KADOKAWA Technology Review
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ノーベル賞受賞者
ダウドナ教授が語った
CRISPRの未来
Christopher Michel
生命の再定義 Insider Online限定
The scientist who co-created CRISPR isn’t ruling out engineered babies someday

ノーベル賞受賞者
ダウドナ教授が語った
CRISPRの未来

クリスパー(CRISPR)の共同開発者としてノーベル賞を受賞したUCバークレーのジェニファー・ダウドナ教授は、CRISPRの進む未来をどう捉えているのか? 本誌の質問に答えた。 by Antonio Regalado2022.04.27

遺伝子編集技術「クリスパー(CRISPR)」の共同発見者であるジェニファー・ダウドナ教授と話をした日は、同教授にとって大変な1日だった。米国特許庁が、クリスパー(CRISPR)の最も重要な用途についてダウドナ教授の大学に不利な裁定を下し、マサチューセッツ工科大学(MIT)とハーバード大学が共同運営するブロード研究所のライバルたちに商用権を渡したばかりだったからだ。

ダウドナ教授らの最初のブレークスルーから10年経った今、クリスパーはヒト臨床試験に向かって進んでいる。診断や遺伝子操作植物の分野では応用事例が広がっており、研究者たちはすでに、鎌状赤血球病、失明、肝疾患などの治療法となる可能性を探っている。ダウドナ教授は2020年に、仲間の科学者エマニュエル・シャルパンティエ教授とノーベル賞を共同受賞した。2人は、化学分野で同賞を受賞した6人目と7人目の女性となった。

ダウドナ教授はカリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)のイノベーティブ・ゲノミクス研究所を率いており、研究所ではクリスパー・システムが分子レベルで機能する詳細な仕組みに焦点を当てた研究が続けられている。同教授は、この汎用性の高い遺伝子編集の絶大なパワーと、そのテクノロジーがもたらす可能性のあるマイナス面を、おそらく誰よりも一般に伝えてきた。こうしたクリスパーの光と影について、また、ノーベル賞受賞者にもかかわらず、重要な特許が他人に渡る可能性があるという法制度の驚くべき現実について、ダウドナ教授に話を聞いた。

——2月28日に、クリスパーをめぐる長年の特許訴訟で、特許庁がUCバークレーに不利な裁定を下しました。それについてどのようにお考えですか? 

到底納得できない裁定です。しかし、米国内の45件の発行済特許と40件の出願中特許はすべて私たちのものであることは、嬉しく思います。それに、欧州における私たちの30件の特許は、今回の裁定の影響を受けません。そして実際のところ、ご覧の通り、私は研究を続けています。

——私は常々、この特許争いの原点はお金ではないと考えています。これほど激しく争われた理由を私なりに解釈すると、商業的な支配をめぐる争いではなく、誰が科学を実行したのかという信用をめぐる争い、そして真実をめぐる 争いだったのではないでしょうか。

それはあなたの憶測でしょう。簡単には説明できませんよね。他の人の動機がどんなものであったのかは分かりませんが、間違いなく控訴することになるでしょう。言うまでもなく、私たちは今回の判断に同意していません。最初に誰が何を発明したのかということについて言うならば、30カ国とノーベル賞委員会も同意しないのは明らかです。

——ノーベル賞を受賞しても、その特許が別の所に行ってしまう可能性があるという特許制度の運用方法について、今回の件から言えることはありますか? 人々は納得するのでしょうか?

私にとっては本当に納得できないことです。他の人たちが納得するかどうかはわかりません。科学界では、今回の出来事について疑問視する声はあまりないように思います。

——スティーブ・ジョブズやレオナルド・ダ・ビンチの伝記も書いたウォルター・アイザックソンの本の題材になりました。自分の伝記に登場するのは、どんな感じでしたか?

正直に言えば、恐縮して、少し怖く感じました。でも、ウォルターのように才能ある人がこの物語に興味を持ってくれたことは、幸運だったと言わざるを得ません。彼はすばらしい作家ですから。クリスパーによって起こった驚くべき変革の一翼を担ったという、私たち全員が抱いた感情を表現しよう …

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