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存在しなかった
「アフリカ・パラドックス」
最新研究が示す新事実
Jason Mulikita
生物工学/医療 Insider Online限定
How a Zambian morgue is exposing the real covid toll in Africa

存在しなかった
「アフリカ・パラドックス」
最新研究が示す新事実

アフリカで新型コロナウイルス感染症の死者が少ない「アフリカ・パラドックス」は、以前から謎だとされていた。だが、最新の研究で、実はアフリカでも新型コロナで多くの死者が発生していたことがわかってきた。 by Jonathan W. Rosen2022.04.26

ザンビアの首都ルサカの中心部に近い、広大なレンガ造りの大学教育病院(UTH:University Teaching Hospital )の死体安置所は、快適に臨床研究ができる場所とは言い難い。広々とした内部には、運ばれてきたばかりの数々の遺体が、金属製のキャスター付きテーブルやコンクリートの床に、毛布にくるまれて無造作に置かれている。野外のラックに積み上げられたまま、何カ月も引き取り手のないままになっている遺体もある。ひどい悪臭が漂っている。

しかし、この場所で、ザンビア最大の病院の多くの死体に囲まれて、パンデミックに関する以前からの謎の1つを、研究者たちがようやく解き明かそうとしている。その謎とは、なぜアフリカは、他の地域で発生したような大規模な死亡者の発生を免れることができたのかということだ。そして、徐々にわかってきた答えは、免れられていなかったということだ。

このことは、ある新しい研究論文が主張している(まだ査読は受けていない)。この主張は、死体をもろともしない調査員が、鼻腔用綿棒を用いて実施した死体の検査に基づいている。この検査結果は、ルサカやアフリカの多くの地域で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死亡が大幅に過少評価されてきたことを示す、おそらくこれまでで最も強力な臨床的証拠となるものだ。

2021年1月から6月にかけての検査で、安置所の死者の32%が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性であることを、同論文の研究チームは見い出した。ザンビアの新型コロナの大波があった6月の1週間には、陽性率は82%に上昇した。その多くは治療を受けることなく自宅で死亡しており、生存中に陽性と判定されたのは10%未満であった。生存中に陽性と判定されることは、保健当局が公式なコロナによる死者数に加えるために必要な基準である。

新型コロナウイルスに感染していた死者の中には、同ウイルスとは無関係の原因で死亡した人もいたと思われる。だが、親族への聞き取り調査や、亡くなる前に新型コロナに似た症状で治療を受けた人の記録から、陽性反応を示した成人の死者の約70%が「おそらく新型コロナにより死亡した」または「新型コロナにより死亡した可能性がある」と推定される。

東部アフリカと南部アフリカの交差点にある人口350万人の都市ルサカは、約14億人の人口のあるアフリカ大陸を完璧に代表するものではないかもしれない。だが、研究論文の著者らは、この研究結果がアフリカの他の国々においても増えてきている各推定値とも一致していると強調し、アフリカの真のコロナ犠牲者が著しく過少評価されている可能性があると考えている。

ボストン大学公衆衛生学部の感染症専門家で、この研究の主執筆者の一人であるクリストファー・ギル准教授は、「この研究は、新型コロナウイルス感染症はアフリカでは流行しなかったという神話を否定するものです」と述べる。

「アフリカ・パラドックス」

パンデミックの初期には、アフリカで資金が不足した医療体制がパンクすることが懸念された。国連による2020年4月のある報告書は、2020年だけで30万から330万人のアフリカ人が死亡すると予測していた。

しかし、新型コロナウイルスとその変異株が世界中に広がる中、HIV/AIDS、マラリア、結核で毎年100万人以上が亡くなっているアフリカは、驚くほど耐性があるように思われた。インペリアル・カレッジ・ロンドンの疫学者であるオリバー・ワトソン客員研究員は以前、アフリカでは国際便の数が比較的少なく、一連の厳しい封鎖措置が新型コロナウイルスの蔓延を抑えるのに役立ったようだと述べていた。しかし、ほとんどの封じ込め措置が緩和され、新型コロナウイルスが広く流行していることが抗体研究によって明らかになった後も、死亡率は予想をはるかに下回るままであった。2022年4月7日現在、アフリカの54カ国は、25万1516人の公式な新型コロナによる死亡を記録したのみである。世界人口の18%を占める大陸であるが、新型コロナによる死亡は世界全体の4.1%に過ぎない。

この「アフリカ・パラドックス」は、当初からさまざまな憶測を呼んでいた。このパラドックスを説明しようとして、アフリカは世界で最も都市化が遅れている大陸であり、年間を通じて屋外での集会が可能な気候であることを指摘した人々がいる。また、人口構成が若いことも指摘された。アフリカの年齢の中央値は20歳未満であり、高齢者を最も苦しめる新型コロナに対する回復力が高い可能性があるというのだ。ウガンダで新型コロナへの対応を主導してきた呼吸器科医のブルース・キレンガのように、アフリカの人々の集団の一部は、遺伝的に新型コロナに対する脆弱性が低いのではないかと考える人たちもいる。アフリカの熱帯地方に特有のウイルスや寄生虫など、さまざまな病原体に生涯さらされることで、重度の感染から身を守る免疫力が備わるのではないかと推測する者もいる。

これらの説明の多くは依然としてもっともらしく聞こえ、アフリカの比較的に若い人口が実際には重要な要因であると考えている疫学者も多い。しかし、アフリカで新型コロナが流行しなかったという基本的な理解は、国レベルの公式死亡数がおおむね正しいという、現実的でない仮定に基づいている。専門家によれば、資源の乏しい環境においては、何世紀も前から存在する病気でさえ、その数が大幅に過少カウントされていることがしばしばあると言う。WHO(世界保健機構)によると、マラリアによる推定死亡者数のうち、国の公式統計で把握されているのは4分の1以下である。診断されていないケースや、死亡自体が報告されていないケースがあるためだ。

新型コロナでも同じようなことが起こった可能性がある。アフリカ疾病対策予防センター(Africa Centres for Disease Control and Prevention)によれば、パンデミックが始まってから2年以上が経過した現在、アフリカ人は平均で13人に1人しか検査を受けていない。アフリカで最も人口の多いナイジェリアでは、検査を受けた人数は40人に1人未満である。

多くの中・高所得国では、疾病調査に明らかに誤差がある場合、超過死亡数(例年の死亡数を上回る死亡数)の推定値が、パンデ …

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