KADOKAWA Technology Review
×
再エネが今後5年で急成長、化石燃料と原子力に匹敵=IEA
Getty
Renewables are set to soar

再エネが今後5年で急成長、化石燃料と原子力に匹敵=IEA

国際エネルギー機関(IEA)が12月1日に発表した報告書によると、コストの低下や各国の気候変動への取り組みの厳格化を背景に、再生可能エネルギー電源の発電容量は今後5年間で急激に拡大するという。 by James Temple2021.12.02

太陽光や風力などの再生可能エネルギーによる発電所の建設は、今後5年間で急増するだろう。これは、各国がより厳格な気候変動政策や温室効果ガス排出削減目標を掲げているためだ。

国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)の12月1日の報告書によると、今年新たに設置された再生可能エネルギー設備の発電容量は290ギガワットとなり、新記録を達成する見込みだ。これは、原子力発電の原子炉約300基、あるいはフーバー・ダム約150基の建設に相当する。しかも、世界的サプライチェーンの問題や、原材料費の高騰、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による規制にもかかわらず実現されようとしているのだ。

こうした再生可能エネルギーによる発電容量は今後、2026年までに昨年の水準と比べて60%以上増加するとIEAは予想している。これにより、再生可能エネルギー電源の発電容量は、現在の世界の化石燃料発電所と原子力発電所の総発電容量に匹敵する4800ギガワットとなるだろう。

さらに、2026年までの期間に増加する発電容量全体の95%を、再生可能エネルギーが占めることになるだろう。

だが、風力発電所や太陽光発電所の新設により、必ずしも化石燃料発電所が置き換えられるとは限らない。電力需要もまた増加しているからだ。石炭や天然ガスなどの汚染を伴う電力源に代わって、カーボンフリー電原がどれだけ早く世界の主流になるかは依然として未知数だ。

現在新たに建設されている発電施設のほとんどは再生可能エネルギーによるものだが、電源ごとの発電量はコストの変動や気候条件などによって年ごとに大きく変化する。しかし、ブルームバーグNEF(BloombergNEF)によると、ここ数年は石炭による発電量が減少し、太陽光、水力、風力による発電量が増加している。実際に、昨年は石炭、天然ガス、原子力による発電量がいずれも減少し、太陽光、水力、風力の3つが、増加した発電量の全体を占めた

IEAの新たな報告書に見られる2026年までの予測は、昨年の予測に比べて40%以上の大幅な上方修正となっている。その主な理由としては、再生可能エネルギーの経済性が向上していること、国連気候会議に向けた各国の排出削減責任の高まり、国内の動向や政策などが挙げられている。

中国が2060年までに二酸化炭素排出実質ゼロを達成する目標を掲げたこと、米国が下院で可決した「ビルド・バック・ベター(Build Back Better)」法案で連邦税控除を延長したこと、欧州連合(EU)の政策や排出量目標を遵守するために国や企業が努力していることなどが、その例だ。

増設される再生可能エネルギー発電容量は、多いほうから順に中国、欧州、米国、インドとなり、この4カ国で全体の80%近くを占める。

しかし、再生可能エネルギーの導入が進んでいるにもかかわらず、地球温暖化を止めるために必要な「実質ゼロ・エネルギー」の実現には、まだまだ時間がかかりそうだ。2050年までに各国がこのシナリオを達成するためには、再生可能エネルギーの年間平均導入量を、IEAが今後5年間に見込んでいる水準の2倍にする必要がある。

そのためには、これまで以上に積極的な気候変動政策と目標を掲げ、風力や太陽光などのカーボンフリー電源のさらなる低価格化と、変動の激しい再生可能エネルギーの割合が増加しても発電量のバランスを取れるような付加技術の迅速な開発が必要となるだろう。

人気の記事ランキング
  1. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
  2. How thermal batteries are heating up energy storage レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由
  3. Researchers taught robots to run. Now they’re teaching them to walk 走るから歩くへ、強化学習AIで地道に進化する人型ロボット
ジェームス・テンプル [James Temple]米国版 エネルギー担当上級編集者
MITテクノロジーレビュー[米国版]のエネルギー担当上級編集者です。特に再生可能エネルギーと気候変動に対処するテクノロジーの取材に取り組んでいます。前職ではバージ(The Verge)の上級ディレクターを務めており、それ以前はリコード(Recode)の編集長代理、サンフランシスコ・クロニクル紙のコラムニストでした。エネルギーや気候変動の記事を書いていないときは、よく犬の散歩かカリフォルニアの景色をビデオ撮影しています。
10 Breakthrough Technologies 2024

MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

記事一覧を見る
人気の記事ランキング
  1. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
  2. How thermal batteries are heating up energy storage レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由
  3. Researchers taught robots to run. Now they’re teaching them to walk 走るから歩くへ、強化学習AIで地道に進化する人型ロボット
気候テック企業15 2023

MITテクノロジーレビューの「気候テック企業15」は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する、あるいは地球温暖化の脅威に対処できる可能性が高い有望な「気候テック企業」の年次リストである。

記事一覧を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る