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火星のコアは意外と大きかった? NASA探査機の測定で明らかになる
NASA/JPL-Caltech
We just got our best-ever look at the inside of Mars

火星のコアは意外と大きかった? NASA探査機の測定で明らかになる

NASAの火星着陸船インサイトから届けられた地震計のデータから、火星の内部構造が以前に考えられていたよりも複雑であることが分かった。継続して調査すれば、地球との違いがさらに明らかになりそうだ。 by Tatyana Woodall2021.07.27

NASAのロボット着陸船「インサイト(InSight )」が、地球以外の惑星の奥深くの実態を初めて明らかにした。

インサイトのミッションは開始から2年以上経過しており、研究者らはインサイトが収集した地震データから、火星がどのように形成されたのか、46億年にわたってどのように進化したのか、地球とどのように異なるのか、ヒントを得ている。サイエンス誌に掲載された一連の新しい研究は、予想よりも火星の地殻が厚く、液体のコア(核)が大きいことを示している。

太陽系の初期段階では、火星と地球はほとんど同じで、どちらも表面を海に覆われていた。しかし、その後の40億年の間に地球は温暖で生命にとって最適な環境になり、一方の火星は大気と水を失い、我々の知る現在の不毛の荒れ地となった。火星内部がどうなっているのかをもっと知ることができれば、2つの惑星がなぜそのように全く異なる運命を持っていたのか解明できるかもしれない。

NASAの記者会見で、インサイトのミッションのプロジェクト科学者であるマーク・パニング博士は、「火星の内部がどのように見えるか、ポンチ絵ではなく具体的な数字で表現することで、地球と火星という岩石でできた惑星がどのように形成され、どこが類似していて、どこが異なっているのかを理解するための家系図を広げることができます 」と述べた

インサイトが2018年に火星に着陸して以来、惑星の表面に置かれた地震計は1000を超える異なる地震を拾い上げてきた。ほとんどの地震は非常に小さく、火星の表面に立っても気づかないほどだ。しかし、地下で本当は何が起こっているのかを、初めて知ることができるほどの大きさの地震もいくつかあった。

火星の地震は地震波を生み、それを地震計が検出する。研究者は、せん断波と圧力波という2種類の地震波のデータを使用して、火星の3Dマップを作成した。せん断波は固体のみに伝わり、惑星の表面で反射する。圧力波はより速く、固体、液体、気体に伝わる。これらの波が到着した時間の違いを測定することで、研究者は地震の場所を特定でき、火星の内部構造の手がかりが得られた。

チューリッヒ工科大学(ETH)の地震学者であるサイモン・シュテーラー博士が率いるチームは、11の大きな地震によって生成されたデータを使用して、火星のコア(核)を調査した。 地震波がコアで反射した様子から、シュテーラー博士らはコアが液体ニッケル鉄でできていて、幅2230〜2320マイル(約3600~3700キロ)と以前の推定よりはるかに大きく、恐らく密度が低いと結論付けた。

ETHチューリッヒ地球物理学研究所と同物理学研究所の科学者アミーリ・カーン博士率いる別のチームは、火星の地殻とコアの間にあるマントル層を調べた。  カーン博士らは地震データを使用し、火星のリソスフェア(岩石圏)の化学組成は地球のものと似ているが、プレートがないことを確認している。 また、地球よりも約56マイル(約90キロメートル)厚いことも明らかになった。

さらにカーン博士らのチームによると、この余分な厚さは恐らく「火星の誕生初期におけるマグマオーシャンが結晶化し固化した結果」であり、火星がその形成過程の重要な時期において急速に凍結した可能性があることを示しているという。

ケルン大学の惑星地震学者 ブリゲッティ・ナプメイヤー・エンラン博士率いる3番目のチームは、火星の地殻、すなわち表面の岩石の層を分析した。 エンラン博士らは、火星の地殻が非常に深い可能性が高い一方で、チームの予想よりも薄いことを発見した。

「大変興味深いことに、これは地球と火星の内部の違いを示しています。おそらく全く同じ構成要素から作られたわけではないのかもしれません」。

インサイトのミッションは、来年、太陽電池の寿命が尽きると終了するが、その間に火星の内部の秘密がさらに明らかになる可能性がある。

エンラン博士は、「地震学とインサイトに関しては、延長されたミッションでもまだ多くの未解決の疑問があります」と述べている。

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MITテクノロジーレビューの新進ジャーナリスト・フェローとして、宇宙、生命工学、AI分野の取材を担当。MITテクノロジーレビューに参加する以前は、ニューヨーク・タイムズ学生ジャーナリズム研究所での執筆、WOSU-NPRでのラジオ番組制作などを経験。大学新聞の編集長として、スポーツ文化からメンタルヘルスまで幅広く取材した。
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