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「人新世」の幻想——人類が作り出した「自然」を捉えた写真
Zed Nelson
The Anthropocene illusion

「人新世」の幻想——人類が作り出した「自然」を捉えた写真

ゼッド・ネルソンの写真は、自然がいかにしてキュレーションされた体験へと変貌を遂げたかを捉えている。 by Allison Arieff2025.06.26

ロンドンを拠点とするドキュメンタリー写真家のゼッド・ネルソンは、6年間にわたって四大陸を旅し、人類が自然界との破壊的な断絶を覆い隠すために、いかにしてますます人工的な環境に身を浸すようになっているかを探ってきた。

テーマパークや動物園から国立公園、アフリカのサファリに至るまで、あらゆる場所を捉えた彼の写真は、私たちが背を向けてきた世界との繋がりを求める切実な渇望だけでなく、否認や集団的自己欺瞞という世界的現象も浮き彫りにしている。

「人々はかつて、未知や異国のものを見るためにそこに群がっていたかもしれない。しかし今では、もはやそこに存在しないもの、絶滅の危機にあるもの、私たちが失ってしまったものを見るために訪れているのかもしれない」。

泉城海洋極地世界(中国・山東省)
Zed Nelson
ワールド・オブ・ウォーター(英国・ワトフォード)
Zed Nelson

ネルソンは新たな写真集『The Anthropocene Illusion(人新世の幻想)』(未邦訳)の中で、「地球の歴史のほんの一瞬に過ぎない期間に、私たち人類はこの世界を、数千万年の間経験したことのないほどに変えてしまった」と記している。

彼の写真は、誰も実際に体験したことのないエデンの園のような自然の幻影を創り出そうとする、ますます無益になりつつある試みを記録している。地球上の野生動物の個体数は過去40年間で半減しており、その減少傾向は衰える気配を見せていない。私たちは動植物の生息地を奪うことで、それらを絶滅へと追いやっている。

未来の地質学者は、おそらく地層の中に、人類が地球に及ぼした前例のない影響の証拠を発見するだろう。大量のプラスチック、化石燃料の燃焼による放射性降下物、都市建設に用いられた莫大な量のコンクリート堆積物などである。

a chimpanzee on a rock in a paved enclosure where a wall mural has been painted to look like a landscape
上海野生動物園(中国)
Zed Nelson

しかし、私たちの心の奥底には、自然との触れ合いを求める思いが依然として存在している。だからこそ私たちは、ネルソンの言う「演出され、人工的に作られた自然の『体験』、安心感を与えるスペクタクル」の達人となったのだ。

ネルソンは著書のあとがきで、「チャールズ・ダーウィンは人類を単なる種の一つに分類し、生命の壮大な樹の一枝に過ぎないとした」と記している。「しかし今、パラダイムシフトが起き、人類はもはや単なる種ではなくなった。私たちは、生きた地球の生物学的・化学的構造を意図的に作り変えた最初の存在となった。私たちはこの惑星の支配者となり、地球上の生命の運命に不可欠な存在となった。自然を模した環境に囲まれて生きることは、皮肉にも、私たちが失ってしまったものへの無意識の記念碑なのだ」。

ヨセミテ国立公園(カリフォルニア州)
ZED NELSON
トロピカルアイランドのリゾート地、クラウスニック(ドイツ)の熱帯雨林
ZED NELSON

ジョン・ムーアレムは、野生動物と人間との関係についての文化史『Wild Ones(ワイルド・ワンズ)』(未邦訳)の中で、「私たちは荒野のいたるところで白い手袋をはめて交通整理をしている」と述べている。

 

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アリソン・アリエフ [Allison Arieff]米国版 雑誌責任編集者
 
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