飛行が重要な次のステップであると主張する。

ケーチュ教授が主導する「成層圏制御摂動実験(SCoPEx:Stratospheric Controlled Perturbation Experiment)」の基礎となるアイデアが最初に提案されたのは、2014年に遡る。プロペラやセンサーを備えた気球を打ち上げ、1ミクロン以下の大きさの粒子を最大2キログラム、ほぼ1キロメートルの範囲にわたって噴射するのだ。商用の航空機は毎分、同量の物質を排出しているとキース教授は指摘する。

次に、気球の進路を反転させ、噴煙の中をゆっくりジグザグ状に進めて、元の場所に戻す。その間に、粒子がどれくらい広範囲に拡 …

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