KADOKAWA Technology Review
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IPCC報告書執筆者に聞く
気候変動で高まる
イノベーションの必然性
写真:是枝右恭
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More innovation is needed to mitigate climate change

IPCC報告書執筆者に聞く
気候変動で高まる
イノベーションの必然性

人間活動による地球温暖化は「疑う余地がない」。2021年8月、国連の専門家組織は、初めてそう断言した。この報告書のうち、産業分野の取り組みについての執筆を担当したのが、科学者の田中加奈子氏だ。「この10年のイノベーションがカギ」とと話す田中氏に、気候変動の緩和におけるイノベーションの必要性や産業分野の取り組みについて産業界が持つべき視点について尋ねた。 by Noriko Egashira2022.09.16

気候変動問題に関する科学的知見を集めることを目的とした国際組織がIPCC(IntergovernmentalPanelonClimateChange:気候変動に関する政府間パネル)だ。1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)によって設立され、現在195カ国が加盟している。各国の政府から推薦された科学者が参加し、地球温暖化に関する科学的・技術的・社会経済的な評価を実施し、1990年から5~7年の間隔で報告書にまとめている。各国政府の承認を経て発表されるため、信頼し得る報告書として、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)会議などに多大な影響を与えている。執筆を担当した田中加奈子氏は「中でも同報告書『政策決定者向け要約』は、執筆者である科学者と各国政府の代表団がずらりと並んで内容を一言一句確認していくもので、国際交渉ひいては世界全体のさまざまな温暖化に対するムーブメントを、国際レベルで作っていくための礎になる」と報告書の役割を話す。

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第4次報告書(2007年)からは産業界からの積極的参加が見られ、第6次報告書(2021年)では執筆への関わりも増えた。「実業に携わる人たちがIPCCを通じて地球温暖化をしっかり自分事として捉えてきているように感じる」と田中氏は振り返る。第6次報告書で注目されたのは、「人間活動が気候システムの温暖化および広範で急速な気候変化をもたらしてきたことは、疑う余地がない」と断言していることだ。

「第6次報告書ではデータも増え、より高精度に短期間でのシミュレーションも可能となり、温暖化のエビデンスが増えてきました。そのため以前の報告書では、『人間活動が急速な気候変化をもたらした可能性が高い』という表現でしたが、今回は『疑う余地がない』と、だいぶ強まっています」

IPCCは、評価対象ごとに分けられた3つの作業部会で構成されている。第1作業部会は自然科学的根拠、第2作業部会は影響・適応・脆弱性について報告。そして田中氏が長く作成に携わってきた第3作業部会は、気候変動の緩和について報告している。その第3作業部会の報告書だけでも、65カ国から278人の執筆者が参加するなど相当な規模で作られている。女性比率も年々高まっており「ESG

(環境・社会・ガバナンス)的な観点でもいい方向に進んでいる」(田中氏)という。

では、直近の報告書では現状をどう捉えているのか。第3作業部会の報告書では、世界における温室効果ガスの排出量の変化をまとめている。それによると、2010~19年の年平均温室効果ガス排出量は、人類史上最も多かった。また上昇度合いは緩やかになったものの、依然として増加傾向だとしている。温室効果ガス排出量の将来予測については世界の研究者が発表している1600以上のシナリオを温暖化の水準に応じて分類し提示している。

その1つ、温暖化を産業革命前に比べて1.5°C上昇までに抑えるには、温室効果ガス排出量を2025年までにピークアウトさせ、2030年までに43パーセント削減する必要がある。2°C程度に抑えるには2030年までに27パーセント削減が必要。そして、2020年12月までに実施された政策のまま緩和努力を強化しない場合は、3.2°Cの地球温暖化をもたらすストーリーも存在する。現存するものと計画中の化石燃料を利用するインフラからだけで、2015年のパリ協定の努力目標である「1.5°C削減目標」はすでに超過してしまうとの厳しい見方もしている。

第5次報告書から続けた視点として「消費エネルギー当たりの排出量」「必要材料量当たりのエネルギー消費量」など1つ1つの排出要因を整理して、それぞれどういう緩和策があるかをまとめ、各セクターで排出量削減の可能性があることも示している。たとえば、前者では燃料転換やバイオマス利用、炭素隔離であり、後者では断熱や機器効率の向上である。生産効率、資源・物質効率という点ではリユース、リサイクルなどもある。そして「テクノロジーは確実に進歩し、普及している」ことを提示。田中氏はコストが格段に下がった太陽光発電を例に挙げて「汎用化されていくと開発費は抑えられていく」と言い、同時に「2030年までの平均年間投資必要額は、現在のレベルの3~6倍」とさらなる投資の重要性も指摘する。

「2050年のカーボンニュートラル社会に向けて目指すのは、化石燃料を使わずに再生可能エネルギーを使うということ。物質効率向上も進め、一層の省エネをしなくてはいけません。ただ、実際の将来の社会はそれだけでなく、いろんな問題が起きるでしょう。高齢社会となり就業人口が減り、人口構造も就業構造も変わり、人工知能(AI)やロボットの高度利用も考えられます。ウクライナ問題の影響などで今回顕在化しましたが、エネルギーや資源調達の変化も起きるかもしれません。そしてコロナ禍で経験しているように自宅にいながら何でもできるというような生活の変化もあるでしょう。ですから温暖化の視点から『目指すこと』だけを見ていてもだめで、温暖化以外でも『起きること』も合わせて考えることが非常に大事です。『ありうる変化』としては、大規模な電化、材料や製品需要の変化、ライフスタイルや価値観の変化です。

今見えていない変化は誰にも分かりませんが、私はこの10年の技術開発とイノベーションがカギだと考えています。テクノロジーは研究室レベルでモノになってから社会で実装されるまでに30年以上かかることも多いです。ですから、2050年 …

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