EVだけじゃない、中国が「メタノール車」普及にも本腰
中国政府は、メタノールを燃料とする自動車の普及に本腰を入れ始めた。メタノールは従来の燃料と同じくらい強力でありながら、より環境にやさしい。だが、普及させるにはいくつかの課題がある。 by Zeyi Yang2022.10.06
中国政府は、2030年までに二酸化炭素(CO2)排出量をピークアウトし、2060年までにカーボンニュートラルを実現するという野心的な目標を掲げ、電気自動車の採用において世界を牽引している。だが、政策として取り組んでいる環境にやさしい自動車の選択肢は、それだけではない。
中国の工業情報化部は2022年9月16日、「メタノール自動車の普及を加速させ」「グリーン・メタノール + メタノール自動車のモデルを検討する」と発表した。その翌日、中国国家エネルギー局のチャン・フェン(張鋒)局長は、同国が「グリーン水素、メタノール、アンモニアなど、化石燃料を置き換える新たな方法を積極的に模索している」と述べた。
一般に「木精」と呼ばれるメタノールは単純な有機化学物質であり、石炭、天然ガス、バイオマスや貯留した二酸化炭素を含むさまざまな原料から製造できる。燃料としての利点は明らかだ。メタノールは、従来の燃料と同じくらい強力でありながら、より環境にやさしい。例えば、レースカーではメタノールがすでに広く利用されている。エンジンの冷却効果が高いと同時に、馬力を向上するからだ。長距離輸送など場合によっては、メタノール駆動車は電気自動車よりも手頃で信頼性が高い選択肢になり得る。
マサチューセッツ工科大学(MIT)プラズマ科学核融合センターの主席研究員、レスリー・ブロムバーグ博士によると、メタノールエンジンは「ディーゼル排気の問題を起こすことなく」ディーゼルエンジンと同等の効率を達成できるという。ブロムバーグ博士は、米国内の交通運輸にメタノールを使用する可能性について研究してきた人物だ。
中国は10年間にわたって、汚染が少なく、化石燃料への依存が少ない未来へ自動車産業を移行する方法としてメタノール燃料の議論を重ね、試験的に運用してきた。だがその本格的な採用は、長らく遅れている。
現在、中国は代替燃料についてより真剣な姿勢を見せ始めている。それを改めて裏付けるのが、メタノール自動車の基準を起草し、関連産業を支援した昨年の取り組みに加えて、政府の最近の動きである。中国の自動車メーカーが業界を変える新たなイノベーションを探し求める中、メタノールはようやく世間の注目を集めるようになった。電気自動車と同様に、商業的な成功を収めると同時に、中国が気候テックにかける野心を政治的に高める可能性を秘めている。
中国のメタノール活用実験
2022年9月現在、中国はメタノールのグローバルリーダーだ。世界のメタノールのおよそ6割を中国が製造し、国内で使用している。これまでのところ、その大半はプラスチック製造に使われている。
中国は、2012年にメタノール車の実験を開始した。いくつかの都市で走らせるモデルの開発を自動車メーカーに奨励し、次の6年間で、メタノール車が経済および環境に及ぼす影響についてデータを収集した。そして、メタノール自動車はガソリン自動車と比較して、二酸化炭素排出量を26%減らしながらエネルギー効率を21%高めることができるとの結論を出した。
その試験段階の後で中国政府は2019年に政策を発表し、特に公共交通機関、タクシーおよび政府車両のためのメタノール燃料支援を確約した。
世界的な貿易協会であるメタノール・インスティチュート(Methanol Institute)で中国代表を務めるザオ・カイは、メタノールがトラックのような、大型長距離輸送車両のための燃料として魅力的な選択肢でもあるという。現在の電気トラックは大型バッテリーを必要とするために、従来のトラックよりもはるかに高価だ。だがメタノールトラックは、従来型トラックと同様のエンジンを使用するので、ほぼ同じ費用で購入することができる。
「中国で道路を走り、小包を配達しているトラックの大半 …
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