世界で一番美しいのは誰?
AIが絶対的基準になる日
人工知能(AI)技術を利用して顔の美しさを評価し、改善をアドバイスするサービスがここ数年で登場している。その結果は知らず知らずのうちに、人々の行動や目にする投稿、考え方に影響を与えている。 by Tate Ryan-Mosley2021.07.19
私が初めてコーヴス・スタジオ(Qoves Studio)を知ったのは、人気を博している同社のユーチューブ・チャンネルだった。このチャンネルでは、「髪型で美人に見えるのか?」や「何がティモシー・シャラメを魅力的にしているのか?」、「顎の位置が社会的な知覚に与える影響」など、何百万人もの視聴者に向けて洗練された動画を提供している。
コーヴスはもともとモデル事務所向けに画像の修正を手掛けるスタジオとしてスタートしたが、現在では「顔の美しさに関するコンサルタント企業」として、「顔を魅力的にするのは何か? 」という昔からある疑問に対する答えを提供している。口紅をつけて色鮮やかな帽子をかぶったパリジェンヌのような女性のチョーク風スケッチが表示される同社のWebサイトには、美容製品に関するアドバイスや、コンピューターを使って画像を補正するコツなど、美容外科コンサルティング事業に関連するさまざまなサービスが並ぶ。中でも最も人気があるのは、「顔分析ツール」だ。人工知能(AI)を使ったシステムで、顔写真を見てその人がどの程度美しいか、あるいは美しくないかを伝え、どうすればもっと美しくなれるかを教えてくれるというものだ。
私は実際に試してみることにした。サイトの指示に従って、わずかに付けていた化粧を落とし、小さな窓から入る光で照らされている無彩色な壁を見つけた。男性の友人に頼んで、何とか笑わないように努力しながら、目線の高さで顔のアップ写真を撮ってもらった。撮影された写真は、華やかさとは対極にあるようなものだった。
辛うじて許容できるレベルの写真をアップロードすると、コーヴスは瞬く間に私の顔にある10個の「予測される欠点」のレポートを返してきた。その欠点リストの最上位となったのは70%の確度で「鼻唇溝」、次に69%の確度で「目の下の輪郭の凹み」、そして66%の確度で「眼周囲の変色」が表示された。つまり、私には目の下のクマとほうれい線があることが(正しく)認識されており、AIがその両方を問題ありとしているのだ。
コーヴスのレポートには、私の欠点を解決するための推奨事項が書かれていた。まず、ほうれい線に関しては、「注射や手術による処置が必要な場合がある」とあった。希望すれば、75ドル、150ドル、250ドルの3段階で、医師によって書かれた外科手術の推奨事項をまとめた詳細なレポートにアップグレードすることができる。また、レチノール、ニューロペプチド、ヒアルロン酸、上皮成長因子(EGF)、TNSといったスキンケア成分を配合した5つの美容液が、まず試してみるといいものとして紹介されていた。私が知っていたのはレチノールという言葉だけだった。その日の夜、私は寝る前に自分が持っている顔用の保湿剤の成分に何が含まれているかを確認した。
私は興味をそそられた。このツールは、私の外見を小さな問題点のリストへと分解した。言わば、外見上の問題と認識したものを狙い撃ちするレーザーだ。
しかしながら、顔分析を提供する企業やサービスは数多く存在し、コーヴスは従業員20人の小さなスタートアップ企業に過ぎない。感情、年齢、魅力などの特徴を画像から読み取ると謳う、AIを利用した顔分析ツールの業界は成長を続けている。顔分析テクノロジーを開発する企業はベンチャーキャピタルにもてはされており、オンライン化粧品販売から出会い系アプリまで、あらゆる分野でアルゴリズムが利用されている。こうした美の採点ツールはオンラインで簡単に購入でき、顔分析とコンピュータービジョンを使って、対称性、目の大きさ、鼻の形などを評価する。そして、何百万ものビジュアルコンテンツを選別してランク付けし、最も魅力的な人を浮かび上がらせる。
これらのアルゴリズムは、いわば「機械の目」を訓練して、写真や動画に対して信用格付けのような数値をはじき出させる。最高のスコアを獲得すると、「いいね!」や視聴数、出会い系アプリでのマッチなど、オンラインでの最高の機会が開かれる。これだけでも十分に懸念すべきことのように思われるが、このテクノロジーはさらに、他の問題を悪化させると専門家は言う。美しさの採点アルゴリズムのほとんどに、不正確さや年齢差別、人種差別が見受けられるからだ。また、システムの多くは独自に開発されているため、実際にはどのような仕組みなのか、どの程度利用されているのか、ユーザーにどのような影響を与えているのかを把握できない。
「鏡よ鏡...」
コーヴスで受けられるような診断は、インターネット上のいたるところに存在する。その1つに、世界最大のオープン顔認識プラットフォームである「フェイス・プラス・プラス(Face++)」を使ったサービスがある。中国の画像処理企業であるメグビー(Megvii)が開発したこの美しさ採点システムは、コーヴスのシステムと同様にAIを使って顔を診断する。しかし、診断結果は臨床的な用語で詳細に説明されるのではなく、魅力があるかどうかがパーセンテージに落とし込んで評価される。実際には、診断後に2つの結果が返される。写真に対する男性の反応を予測するスコアと、女性の反応の予測スコアだ。コーヴスのツールと同じ見栄えのしない写真を使って無料体験版を試してみたところ、結果はすぐに出た。「男性は一般的に69.62%の人よりもこの人の方が美しいと感じる」というものと、「女性は一般的に73.877%の人よりもこの人の方が美しいと感じる」という結果だ。
この結果は期待はずれだったが、予想していたよりも良いものだった。今回のパンデミックが始まって1年が経ち、ストレスや体重、閉店したヘアサロンの影響が自分の外見に現れているのが目で見て分かるからだ。私は、以前の自分の写真を2枚使ってこのツールで再テストしてみた。どちらも気に入っている写真だ。その結果、スコアは向上し、上位25%台近くに入ることができた。
美しさとは、主観的で個人的なものであることが多い。愛する人たちが健康で幸せであったり、あるいは、悲しんでいたりするときでさえ、私たちには魅力的に見える。また、美しさが集団の基準で判断されることもある。美人コンテストや雑誌に掲載されている「最も美しい人」のようなランキングシステムは、私たちがいかに魅力を賞品のように扱っているかを示している。このような評価は、醜さやぎこちなさにも当てはまる。私が10代の頃、同じ高校の男子生徒がよく廊下を歩く女子生徒に1から10までの数字を付けて叫んでいた。だが、機械が人の顔の美しさを評価することには、何か不気味なものがある。不快であることは学校で叫ばれるスコアと同じだが、機械による美しさの計算は不気味に人間離れしていると感じるのだ。
実態
人の魅力をランク付けするというコンセプトは今に始まったものではないが、こうした特定のシステムの仕組みは比較的新しく開発されたものだ。フェイス・プラス・プラスが美しさの採点機能をリリースしたのは2017年のことである。
メグビーの広報担当者にアルゴリズムの仕組みの詳細について尋ねたが、「およそ3年前に、エンターテインメント関連アプリに対するローカル市場の関心に応えるべく開発された 」としか回答がなかった。発表後すぐに30万人の開発者の関心を引いたこのシステムの訓練には、中国や東南アジアの人々の顔が使用されたということが同社のWebサイトからは分かるが、それ以外の情報はほとんど公開されていない。
メグビーの広報担当者は、フェイス・プラス・プラスはオープンなプラットフォームであり、 …
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