KADOKAWA Technology Review
×
テスラ7人目の電池ベンチャー、「5日持つ」ガジェットに材料供給
WHOOP
気候変動/エネルギー 無料会員限定
Lithium-ion batteries just made a big leap in a tiny product

テスラ7人目の電池ベンチャー、「5日持つ」ガジェットに材料供給

リチウムイオンバッテリーのエネルギー密度を大きく引き上げる材料の開発に取り組むシラ・ナノテクノロジーズが、初の製品を市場投入した。同社の負極材料を採用したバッテリーを搭載するフィットネス向けのウェアラブル機器は、充電が5日間不要だという。 by James Temple2021.09.10

カリフォルニア州アラメダにある材料会社「シラ・ナノテクノロジーズ(Sila Nanotechnologies:以下、シラ)」は、過去10年間にわたり、リチウムイオン電池に蓄えられるエネルギー量を増大させることに取り組んできた。ガジェットの小型化や、航続距離の長い電動移動手段(電気自動車)の実現が期待される取り組みだ。

世界を変えるイノベーター50人
この記事はマガジン「世界を変えるイノベーター50人」に収録されています。 マガジンの紹介

シラが開発したシリコンベースのナノ粒子は、現在、アノード(負極)に使われている黒鉛(グラファイト)に取って代わり、バッテリーの電流を運ぶリチウムイオンをより多く保持できる。同社はこのほど、初の製品をついに市場に投入した。9月8日発売のフィットネス・ウェアラブル機器「ウープ4.0(Whoop 4.0)」のバッテリーに使用されている負極粉末の一部を供給している。ウープは小さなデバイスだが、研究室での有望な結果が商業的な成功に結びつかないことが多いバッテリー分野において、大きな一歩となる可能性がある。

シラのジーン・ベルディチェフスキー最高経営責任者(CEO)は、「ウープ4.0が、私たちにとってのテスラ・ロードスターだと考えてください」と話す。ベルディチェフスキーCEOは、テスラの7人目の社員として、テスラ初の電気自動車のバッテリーに関するいくつかの重要な問題を解決するのに貢献した人物だ。「(ウープ4.0は)この画期的な進歩を証明する、市場で初めてのデバイスなのです」。

シラが開発した材料は、他の先進技術の助けを借りながら、フィットネス・トラッカーのバッテリーのエネルギー密度をおよそ17%向上させている。リチウムイオン・バッテリーのエネルギー密度は通常、年に数パーセントしか向上しないことから、シラが成し遂げたイノベーションは非常に大きな進歩だと言える。

カーネギーメロン大学工学部機械工学科のベンカット・ビスワナサン准教授は、これは標準的な進歩の約4年分に相当するもので、「一度の大きな飛躍でそれを成し遂げたことになります」と述べる。

気候変動の危険性がますます高まる中、世界で脱炭素の動きが加速している。まだいくつか技術的な課題を残しているものの、今回の成果はバッテリーの性能向上の可能性を示す有望な兆候だ。バッテリーに蓄えられる電力量が増えれば、ますますクリーンな電力源が、より多くのビルや自動車、工場、企業に電力を供給するのを容易にするだろう。

エネルギー密度の高いバッテリーは、輸送部門では電気自動車のコスト削減と航続距離の延長につながり、消費者にガソリン車を手放すのを躊躇させている2つの大きな問題を解決できる。また、太陽光発電や風力発電で得られるエネルギーをより多く蓄えることができる送電網向けの蓄電池や、1回の充電でより長い時間使用できる消費者向けガジェットなどの実現も期待できる。

2017年にMITテクノロジーレビューの「35歳未満のイノベーター(Innovator Under 35)」に選出されたベルディチェフスキーCEOは、「あらゆるものを電化する」にはエネルギー密度が鍵だと述べる。

ボストンに拠点を …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. We finally have a definition for open-source AI 「オープンソースAI」問題ついに決着、OSIが定義を発表
  2. Here’s how people are actually using AI カネにならない生成AIブーム、LLMはどう使われているか?
  3. The US physics community is not done working on trust 物理学界で繰り返される研究不正、再発防止には何が必要か
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年も候補者の募集を開始しました。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る