米国最大規模の油田で大量のメタン排出、従来予測の2倍
米国の主要な石油生産拠点周辺での新たな大気測定によると、従来の予測値を大幅に上回る大量の温室効果ガスが2018年から2020年にかけて排出されていたことが分かった。 by Casey Crownhart2022.03.30
米国で最大規模かつ最も急速に成長している石油生産拠点の1つで、従来の測定値よりもはるかに多くのメタンが排出されていることが新たな調査で分かった。石油や天然ガスの生産では、地下に溜まったメタンが油井やパイプラインから漏出し、ガス抜きやフレアリング(随伴ガスの焼却)などによって意図的にメタンを放出することもある。こうしたことから、石油や天然ガスの生産が強力な温室効果ガスの発生源であることはよく知られていたものの、米ニューメキシコ州のパーミアン盆地で実施された大気測定では、従来の予測値よりも実際には多くのメタンが大気中に漏出していることが判明した。
メタンは、重要な温室効果ガスである。二酸化炭素に比べて大気中に存在する量が少なく、排出後の寿命も短いものの、熱を地表に閉じ込める能力はおよそ86倍もあるからだ。3月23日に発表された新たな研究成果によると、パーミアン盆地では1時間に約194トンのメタンガスが排出されているという。この数字は、同地域の総天然ガス生産量の約9%に相当し、従来予測の2倍にあたる。
ニューメキシコ州とテキサス州にまたがるパーミアン盆地は、メタンガスが多く排出されるホット・スポットとしてよく知られており、研究者や環境保護団体が長年にわたって観測を続けてきた。これまでの鉄塔に設置した機器よる地上観測や人工衛星による測定では、パーミアン盆地から漏出するメタンガスの排出量は同地域の天然ガス生産量の4%未満とされていた。
スタンフォード大学エネルギー資源工学プログラムの大学院生で、今回の論文の著者の一人であるユアンレイ・チェンは、「私たちは当初、その規模の大きさに驚きました」と述べる。
新たな研究では、航空機による大気測定を実施し、これまでの地上調査の約100倍の範囲を網羅した。航空機は、ニューメキシコ州内の稼働中の油井やパイプラインの上空を飛行し、15カ月間で1985のメタンプルームを観測した。
調査では、予想以上の高レベルのメタン漏れが発見されたほか、極めて大量の温室効果ガスを排出する場所も複数特定されている。航空機が検出したメタンプルームのわずか5%が、測定された全メタン排出量の半分以上を占めていた。
今回の調査結果は、石油・ガス生産者に対するメタンガス規制の強化を求める声に拍車をかけるものだ。データが収集された2018年から2020年当時は、石油の生産量が急速に増加していた時期であり、パーミアン盆地における規制も現在より緩かった。ニューメキシコ州では最近、余剰天然ガスの日常的なフレアリングを禁止する法律が可決された。米国の環境団体・環境防衛基金(EDF: Environmental Defences Fund)のジョン・ゴールドスタイン上級政策部長は、テキサス州などの他の産油州で排出量を削減するには、さらに強力な連邦政府の政策が必要だと述べる。
いずれにせよ、今回の調査結果は、包括的な調査を実施することによって、メタンガス排出の現状を明らかにすることができることを示している。パーミアン盆地のような主要な石油・ガス盆地でさえも、メタンの排出は十分に把握されていない。各国政府が温室効果ガス排出量を目指す中、問題点を特定することは、最初の一歩として有効だろう。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。