KADOKAWA Technology Review
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元祖「メタバース」、
170年前のロンドン万博に
学べること
Amrita Marino
コネクティビティ Insider Online限定
The metaverse is a new word for an old idea

元祖「メタバース」、
170年前のロンドン万博に
学べること

ここ1年ほどで急速に有名になった「メタバース」のアイデアは決して新しいものではない。根幹をなす「バーチャル世界の構築」というアイデアは、1851年のロンドン万博やその後のシカゴ万博にさかのぼることができる。そこから学べることは何か。 by Genevieve Bell2022.02.14

私はこれまで、シリコンバレーを中心に、多くのキャリアを積んできた。その中で主張してきたのは、すべてのテクノロジーには歴史があり、前史さえ存在するということ。そして、テクノロジーの歴史に関する物語は整然としたものとは程遠く、実際には、歴史の語り手や歴史の持つ意味が競合する、乱雑な争いや葛藤があるということだ。

ここ1年以内でニッチな言葉から広く知られるようになったメタバースは、その好例といえるだろう。この変化は2021年7月に、フェイスブック(2021年10月に社名をメタ=Metaに変更)が今後10年間、メタバースの実現に注力することを発表したことから始まった。同社のコンセプトによるとメタバースとは、ソーシャルメディア、オンラインゲーム、AR(拡張現実)、VR(実質現実)を組み合わせた、没入感のある豊かなデジタル世界を意味する。フェイスブックの創業者であるマーク・ザッカーバーグは、「メタバースの決定的な性質は、自分がいる場所とは違う場所で、離れたところにいる人と、あたかも一緒にいるように感じられる臨場感でしょう」と書き、「私たちは今後10年以内に、メタバースにユーザーが10億人に達し、数千億ドルのデジタル商取引が実施され、数百万人のクリエイターや開発者の雇用を支えることを目指しています」と今後の展望を語った。

2021年12月までには、マイクロソフト、インテル、クアルコムなど、さまざまな米国の大手テック企業が、それぞれ独自のメタバース計画を明言するようになった。2022年1月にコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)が開催される頃にはあらゆる企業が、どんなにあり得ないことや平凡なことに対しても、メタバースの視点を取り入れたようだった。例えば、自分だけの気候を作り出すエアコン機能付きの「ハプティック(触覚表現を作り出す)・ベスト」、アバターの美容メイク、バーチャル・ホームへのバーチャル配送車といったものだ。

メタ(旧フェイスブック)については多くの議論がなされている最中であり、日常生活に大きな影響を与えるソーシャルメディアとして、現在複雑な立場に置かれている。技術的な能力、ユーザー体験、ビジネスモデル、アクセス、規制などの観点から、メタバースがどのような形態を取りうるか、あるいは取るべきかということについても、より広範に議論されている。さらに、どのような目的で、どんなニーズを満たすかということについても静かに語られている。

このような話し合いをするのはよいことだ。しかし、メタバースとは何であるかとか、メタバースは誰によって作られるのかについてだけ話していては、重要な点を見過ごしてしまうことになるだろう。そもそも「メタバースはどこから来たのか」という問いを、文字通りの意味でも、それを実現する考え方という意味でも、一歩下がって考えてみる必要がある。もし、本当にメタバースが誰かによって発明されたのだとしたら、いったい誰が発明したのだろうか。また、メタバース以前に構築された、想像上の、拡張された世界、あるいはバーチャル世界についてはどうだろうか。これらのことから、メタバースの危険性や可能性、そして、メタバースをどのように実現するかについて何かを学ぶことができるだろう。

あるテクノロジーをまったく新しいものとして、あるいは少なくとも長く複雑な歴史にこだわることなく、ストーリーを語ることは容易であり、魅力的だ。このように考えると、未来というのは、現在や過去と密接に関連したものというよりも、むしろ再発明と可能性の空間であると言えるだろう。しかし、歴史は単なる裏話ではない。歴史はバックボーンであり、設計図であり、そしてすでに踏破された領域への地図なのだ。テクノロジーの歴史や、テクノロジーの実現を支える考え方を知ることにより、我々が考えるべきより良い問いが生まれる。そして、潜在的な落とし穴や、これまで人々が学んだ教訓が明らかとなると同時に、これらの教訓を学んだ人々の人生を知る窓が開かれる。メタバースも例外ではない。メタバースは見た目ほど新しくはないのだ。

では、メタバースはどこから来たのだろうか。一般的かつ整理された明確な答えは、1992年に発表されたニール・スティーヴンスンのSF小説『スノウ・クラッシュ』から来ているというものだ。この小説では、ソフトウェアと世界規模の光ファイバーネットワークによって実現された、コンピュータが作り出すバーチャル世界が描かれている。スノウ・クラッシュの舞台となっている21世紀のロサンゼルスでは、社会的不公平や、性差別、人種差別、城門のあるコミュニティ、監視、超資本主義、熱狂的な巨大企業、腐敗した警察などが蔓延し、世界は混乱している。もちろん、この小説で描かれているメタバースも混乱しており、社会的不平等や超資本主義が蔓延している。

しかし、誰もがメタバースに参加できるわけではない。メタバースに参加できる人々にとって、メタバース上での体験の質は、帯域幅、電力、計算能力を確保できる高性能なコンピューターなどを揃える能力や資産を持ち合わせているかどうかで決定する。これらを持っている者は、個々のユーザー専用に設定され、精巧に作られたデジタル・レンダリングを手に入れられる。そうでない人は、「ブランデー」や「クリント」などの既製品を購入して、シンプルな平面のスケッチを得ることしかできない。スノウ・クラッシュを読んだ多くの人がこの小説を、単に最先端のSFとしてではなく、終末期にある資本主義やテクノ・ユートピアの今後の展望に対する批判として捉えたことは驚くべきことではない。

スノウ・クラッシュが出版されてから30年が経過し、ソーシャル・ネットワークや人工知能(AI)など、この小説の作者であるスティーヴンソンが描くバーチャル世界の基盤の多くが現実のものとなった。そして、メタバースは、伝統的なサイバーパンク小説であるスノウ・クラッシュの中で予見された他のものと同様に、より広い範囲において継続的に話題となっている。最近ではメタバースは、『レディ・プレイヤー1』や『フリー・ガイ』などの映画にも登場している。そしてメタバースは、現在私たちが置かれているデジタルの世界の多くを形作ってきた。しかしメタバースには、スノウ・クラッシュとその再構築だけでなく、もっと多くのものがあるのではないかと思う。

実際、今日のメタバースをめぐる議論は、20年近く前に発表されたバーチャル世界、「セカンドライフ(Second Life)」に関する会話を思い起こさせる。セカンドライフは、フィリップ・ローズデールが創業したリンデン・ラボ(Linden Lab)により2003年に立ち上げられた。スノウ・クラッシュにインスパイアされた点について、ローズデールは非常に明確に語っている。しかし、ローズデールは、1990年代後半にバーニングマン(Burning Man、米国で開催される大規模野外イベント)に参加したことが、バーチャル世界やそこに住む人々、そこでの倫理観についての考えを大きく変えることになったとも語っている。

セカンドライフは、「ユーザーが創造し参加できるオンライン3D世界」である。セカンドライフは当時、大きな成功を収め、ニュースの見出しを独占し、話題の中心となった。企業やブランドがこの新たな領域であるセカンドライフ内での地位を確立し …

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