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無反応患者に意識はあるか?
イタリア人科学者が作った
最も正確な「意識計測機」
Russ Juskalian
生物工学/医療 Insider Online限定
The hunt for hidden signs of consciousness in unreachable patients

無反応患者に意識はあるか?
イタリア人科学者が作った
最も正確な「意識計測機」

脳に損傷を負うなどして、いわゆる「植物状態」にある人々にも意識はあるのだろうか。イタリアのある研究者は、一見すると完全に無反応な人であっても、脳に刺激を与えることで、意識があるかどうかを判定できる方法を開発した。 by Russ Juskalian2021.09.14

ミラノ西部に位置するある平凡な低層病院は、「ニョッキ」という親しみのある名で知られ、一見すると特筆すべきことは何も見当たらない。しかし、ドン・ニョッキ財団サンタ・マリア・ナシェンテIRCCSセンターの隔離棟の2階へ上がると、重度の脳損傷のために意思伝達できない男性が、テクノロジーの数々につながれている。それによって彼の意識の有無が分かると、ここにいる研究者たちは考えている。

男性患者は、歯医者の電動椅子のようなものに座り、頭を後ろに傾け、青いサージカルマスクを着けて口と鼻を覆っている。あご下のストラップで固定された白いメッシュキャップには、電極が60個点在しており、そのどれもが2メートル長のケーブルにつながっている。男性の上には、多関節アームの先に付いた赤外線アレイが配置されている。このデバイスは、男性の両こめかみに付けられたセンサーから信号を跳ね返すことで、磁気共鳴画像(MRI)による脳の動的なオーバーレイを付近のモニターに描写するためのものだ。そして、そのモニターを見ている研究者は、白い楕円形のプラスチックを男性の頭蓋骨に向かって押し当て、大きめの錠剤サイズの脳の領域に電磁パルスを送る。

そうしてパルスが送られるたびに、クリック音が鳴る。園芸用のホースくらい太く、重量感のあるケーブルが3本、デバイスの後ろから渦巻き状に出ており、出力を制御する25万ドル相当の機械につながっている。部屋の反対側にいるのは、縮れ毛で青い目をした神経科学者のマルチェロ・マッシミニ博士と、患者を担当する神経科医であるアンジェラ・コマンドゥッチ博士だ。二人は、脳波を表す複雑な青い曲線が、ほぼリアルタイムで画面に表示されるのをノートPCで見ている。画面内に表示されているのは、かろうじて感知できる、恐らく夢のような意識があることを示すサインだ。

研究室では、人々の脳波記録にコンピューターで「摂動複雑性指数(PCI:perturbational complexity index)」と呼ばれる0から1までの数値を割り当てる。マッシミニ博士と研究仲間によると、この単一の数値は、人に意識があるかどうかを明らかにする一種の複雑性を大まかに示す尺度だという。マッシミニ博士らは、0.31という閾値も算出している。この値は、健康な被験者と脳に損傷のある被験者を対象として2016年に実施された研究によると、「100%の感度と100%の特異度で無意識状態と意識のある状態を区別する」値だという。つまり、この測定方法は高い精度で機能するということだ。

さらに驚くべきことに、マッシミニ博士らが無反応覚醒症候群(UWS。以前は「植物状態」と呼ばれていた状態)の患者グループのPCIを算出したとき、およそ5人に1人が、意識があることを示すPCI値を記録したという。「たとえ、完全に無反応で、意識を示すサインが皆無であったとしても、PCI値が閾値を超えた患者には意識があると確信を持って言えます」とマッシミニ博士は話す。

この画期的な進歩により、(まだ粗く、原始的で、荒削りではあるが)医学史上最も正確な意識計測器が誕生した。医療に与える影響は広範囲におよぶ。推定によると、長期的な意識障害を抱えた人々は、世界中に最大で39万人存在するという。その中には、無反応であるため、まるでそこに居ないかのように扱われている人々も存在する。だが、そうした人々は、生きている限りは、覚醒した状態で世界を体験し、孤独で、自身の肉体という牢獄から手を伸ばせない状態なのかもしれない。

マッシミニ博士は、PCI値がそういった人々を特定するうえで役立つと確信している。

2021年7月、筆者がミラノでマッシミニ博士を訪ねたとき、彼はミラノやボストン、ロサンゼルスなどにいる他の研究者たちと協力していた。そうしている間にも、PCI測定はすでに、診断の指針を示し、部分的な回復の可能性を判断するのに役立てるために、ニョッキで使われていた。

解決策

PCIは、約1世紀にわたって意識の測定を妨げてきた障害を克服するための探求から生まれた。ハンス・ベルガーが脳波計(EEG)を発明した1924年以降、科学者たちは脳が伝達のために使用する電気的反応にアクセスし、6.5ミリ厚の頭蓋骨で守られている中で何が起こっているかを見たり、予測したり、測定したりしようと試みてきた。ベルガーの発明した脳波計は、ニューロンによって生成される電圧の変化を検出して、その信号を地震計のような波線に変換した。それが「脳波」として一般に知られるようになった。

標準的な脳波パターンには、意識がある状態に一般的な、1秒間に約10回振動する高速アルファ波と、夢を見ない睡眠や麻酔下で一般的な、1秒あたり約1回振動する低速デルタ波が含まれている。しかし、あらゆる方面で例外が潜んでいる可能性があるため、脳波を受動的に調べて意識の有無を決定する方法は不完全といえる。

麻酔薬のケタミンは脳を興奮させ、アルファ波とデルタ波を交互に発生させることができる。ある種の昏睡状態にある患者は、意識を失っている間に高速な振動を示す。また、アトロピンという薬物の影響下にある人や、てんかん重積持続状態と呼ばれる発作パターンを発症している人は、無意識状態に典型的な遅い脳波を示しながらも意識があると報告されている。

さらに大きな問題となるのは、患者の脳活動自体が、注意力持続時間の短さや眠気、自発的・無意識的な動き、視覚的ノイズ、指示に従う意欲の欠如などにより、不活性な脳波に偏り、そのメッセージが混沌としたものになる可能性があることだ。

そこで登場するのがPCIだ。PCIは、意識の有無の客観的な尺度(比較的単純なYESかNOの判別)だとされている。マッシミニ博士によると、通常の脳波との違いは、従来の計測器では活動中の脳活動のみを測定するのに対し、PCIは複雑な内部相互作用を維持する脳の能力を測定することだ。マッシミニ博士は、そのための方法について次のように説明する。まず、脳をノックして、その摂動がどのように浸透して反響し、人間の脳内の860億個のニューロンと100兆個の接続の非常に複雑な構造を通過するとき、どのように作用するかを追跡するのだという。

脳へのノックまたは一撃は、経頭蓋磁気刺激法(TMS)を介して送られる。TMSは杖状のものを頭にかざして電磁インパルスを脳に送る方法であり、1980年代から現代の形で使用されている。運動皮質に対してTMSを使うと、無意識的な手の痙攣を引き起こすことができる。 …

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