KADOKAWA Technology Review
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ためらいは絶滅につながる
「動物のための歩道橋」は
生物多様性を保全できるか
Andrew Merritt
持続可能エネルギー Insider Online限定
Inside the experimental world of animal infrastructure

ためらいは絶滅につながる
「動物のための歩道橋」は
生物多様性を保全できるか

野生生物横断路は車にひかれる生物を減らすが、横断路が本当に生物保護に貢献しているという確定的な研究はまだない。だが、あっというまに絶滅してしまう種がある現代、研究が終わるまで待っている余裕はない。 by Matthew Ponsford2023.01.23

2000年代の半ば、オランダ中部の緑豊かな歴史ある町エーデ近郊のヒキガエルは、悲惨な最期を迎えていた。見かねた地元住民たちは、救助に乗り出した。町は毎年春の数週間、ヒキガエルが南にある冬の生息地から、北の3つの池にある繁殖地を目指して横断する道路に沿って、1キロメートルほどの仮設フェンスを建てた。ヒキガエルは障壁にぶつかると、横に跳びはねて数メートル進み、やがてフェンス沿いに仕掛けられた36個の落とし穴(バケツ)の1つに落ちた。

毎日、ボランティアがせっせとバケツに落ちたヒキガエルを、道路の反対側に運んで放した。人間のために造られた世界における両生類の苦境を和らげる、原始的で少々骨の折れる方法だった。とはいえ、それはエーデの住民がいぼだらけの隣人たちに喜んで提供した生命線だった。世界中の他の多くの種と同様にヒキガエルも、慣れ親しんだ環境が人間のインフラによって分断されたために、摂食、繁殖、移動が困難になっている。

その後に起こったことは、生態学者とエコロジカル・デザイナーが作る小さな国際的コミュニティにとって、訓戒的な説話といった雰囲気を帯びてくる。数年経つと、エーデは仮設の障壁を常設にし、36個のバケツの代わりに道路の下を通る2本の野生生物用トンネルを作ることにした。生態学者のエドガー・ファン・デル・グリフトや他の科学者が変化を観察していると、地下道は明らかにヒキガエルの人気を得ていた。多くのヒキガエルが喜んで繁殖地の池に向かって跳ね、2019年の研究には途中で交尾するヒキガエルさえもいたと記されている。

しかし、この地下道という新しいインフラがヒキガエルの個体群に及ぼす影響を調べた研究者は、その結果に危機感を募らせた。「激減していたのです」。野生生物横断用建造物に関して世界をリードする専門家のファン・デル・グリフトは言う。「5、6年で、個体数が一万匹超から千匹未満まで減少しました」。その後の数年間、ファン・デル・グリフトは、道路沿いのヒキガエルが多い場所に3本目のトンネルを作るよう町を説得してきた。しかし、エーデにおいて減少するヒキガエルの生息数を回復させる方法については、今も話し合いが継続中だ。

 

野生生物横断路を推奨する人々にとって、このような失敗のサインは必然的に広く響き渡る警鐘となる。世界各国はこういった橋やトンネルに多額の投資を始めている。米国のバイデン大統領は2021年11月に成立したインフラ投資法で、米国全土の動物用横断路へ3億5000万ドルという画期的な投資額を割り当てた。米国では、毎日約100万匹の脊椎動物が死亡していると推計されている。2022年4月には全米野生生物連盟(National Wildlife Federation)が先駆的な都市橋の建設を開始した。ロサンゼルス北部にある2つの隔絶したピューマの生息地をつなぐため、9000万ドルを投じて国道101号線の10車線を跨ぐ特別設計の「ウィルダネス(Wilderness)」だ。いち早く野生生物横断路に着手したカナダやオランダは数十年前から道路横断プロジェクト・ネットワークの中心であり、混沌とした森がアーチを描いて幹線道路をまたがっている。オーストラリア、ブラジル、中国、南アフリカが後に続き、自然な生息地が不健全でばらばらな断片になる運命を回避しようとしている。

世界中の都市で、都市化と道路建設による野生生物への影響を軽減するため、多種多様な建造物が作られている。緑化された屋上、木々が並ぶ超高層ビル、海洋生物の生息を擁護する護岸や人工的な湿地などだ。その他にも、メルボルンの絶滅の危機に瀕したフクロウのための3Dプリンターで成形したヘンプクリート(麻と石灰の混合物)製の巣箱、テキサス州の丘陵にコウモリのために作られた土製のドーム状の建物のような巨大な洞窟といった、あらゆる形態のシェルターや越冬場所がある。

しかし、こういった取り組みの効果に関するデータはまだ断片的で不明確だ。動物用インフラの中で最もよく研究され、最も多くの資金が投入されている野生生物横断路でさえ、状況は同じだ。道路生態学者は、横断路がロードキル(車両にひかれて死ぬ野生生物)を減らす上で重要な役割を果たすことは分かっているが、野生生物保護へどのような影響があるのかはまだはっきりしていない。だが、問題は緊急性を増すばかりだ。世界自然保護基金(WWF)によれば、2040年までに国連の持続可能な開発目標(SDGs)を実現するためには、97兆ドル規模の予算で、新しい道路、鉄道路線、パイプライン、送電線を大量に建設する必要があると見込まれている。それらの建設によるインフラは、実質的に2012年の2倍になるという。そうなれば、地球の生物多様性への影響はさらに高まるだろう。絶滅の危機に瀕する種の6分の1は、人間のインフラ開発によって脅かされているのだ。

野生生物横断路は、確かに成功事例のように考えられる。毎日、遠隔操作のカメラから横断路を利用する動物の画像が送信されてくる。ノロジカやキツネのように、工事完了を待ちきれず横断路を利用する慌て者もいる。オオカミやハイイログマといった用心深い頑固者は、数世代を経てようやく横断路を使うようになる。シンガポールの「マンダイ野生生物橋(Mandai Wildlife Bridge)」では、センザンコウ、サンバー、カニクイザル、オオコウモリ、セキショクヤケイ(ニワトリの近縁種)など、計70種が道路を横断している。

「開通の10秒後には動物が使っています」。オーストラリアを拠点とする行動生態学者のダリル・ジョーンズ名誉教授(グリフタス大学)は言う。同教授は、オーストラリアのブリスベンからカナダのアルバータまでの野生生物の命を奪う幹線道路と命を救う横断路の物語『A Clouded Leopard in the Middle of the Road(道路の真ん中のウンピョウ)』(2022年刊、未邦訳)の著者でもある。「現在の大きな新しい疑問であり、もっともな質問は、『それでどうなったのか』『本当に効果はあったのか』ということです」。

アムステルダムから電車で30分足らずで、オランダのテレビ産業の中心地であり歴史ある村々と中世の要塞化された集落が点在する地区であるグーイに到着する。しかし、この短い鉄道の旅では、地球上で最も集約的に作られた建造物が建ち並ぶ景観を横切ることになる。鉄道橋を渡り、船舶用の運河を越え、古代の石造りの建物の風車や現代の鉄鋼タービンの風車を横目に見ながら、オランダの自然な湿地を生産的な農地に変える干拓堤防システムによって作られた広大な田畑を通り過ぎるのだ。

野生生物横断路の限界を知ろうという人々にとって、グーイは最適な場所だ。この地域は、野生生物向けのインフラが世界中で最も密集している場所だからだ。4本の橋、2本の大きな地下道と、アナグマ、両生類、爬虫類のために張り巡らされたトンネルがあり、どれも古風で趣のある地方都市ヒルフェルスムから自動車で約10分以内に位置している。

ファン・デル・グリフトはある橋を渡りながら、キツネのフンや、アオサギ、ノロジカの群れが一列になって通った跡を指差し、その跡を毎日たどっていると話す。橋の上からは幹線道路の両側に盛り上がった土手または路肩に遮られて、下にある6車線の道路は見えない。地元のブナやトウヒの木の葉で騒音を軽減しようとしているが、あまり効果はない。横断路には、ヒキガエルが快適に飛び跳ねられる近さで池が点在している。

オランダはシカのロードキルを防ぐために、国内初の野生生物用の橋を建設した。しかし1990年代になると、オランダはより総体的な生態学に考え方を移行し始め、分断された保護地区をつなげるために橋を使うようになった。2005年、オランダ議会はオランダでMJPOと呼ばれる「デフラグメンテーション(分断解消)」を全国的な長期政策とし …

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