「脳を模したチップでAIの電力問題を解決」東京大学 小菅敦丈
MITテクノロジーレビュー主催の「Innovators Under 35 Japan Summit 2021」から、東京大学大学院の小菅敦丈氏のプレゼンテーションの内容を要約して紹介する。 by Koichi Motoda2022.01.05
MITテクノロジーレビューは2021年12月16日、「Innovators Under 35 Japan Summit 2021」を開催した。Innovators Under 35は、世界的な課題解決に取り組む若きイノベーターの発掘、支援を目的とするアワード。昨年に続き2 回目の開催となる本年度は、35歳未満の起業家や研究者、活動家など15名のイノベーターを選出した。
その受賞者が集う本サミットでは、各受賞者が自らの取り組みへ対する思いや、今後の抱負を3分間で語った。プレゼンテーションの内容を要約して紹介する。
小菅敦丈(東京大学大学院)
AIはこれから社会で広く使われ、あらゆるところに自動化をもたらそうとしています。しかし、電力の危機という大きな課題に直面しています。例えば、ロボット制御のAIを開発するのに、火力発電所2基分に相当する2.8ギガワット時の電力が消費されました。なぜ、このようなことが起こるのか。AIが急速に発展する一方で、それを処理する半導体プロセッサーの進化が極めて緩やかだからです。
このギャップこそ、私たちが解決すべき課題です。私はAI同様に、それを処理する半導体プロセッサーも人間の脳を模倣したらどうなるのかを考えました。実は、人間の脳というのは半導体プロセッサーに比べて、6桁も低い電力で処理していると言われています。そこで、私は人間の脳のニューロンとシナプスの繋がりを模倣し、細かいプロセッサーを多数集積することでAI処理する、「ワイヤードロジック・プロセッサー」を開発しました。これによって、今ある半導体プロセッサーに比べて256分の1まで電力を削減できることを確認し、さらに専用のプロセッサーを作れば4100分の1まで電力を削減できることが分かりました。
私は、今後のAIによる産業革命において低電力なAIチップを研究し、ありとあらゆる産業で工場や自動車、自動建設機器、ロボットなどに適用できるシステムを開発します。
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- サイエンスライター。日本ソフトバンク(現ソフトバンク)でソフトウェアのマニュアル制作に携わった後、理工学系出版社オーム社にて書籍の編集、月刊誌の取材・執筆の経験を積む。現在、ICTからエレクトロニクス、AI、ロボット、地球環境、素粒子物理学まで、幅広い分野で「難しい専門知識をだれでもが理解できるように解説するエキスパート」として活躍。