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幹細胞技術で「髪」復活、究極の薄毛治療は実現するか?
Ms Tech | Courtesy Photo dNovo
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Going bald? Lab-grown hair cells could be on the way

幹細胞技術で「髪」復活、究極の薄毛治療は実現するか?

まやかしが多いことで知られる育毛・養毛産業に最新の遺伝子工学を持ち込むべく研究開発に取り組むスタートアップ企業が登場している。細胞を遺伝子操作して再プログラミングすることで薄毛を治すという。 by Antonio Regalado2022.01.20

昔から存在する脱毛症の問題に、最新の遺伝子工学の進歩を応用するスタートアップ企業がいくつか登場している。髪の毛を形成する細胞を新たに作り出すことで、髪を生やす能力を回復させられるかもしれない。

一部の研究者たちは、この手法を使って、研究室で人間の髪の毛の細胞を培養しているだけでなく、動物を使った実験もしているとMITテクノロジーレビューに述べている。スタートアップ企業のデノボ(dNovo)は、人間の毛が密集して生えているマウスの写真を送ってくれた。ヒト毛包幹細胞を移植した結果だという。

デノボの創業者は、スタンフォード大学出身の生物学者であるエルネスト・ルハン博士だ。ルハンCEO(最高経営責任者)によれば、デノボでは血液や脂肪など普通の細胞を、遺伝子操作で「再プログラミング」することにより、毛包の構成成分を作り出せるという。さらなる研究が必要だが、最終的にはこのテクノロジーによって「抜け毛の根本原因」を治療できる可能性があるとルハンCEOは考えている。

私たちが生まれた時に持っている全ての毛包は、その後もずっとなくなることはない。しかし、加齢やがん、テストステロン(男性ホルモン)、遺伝的な不運、さらには新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などにより、毛髪を作る毛包の中の幹細胞が死滅してしまう場合がある。一旦この幹細胞を失えば、髪の毛も失ってしまう。デノボでは、細胞の中で機能してる遺伝子のパターンを変化させることで、どんな細胞でも直接毛髪幹細胞に変えられるという。

「生物学では、細胞は不変の存在ではなく、『状態』として理解されています」と、ルハンCEOは言う。「私たちは、ある状態にある細胞を別の状態へと変化させられます」。

細胞を再プログラミングする

髪の毛を回復する可能性は、細胞を再プログラミングするテクノロジーによって老化の症状に打ち勝てるかどうかという、より広範囲な探求の一角にすぎない。MITテクノロジーレビューは2021年8月に、秘密のベールに包まれた企業であるアルトス・ラボ(Altos Lab)が、細胞の再プログラミングを使って人を若返らせることが可能かどうかを研究する計画であると報じた。別のスタートアップ企業であるコンセプション(Conception)は、血液をヒト卵細胞に変えることで受胎能力を拡張しようとしている。

こうした研究のカギとなるブレークスルーが起こったのは、2000年代前半のことだった。京都大学の山中伸弥教授のチームが、どのような種類の組織でも、胚の中にあるのと同様の強力な幹細胞(iPS細胞)に変えられる簡単な方法を見つけたのだ。 …

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