KADOKAWA Technology Review
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マウスの脳神経回路を3Dマップ化、プリンストン大らが公開
Allen Institute
This is all the connections in a bit of mouse brain the size of a grain of sand

マウスの脳神経回路を3Dマップ化、プリンストン大らが公開

大脳皮質をリバースエンジニアリングして次世代AIの開発を目指す「MICrONS」プロジェクトが、マウスの脳内の神経のつながりを示す3Dマップを公開した。マウスの脳の構造は人間の脳と似ているため、知能の謎を解明するのに役立つかもしれない。 by Tatyana Woodall2021.08.10

神経科学者グループが、哺乳類の脳のこれまでで最も詳細な3Dマップを発表した。対象となったのはマウスで、脳の構造が人間とよく似ていることで知られている。

今回公開された3Dマップとマップ作成に使用されたデータセットには、マウスの脳内の砂粒ほどの大きさの領域に含まれる20万個以上のニューロンと、5億のニューロン同士のつながりが示されている。

今回の研究は、「MICrONS(Machine Intelligence from Cortical Networks、大脳皮質ネットワークからのマシン・インテリジェンス)」プログラムの一環として実施されたものだ。MICrONSは、哺乳類における計画や推論などの高次機能を担う脳の部分である大脳皮質をリバースエンジニアリングすることで、次世代の機械学習アルゴリズムの改善を目指している。アレン脳科学研究所、ベイラー医科大学、プリンストン大学を中心とした研究者コンソーシアムがデータを収集した。

MICrONSの主任科学者であるプリンストン大学のセバスチャン・スン教授(コンピューター科学/神経科学)は、「人間のインテリジェンス(知能)の謎を、大脳皮質の研究で解明できるのではないかと考える人もいます。そのため、神経科学の中でも神秘的で魅力的なテーマとなっています」と語る。脳についての研究が進めば、より人間に近い人工知能(AI)の実現につながるかもしれない。

今回のマップ作成プロジェクトは3段階構成で、5年がかりで実施された。第1段階では、生きているマウスの脳の活動状態を測定し、マウスが視覚情報を処理するときに活動する脳細胞を撮影した画像を7万枚以上作成した。次に、マウスの脳から小さな断片を切り取り、2万5000以上の極薄片に切り分けた。最後に、電子顕微鏡を使用して、各切片の高解像度画像を1億5000万枚以上撮影した。

これまで神経回路図として、ミバエやヒトの脳の「コネクトーム」が作成されてきた。MICrONSが高い評価を受けている理由の一つは、このデータセットが脳に対する科学者の理解を深め、脳障害の治療に役立つ可能性があることからだ。

ハーバード大学の分子細胞生物学教授で、マウスの神経活動を研究しているヴェンカテッシュ・マーシー(今回の研究には関与していない)は、今回のプロジェクトによって、それぞれのニューロンがどのようなやり取りをするのか俯瞰的に見渡すことができ、極めて高解像度の「静止画」を拡大して見られるようになったと語っている。

アレン人工知能研究所の上級研究員であり、MICrONSプロジェクトの主任研究員であるクレイ・リード博士は、今回の研究が完了する前は、神経回路をこれほど詳細に復元するのは不可能だと思っていたと言う。

リード博士は、機械学習によって、脳の2次元神経回路図を3次元モデルに変換するプロセスが飛躍的に向上したと言う。「非常に古い分野と新しいアプローチの組み合わせがおもしろいですね」。

リード博士は、他の人が使用できる基礎知識を提供するという点で、今回公開された新しい画像をヒトゲノムの最初のマップになぞらえる。これらの新しい画像によって、これまで見えなかった脳内の構造や関係性への理解が進むことを期待している。

「いろいろな意味で、これは始まりだと思っています」とリード博士は言う。「これらのデータとAIを利用して復元した神経回路の3Dマップは、インターネット接続とコンピューターを持っている人なら誰でも利用でき、脳について非常に幅広い疑問を調べられます」。

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タチアナ・ウッドオール [Tatyana Woodall]米国版 新進ジャーナリスト・フェロー
MITテクノロジーレビューの新進ジャーナリスト・フェローとして、宇宙、生命工学、AI分野の取材を担当。MITテクノロジーレビューに参加する以前は、ニューヨーク・タイムズ学生ジャーナリズム研究所での執筆、WOSU-NPRでのラジオ番組制作などを経験。大学新聞の編集長として、スポーツ文化からメンタルヘルスまで幅広く取材した。
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